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企業と人権:最新版(2000年7月26日、ニューヨーク):仮訳
国連人権高等弁務官事務所によるグローバル・コンパクト会議のための準備作業


企業と人権:最新版(目次)
I.緒言
II.人権発展へ向けた国連活動
 国連安保理
 コペンハーゲン+5レビュー
 人間開発報告書2000年度版
 国連人権高等弁務官事務所
 国連特別報告者と独立専門家
 人権の保護及び促進のための国連小委員会
III.法的及び政策的な発展
 労働組合/企業のイニシアティブ
 世界銀行視察パネル
 OECDの多国籍企業行動指針改訂版
 国内裁判所と国際的義務
IV.次なる段階




企業と人権:最新版(本文)

I.緒言

2000年上半期で既に見えてきたことだが、人権の促進及び保護についての企業社会の役割は、新世紀に向けて急速に形成されてきている。ヒトゲノム計画からアンゴラ−シエラレオネ間の燃料紛争におけるダイアモンドまで、またAIDSから不正取引(halting trafficking)まで、企業と人権との連関は、国際的課題として徐々に明らかになると共に、より重要なものとなってきている。

 グローバル・コンパクトは、コフィー・アナン国連事務総長が作成したミレニアム報告書で言及された「グローバル政策ネットワーク」(global policy networks)の発展を目的とすることによって、これらの問題及び他の問題に取り組むために多くの必要とされる共通の枠組を提供する。その「グローバル政策ネットワーク」は、国際制度、市民社会、民間組織及び国内政府に対して、共通の目的を共に追求させるものである。このような「グローバル政策ネットワーク」を通じて共に活動することを決定することは決して小さな言質ではない。事務総長によるグローバル・コンパクトの要請に対して、自らの意見を加えている企業の指導者、労働者代表及び非政府組織は、それらのパートナーシップ及び説明責任について新しく革新的な形成を発展させる際に、この重要な行動をとるよう推賞されるべきである。

 2000年に開催されたダボスにおける世界経済フォーラムの会合において、人権高等弁務官は、企業と人権と題する文書を提出した。それは、グローバル・コンパクトの原則に影響を及ぼす企業のイニシアティブを評価する中間報告書であった。本報告書は、国連システム内外における企業と人権に関する最近の発展について、次のような簡単な最新版(アップデート)を提供することを意図している。

・ダイアモンド貿易に対して国連安保理がとった措置
・コペンハーゲン+5レビューに企業社会責任(corporate social responsibility)の問題を含めたこと
・特定の人権問題に対処する場合に、企業部門を関連させている国連人権報告者の諸活動
・世界銀行や経済開発協力機構(OECD)のような他の国際組織の活動
・企業と労働組合による最近のイニシアティブ
・他国で起きた重大な人権侵害に関連する不法行為に対して、企業責任を主張している継続中の訴訟が国内レベルに与える影響

 本報告書は、新世紀の企業市民権(corporate citizenship)をより一層明確にする次なる段階について、そのいくつかを検討することによって、結びとする。企業が強固な人権指針と健全な実施戦略を発展させる助力となれば、グローバリゼーションに関する公の関心の増大に打ち勝つことになり、また、それがあらゆる場所における人々の生活を改善するための効果的な手段となることは確実で、それはほとんど疑う余地はないであろう。

II.人権発展へ向けた国連活動

 企業の人権責任(human rights responsibilities)について展開されている論争は、多くの増大している背景の中で続いており、また多様な主体が益々関わってきている。企業社会における人権に関与する必要性は、アシュリッジ・ビジネスセンターによる調査によって裏付けられた。このビジネスセンターの調査によれば、投資計画が中止することになった人権問題が500の巨大企業の36%で生じており、また、国家からの投資を減らすことになった人権問題が19%で生じている。しかしながら、この調査によれば、たった44%の会社の行動綱領(code of conduct)しか人権について明確な言及をしていない。

 企業の人権義務をより一層明確にするために多くの作業が残っていることは明らかである。国連は、この方向に向けてここ数ヶ月、措置をとってきた。これらの開発のいくつかは下記に要約されている。

