人権フォーラム21の5年間を振り返って

人権フォーラム21事務局長 山崎公士

1.はじめに

 人権フォーラム21は1997年11月10日に設立された。「設立の趣旨および目的」には、「国内外の差別の実態を踏まえ、さまざまな差別問題の現状と課題を明確にしながら、幅広い意見を集約して、日本の人権政策のあり方について、広く各方面に政策提言を提示」し、これを「人権擁護推進審議会」の議論や答申内容に反映していくと謳われていた。
 1996年12月に成立した人権擁護施策推進法は同審議会を設置し、教育・啓発については2年をめどに、また人権救済については5年をめどに、答申を出すこととされた。人権フォーラム21はこの審議会の審議を注視し、答申に影響を与え、より良い人権政策を確立することを目的として創設された。人権フォーラム21は、@日本で初めての人権政策提言NGOとして、またA当初から、同審議会の活動にあわせ、活動期間を5年とした時限NGOとして発足したのである。
 (詳細については、資料の「各年度ごとの活動報告・日誌・役員体制」をご参照ください。)


2.調査・研究から政策提言へ

 人権フォーラム21は、これまでさまざまな政策提言を行ってきた。それらは@人権侵害を受けた当事者の現状を直視し、A各種人権NGOの意見を集約し、B国内外の人権教育と人権救済の制度や問題点を調査・研究する作業にもとづくものであった。また政策提言は、前半期は人権擁護推進審議会に対してのものが多かったが、2001年以後は、各政党や国会に対しての政策提言が多くなった。
 これらの作業を行う場として、人権フォーラム21には教育・啓発部会(元木健部会長)と規制・救済部会(福島瑞穂部会長、後に高野眞澄部会長)が置かれた。教育・啓発部会は発足当初から定期的に部会を開催し、1998年10月に政策提言「差別撤廃にむけたこれからの人権教育・啓発に関する施策の基本的方向について」を公表した。規制・救済部会は1999年1月から実質的に活動を開始し、毎月のように部会を開催し、人権救済制度に関する政策提言に向けて研究活動を展開した。その成果は、2000年11月に政策提言「これからの日本の人権保障システムの整備をめざして」として公表された。
 両部会とは別に、1998年4月から2002年9月までの間、「国内人権機関の国際比較プロジェクト」(NMP研究会、山崎公士代表、川村暁雄研究主任、後に藤本俊明研究主任)が組織され(当初2年間は反差別国際運動日本委員会との共同プロジェクト)、各国の国内人権機関や差別禁止法の国際比較調査・研究を実施した。このプロジェクトには延べ20数名の若手研究者が集まり、長期滞在型国外調査にもとづく比較研究を行った。
 また、人権教育教材ダイレクトリ編集プロジェクトや、インターネットと人権政策研究会、行政執行過程への市民参加プロジェクトなど、さまざまな課題についてもプロジェクト・チームを組織して、諸課題の解明と政策提言の方向づけにも取り組んだ。
<詳細の記録は、機関誌『NEWS LETTER』におおむね収録されているので、ご参照されたい。>


3.政策提言の公表

 人権フォーラム21は調査・研究を踏まえ、さまざまな政策提言活動を展開してきた。政策提言は、前半期は人権擁護推進審議会に対してのものが多かったが、2001年以後は、各政党や国会に対しての人権製作全般に関する政策提言が多くなった。とくに2002年1月に改訂第2版を公表した人権政策提言Ver.2は包括的な本格的人権政策提言である。
 このほか、人権擁護推進審議会の審議段階に応じて、以下のような個別課題をめぐる人権政策提言を行ってきたが、これらはすべてホームページ上に積極的に公開してきた。

・1998年10月 差別撤廃にむけたこれからの人権教育・啓発に関する施策の基本的の方向についての提言
・1999年 7月 パブリック・コメントに関する申し入れ
・1999年8月 パブリック・コメント手続きのよりいっそうの改善に向けた総務庁への「行政への苦情の申し立て」
・2000年 3月 論点整理についての人権擁護推進審議会への申し入れ
・2000年11月 「人権政策提言―より良き日本の人権保障をめざして―」(ver.1)公表
・2001年1月 人権擁護推進審議会「人権救済制度のあり方に関する中間取りまとめ」への人権フォーラム21の総括的意見
・2001年1月 人権救済機関の独立性等と組織体制に関し東京公聴会で意見表明
・2001年3月 「公権力の人権侵害」についてのNGO共同意見書
・2001年4月 「訴訟援助・訴訟参加」「差別表現・差別煽動」でNGO共同意見書
・2001年5月 人権擁護推進審議会「人権救済のあり方について(答申)」についての見解
・2001年 7月 行政文書不開示決定に関する異議申立て(情報公開審査会宛)
・2001年12月 人権擁護推進審議会答申「人権擁護委員制度の改革について」に対する見解
・2002年1月 人権フォーラム21「人権政策提言ver2.1」
・2002年1月 人権擁護法案大綱に対する人権フォーラム21コメント(改訂版)
・2002年2月 人権教育・啓発に関する基本計画(中間まとめ)への人権フォーラム21の意見
・2002年3月 国連パリ原則にもとづく、政府から独立した、実効性のある新しい国内人権機関<人権委員会>をつくろう!
・2002年7月 人権擁護法案の継続審議化によせて
・2002年10月 人権擁護法案の抜本修正に関する提言


4.ホームページ・機関誌・刊行物などによる情報発信

 人権フォーラム21は、ホームページをいち早く立ち上げ、人権擁護推進審議会の密室性を打ち破るため、積極的な情報発信を行ってきた。また英語ページもいちはやく立ち上げ、海外への日本の人権政策をめぐる動向と人権フォーラム21の見解について、積極的に情報発信を行ってきた。
 また機関誌『NEWS LETTER』を1997年の設立以来、今日までに44号を発行してきた。機関誌『NEWS LETTER』は、人権擁護推進審議会の動向のみならず、国内外の人権政策関連情報を適宜、紹介し、各方面で好評を博した。
 次に、刊行物などによる情報発信では、当事者からみた日本の人権白書づくりや人権擁護推進審議会への提言、人権政策提言などの活動成果をさまざまなかたちで出版物として刊行してきた。主要なものは下記の通りである。なお、これ以外にも武者小路公秀代表をはじめ、役員、作業部会メンバー、事務局がさまざまな雑誌に投稿を行ってきたところである。

■ 人権フォーラム21編『当事者からみた日本の人権白書』
   (解放出版社、1998年)
■ 人権フォーラム21編『これからの人権教育の方向』
   (解放出版社、1999年)
■ 人権フォーラム21編『21世紀日本の人権政策---人権フォーラム21の提言案』
   (解放出版社、2000年)
■ 人権フォーラム21編『21世紀日本の人権政策---人権フォーラム21の提言 Part2』
   (解放出版社、2000年)
■ 人権フォーラム21編『世界の国内人権機関』
   (解放出版社、1999年