 国連安保理

 最近になって、国連安保理は、シエラレオネにおける燃料紛争でのダイアモンドの不法貿易によって果たされた役割に懸念を表明することによって、企業活動と人権侵害との間の結合関係を明確にするための重要な措置をとった。決議1306において、国連安保理は、シエラレオネからの全ての粗末なダイアモンドを禁止するために協力するよう、国際的なダイアモンド工場に対して要請した。

 国連安保理はまた禁止の実施を監視するために専門家パネルを任命するよう事務総長に対して要請し、また、シエラレオネ政府に対して、同国のダイアモンドの貿易のための証明書の効果的活動を確保するよう要請した。この決議は、粗末なダイアモンドの出所の特定化を定めている良く構成され良く規律されたダイアモンド工場をさらに発展させるように、国家、国際組織、ダイアモンド工場の構成員、並びにシエラレオネ政府を支援する立場にある他の関連主体に対して要請した。

 世界のダイアモンド産業界は、同様に連携活動(concerted action)をとる意思があるという声明を発することによって応えた。最近、アントワープで開催された世界ダイアモンド会議総会は、各ダイアモンド取引の監視及び粗雑なダイアモンド市場に起因する「紛争」ダイヤの保持を決議した。生産者、製造業者、貿易者及び政府により形成された国際ダイアモンド理事会、並びに国際組織は、新たな形態の査察(verification)を監督するために設置された。グローバル・ウィットネス――この問題における公衆意識を向上するリーダーであるグループ――によれば、提案された措置は、造反グループ(rebel groups)が、ダイアモンド売買を通じて、戦争をけしかけようとするのを妨げる際に重要な影響力を持ちうるであろう。同産業界はこの問題に取り組むことを決めた。このことにより、民間部門の責任意識が増すのは明らかで、企業活動が直接人権侵害に結びつくことがないよう保証することになる。

 コペンハーゲン+5レビュー

 企業社会責任(corporate social responsibility)の問題は、1995年コペンハーゲン社会開発世界サミット以来の進歩をレビューする最近の国連総会特別会期の議題であった。7月1日に国連総会が採択した最終合意文書において、政府は貧困根絶を目的としたさらなる率先性に合意し、また、完全雇用と社会サービスへの普遍的アクセスを促進し、全ての者が社会への参加のための平等な機会を有することを確保することに合意した。この文書は、民間部門の役割及び責任に特別に言及し、マルチセクトラル・アプローチを要請した。

 最終文書における民間部門への言及は次のものを含む。

 社会開発とそれに伴う発展の間に関係意識を醸成することにより、企業社会責任の促進を目的とした法的・経済的・社会的な政策枠組みを提供すること、さらには、サミットが掲げる目標の達成を支援する国内レベルの企業、労働組合、市民団体を強化することで、企業社会責任を奨励すること。

 幅広い社会進歩を達成するために、政府、労働者及び雇用者のグループ間の対話を促進すること

 開かれた、衡平な、安全で、被差別的な、予見可能な、透明性のある、多国間の規則に基づいた国際貿易システムを実現すること、機会を最大化し、かつ社会正義を保護すること、社会開発と経済成長との相互関係を認識すること。

コペンハーゲン+5レビューに関するさらなる情報は、以下を見よ・・・
www.un.org/esa/socdev/geneva2000/index.html

 人間開発報告書2000年度版

 国連開発計画・人間開発報告書2000年度版は、はじめて人権をそのテーマとした。人間開発と人権と題するこの報告書は、非国家主体(non state-actors)のより大きな説明責任(accountability)を要請する。そこで指摘されているのは、「グローバルな企業は、――雇用、環境への影響、汚職体制、又は、政策変化の弁護という点で――人権に甚大な影響力を持ちうる」ということである。

 この報告書で述べられている優先事項は、企業の行動綱領のより良い実施を通じた、非国家主体のコミットメントの強化を含む。この報告書は、行動綱領及び社会責任政策の採用を認めているものの、それは国向きのものとなっている。すなわち、「多くは人権基準を充足していないか、又は、措置及び外部監査(independent audits)を実施していない」。人権指標の使用は企業の役割を含めるために拡大するよう提案された。この報告書はまた、説明責任へのマルティアクター・アプローチ(multi-actor approach)を要請し、メディア、企業及びWTOブレトンウッズ体制のような国際機関の影響力と力を考慮に入れている。また、学校、家族、地域社会及び個人を取り扱っている。

さらなる情報は次のホームページを見よ。
www.undp.org/hdro/HDR2000.html

 国連人権高等弁務官事務所

 国連人権高等弁務官は、企業の社会的責任の問題を声高に伝えつづけており、また、人権問題に関する対話に携わるよう、企業社会(business community)に対する切望が増大していることにも気付いている。2000年4月のロンドンタイムズの特集ページにおいて、国連人権高等弁務官は、「グローバル企業は、社会的関心と直接的な株主への配当を越えた価値のプレッシャーの下にある。」と指摘した。人権はこの絵図の中心にある。ここ数年間に、人権侵害をした企業犯罪(perceived corporate complicity)は、企業の評判を傷つけており、株価に悪影響を及ぼしたケースも出ている」。

 世界各国への公式訪問期間中、財界指導者は、共通の関心分野について話し合うため、国連人権高等弁務官を招待することが徐々に多くなった。例えば、今年(2000年)5月に、国連人権高等弁務官は、ブラジル・ビジネス協会のリーダー及びエトノス・インスティチュート(Ethos Institute)のメンバーと会談した。この会談では、ブラジルを通じて人権の尊重を促進するための企業の率先について討議することに加えて、どのようにすればビジネス協会がグローバル・コンパクトを支持できるか、また、どのようにすれば南アフリカで2001年8月31日から9月7日に開催予定の反人種主義・差別撤廃世界会議のような国連の主要イベントに組み込めるかが焦点となった。

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)もまた、国連本部において、また国内レベルにおいて、財界指導者との対話を拡大している。5月に、国連人権高等弁務官事務所は、グローバル・コンパクトを審議するため、途上国からの財界指導者が集合した国際労働者組織(IOE)及び国際労働機関(ILO)が計画した会議に参加した。この会合では、人権、雇用及び環境の実行を改善する際に、途上国における多くの企業が直面している、貧困、汚職(corruption)、脆弱な司法システム及び貿易の不利についての、重要な経験を交換するに至った。また、政府と共に前進している企業代表との間で、また、人権、良い統治(good governance)及び法の支配の擁護に影響力をもつ分野において強力な支援がなされた。国連のイニシアティブによって、グローバル・コンパクトは、これらの労働者が、各国政府に対して、さらに国際政策事項において、今まで以上に大きな声(voice)を出していくのに有用なものとみなされた。

 国連人権高等弁務官事務所は、その優先すべき問題として、人身売買を撤廃するために活動している。毎年、何十万人もの人々――その大多数はアジア及び中央・東ヨーロッパの途上国及び移行国出身の女性と子どもである――が逃げることのできない搾取状況の中で、騙され、売られ、強制され、さもなければ陥れられている。こういった女性及び子どもは、何十億ドルも生み出し、驚くべき水準の免責及び公的共犯をもって運営されている多国籍企業の商品となっているのである。

 このグローバルな挑戦に取り組むために、国連人権高等弁務官事務所は、政府、地域的政府間組織、国連機関及び計画、市民団体及び企業社会と協働する責任を負っている。国連人権高等弁務官は、売買の犠牲者のための研修及び自分は犠牲者であるとの自覚を促すプログラムに対し支援・資金提供を行なうことで、また、代替的な経済機会を提供することで、企業社会がなしうるポジティブな影響力に言及している。

 国連特別報告者と独立専門家

 特定の人権について報告するために、又は、特定国の人権状況について焦点を当てるために、国連人権委員会により任命された幾人かの国連専門家は、それらの活動の中で企業との協力及びコンタクトを徐々に密にしつつある。異なった人権問題を扱う際に、これらの国連特別報告者と独立専門家に関する2000年6月の年次会合の間に、民間部門の関与について討議があった。そのようなアプローチの例は、スーダン及びアフガニスタンの国連特別報告者の作業に見ることができる。両者とも、それぞれの国のオイル会社との対話を行なった。薬事会社(pharmaceutical company)と対話した有害毒物を専門とする国連特別報告者、並びに、ザンビアを訪れていた構造調整政策に関する独立専門家は、いかにしてHIV/AIDSに債務免除を通じて取り組むかを議論するために、それぞれの国の商業会議所と対話した。

 さらなる例は、子どもの売買等を専門とする国連特別報告者の作業に見ることができる。この国連特別報告者は、子どもに関する人権侵害に取り組むうえでの国際的な企業社会の役割について、今年を焦点とすることを決定した。滞在国で、国連特別報告者は、世界の様々な部分における財界指導者と審議した。2000年6月に、自国の率先例を紹介しつつ、子どもに恩恵を与える企業の率先についての情報を要請する、世界中の国際商業会議所(ICC)のメンバーに手紙を書いた。ICCは特別報告者の先導を歓迎し、来年の人権委員会の会期で特別報告者の報告書に含まれるであろう回答を提供する際に、特別報告者を支援することに合意した。

 人権の保護及び促進のための国連小委員会

 国連人権委員会のメンバーとなっている各政府が選定した専門機関である国連人権小委員会は、人権に関する多国籍企業の作業方法及び活動の影響を検討するために作業部会を設置した。作業部会は、今年(2000年)8月に行われる会合において、「企業の人権運営に関連する原則案」を含む報告書を審議するであろう(E/CN.4/Sub.2/WG.2/WP.1)。

 その原則案は、国連、OECD、ILO、企業、組合、アムネスティー・インターナショナルのようなNGO及びその他の多くの私的・公的組織による行動綱領(code of conduct)及び類似の文書から、関連言語を採用し組み合わせることで成り立っている。それは、被差別及びハラスメント及び暴力からの自由、奴隷、強制労働、児童労働、健康で安全な雇用環境、構成かつ平等な給料、労働時間、結社の自由及び団結権、戦争犯罪、人道に対する罪、国家主権及び自己決定権の尊重、を含む広範な人権問題に取組むことで、包括的ガイドとなるよう意図されている。

III.法的及び政策的な発展

これまで見てきたように、人間開発報告書2000年版が強調するのは、国際法が国家に人権に対する主要な責任を課しているという事実である。また同様に、一連の新たな発展は今日の文脈で言及するに値する。一連の発展は全て、非国家主体が人権分野の保証を真剣に考えているという事実を指摘している。また、このことは、全ての行為主体に対して人権保障義務の説明責任を負わせることを目的とした新たな方法が見出されていることを示している。

 労働組合/企業のイニシアティブ

 世界的な通信企業であるテレフォニカ(Telefonica)と世界規模のサービス関連企業に在籍する750万人の労働者を代表する新形態の国際連合組織であるユニオン・ネットワーク・インターナショナル(Union Network International)との間で、労働者の権利に関する協定が結ばれた年である2000年4月は、労働組合・企業間の協力及び説明責任が新たな形態をとる可能性をより一層推進するものであった。同協定は、テレフォニカ(Telefonica)が、グローバルな活動を展開する場合、強制労働、児童労働、ジェンダー及び人種差別のようなILOの基幹的労働基準を保障するよう定めるものである。これは、今後、他の企業及び労働組合にとって重要な例である。

 世界銀行視察パネル

 1993年に世界銀行により創設された機関である、世界銀行視察パネル(The World Bank Inspection Panel)は、世界銀行の財政計画により自己の利益が害されていると信じている民間の個人の要請に応えて設置された。この視察パネルの活動例は、最近中国において行なわれた世界銀行の財政計画調査に見ることができる。1999年9月に、世界銀行総裁(the Bank*s Executive Board of Directors)は、中国西部の貧困撲滅計画の一部である青海(チンハイ)(Qinghai)の調査を引き受けるよう、視察パネルに正式に要請した。そして、次のような世銀マネージメント(Bank Management)の政策及び手続を遵守しているか否かを視察した。すなわち、非自発的解雇(involuntary resettlement)、先住民及び環境アセスメントを対象にしている。以前に、視察パネルは、チベット国際キャンペーン(International Campaign for Tibet)から調査の要請を受けていた。それは東青海地方における6カ国から6万人の貧困者の移民がデュラン郡(Dulan County)に入ってきたことは、4000人のチベット人及びモンゴル人のエスニック・グループに大変有害な影響を与えている。

 2000年4月に、独立視察パネルはこれに関する報告書を世界銀行マネージメント(Bank Management)に送付した。世界銀行マネージメントと世界銀行理事会(Board)は、現在その報告書を検討中である。このプロセスは、国内的な行動綱領及び命令に関する独立した監視の可能性を探る上で興味深い例である。人権が脅かされ又は侵害されている場合、公然と認められた人権施策は精査すべきであるという期待が増大している。

 OECDの多国籍企業行動指針改訂版

 2000年6月27日のパリでの年次閣僚会議(annual Ministerial meeting)で、OECDは、多国籍企業行動指針改訂版を採択した。OECD加盟政府29と非加盟政府4(アルゼンチン、ブラジル、チリ及びスロバキア)による勧告は、参加国におけるフォローアップ手続によって支持された。また、行動指針は柔軟な遵守メカニズム(flexible complaints mechanisms)を通じて、徐々に監視されている。その遵守メカニズムは、訴訟又は法的遵守に関する他の伝統的な形態と必ずしも比較されるものではない。

 行動指針は、それを採用している33カ国で活動中の多国籍企業に向けられており、世界規模で活動する企業に適用される。行動指針は、適用可能な法(applicable law)を「補完すること」ならびに、行動綱領及び信頼ある事業行動を実施するためのその他の民間努力を「補完し、強化すること」を意図している。行動指針第1章は、「行動指針を採用する政府は、保護主義的目的のために、又は、多国籍企業により投資が行なわれる国の比較優位に対して疑問を差し挟むような方法によって、行動指針を使用するべきではない」。

 行動指針改定版は、一般方針の文脈に人権義務を含めている。例えば、「企業は、・・・受入国(host states)の義務とコミットメントと一致するように、その活動により影響を受ける人々の人権を尊重すべきである」と。行動指針は、諸価値を提供するというよりはむしろ、受入国の国際人権保障義務と一致した活動をするよう企業に対して単に命ずるものである。公的な注釈書によれば、「この点について、世界人権宣言及び他の人権義務は特に妥当する」。もちろん、それぞれの受入国は世界人権宣言や慣習国際法の下で、総会決議の採択に参加することを通じて、ならびに、世界会議及びそのフォローアップに参加することを通じて、人権を尊重するためのコミットメントを有する。加えて、それぞれの受入国は、一つ又は二つ以上の国際人権条約に締約国として拘束力ある国際義務を有する。それゆえ、企業は、自らに受入国政府の人権義務を伝えるという明白な義務を有する。どれだけ多くの企業が本当に受入国の義務の完全な範囲を意識しているのだろうか。これらの義務には、市民的政治的権利のみならず経済的社会的文化的権利及び国際労働基準も含まれる。

 OECDガイドラインは、雇用、労使関係(industrial relations)及び環境保護の分野、ならびに、他の主題における贈賄の問題をカバーしている。制度的フォローアップは、司法的又は準司法的な認定を表すものではなく、むしろ行動指針の「明確化」、並びに協議、修正、調停又は仲裁を要請する一連の手続を示している。NGOは、ナショナル・コンタクト・ポイント(NCPs)を通じて、政府の意思ほぼ全てに基づくものとして、実施措置を批判した。それにもかかわらず、政府、企業、労働組合及びNGOといった全サイドが述べたところによると、行動指針の効果的な利用を促進するため、また、継続的かつ公正な方法で行動指針の適用を確かなものにするため、行動指針をより良く知らせる活動を行なっている、とのことである。この実践の信頼性は、再び、実践を各種機関に向けて行なう締約国に応える制度改正にかかっているであろう。

 国内裁判所と国際的義務

 企業に対する国際法侵害の人権訴訟は、会社の国際的義務の認識を向上させる。また、被告人としての企業は、大量の額の金銭を支払う責任がある。それは、企業が多額の資産を有している場合、国内法秩序において執行可能(enforceable)である。

 国会において制定された最近の規則に基づいて、アスベスト疾患(asbests related diseases)に苦しむ南アフリカの鉱山労働者が、英国裁判所において英国国籍の多国籍企業に対して申立てを行った。この判断は、同様の大規模な申立又は集団訴訟(クラス・アクション)のための適当なアクセスがない国家内での違法な契約に向けた会社に対する申立ての可能性を開くことが期待された。もちろん、親会社に期待されているケアの義務については、解決を必要とする多くの問題点、及び解釈の実際的責任(actual liability)が残されている。しかし、国家から離れて訴訟を起こすという概念が、世界的規模で運営されている企業活動の新たな法的挑戦を切り開くことは確かである。

 会社が国際司法裁判所又は国連安保理が設置した国際刑事裁判所のケースにおいて被告となりえないとしても、国際人権法の不尊重は国内レベルでの訴訟を起こしうる。

 例えば、アメリカ合衆国の裁判所の中には、最近、1789年の外国人不法行為法の下での複雑な訴訟において混乱している。企業は、合衆国の条約又は国際法の侵害についての市民的申立てによる私的訴訟によって告発されている。これらのケースは、いまだに合衆国裁判所を通じて、その方法を広めてはいないが、それらは再び私たちに人権分野における政府の義務がいかに他の主体の義務を補完的に生じさせているかを思い出させる。過去に、無一文の個人の被告に対して執行可能な判決が不可能であったため、同様のケースは象徴的なものであった。

 もちろん、私たちは、今や企業の日常世界から遠く離れているが、一般大衆は、「国際法」を侵害する企業を非難しかつ避けるために、目を配っている。そのような申立ては取り扱われなければならないし、また、全ての企業と人権の議論の概念を形成している。さらに、ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、海賊、又は奴隷貿易に関与した全てのものは、国際法を侵害している。また、個人の犯罪責任及び刑罰が存在する。企業犯罪責任はいくつかの法制度にのみ見出される概念であるが、そのような行為の防止及び処罰の両方が必要であることに反対するものはほとんどない。

 刑事免責及び司法への過度な要求を嫌うことは、強制労働及び虐待の文脈における国際的義務を、第2次大戦における虐待の補償についての新たな要求へと変容させる。人権について論じることは、具体的なコミットメントによって釣り合わなければならない。ドイツとドイツ企業について強制労働の文脈で交渉された合計額(10億ドル)は、人権侵害のための責任への新たなアプローチが始まる証となる。第2次大戦の憎悪が今日の企業実践に結びついていないとしても、そのメッセージはより明らかになっている。このことが受け入れられているのには国際法上の限界が存在するが、政府、企業及び犠牲者という三部配置は、是正(redress)及び正義の試みとして遵守されうる。しかしながら、国際法及び国内裁判所の新たな利用こそが、人権分野における企業の義務に対する多くの見方を変革するのである。最近の結果は、人権という世界が権利と義務の世界であって、単なる慈善や良心という世界でないということを強く想起させる。

IV.次なる段階

 ここにあげた簡潔な文面は、人権保護における企業の役割に関する継続的な利益(continued interest)に焦点を当てるものであった。ダイアモンド産業の混乱から企業のための新たな政府間指針の採択まで、そのメッセージは明白であるだろう。言うなれば、国際的義務は明確化され、かつ実施されたのである。安全保障理事会の制裁は、法的アクションの一つの際立った形態を表している。しかし、法は国内レベルにおける新たな訴訟形態を通じてか、斡旋、調停又は仲介の手続を通じて、ますます果たすべき役割を増大させている。グローバル・コンパクトに含まれる企業の信用への最大の挑戦は、会社による人権に対するコミットメントを、とりわけグローバル・コンパクトの中心にある9原則の支援を実施しかつ監視することにある。既に示したように、今や企業への期待は増大している。おそらく、次のダボス会議で達成されるであろう目的は、企業部門における人権のコミットメントについて信頼可能な独立した監視方法を探りつつ、労働組合ならびに地域的及び国際的NGOと共に作業する企業集団又はタスク・フォースを確立することである。

 グローバル・コンパクトは、みずから自己批判的方法において活動する限りにおいて、信用を得られ、また、その努力についての対外的好意を招くだろう。グローバル・コンパクトに関わる企業が、ぬるま湯的同好会(cosy club)になってしまい、その規範と実行の対外的評価に限定されたものである場合、良心的コミットメントは実行してもほとんど意味をなさないだろう。ここで概観された発展が描くのは、政府以外の主体による人権侵害の説明責任について、前進を始めたばかりだということである。

 政府が関心を高めているのは、企業が持続可能な開発、人権、そして国際協力に有効な方法をとるよう保証することである。たとえ国家が人権規約の下で人権の保護を確保する第一義的責任を保持したとしても、そのような責任は、その権限内で活動している企業が既存の人権義務又は国際的な法の支配を害してはならないことを確保することを必然的に伴うという新たな認識がある。

仮訳:人権フォーラム21 事務局


 

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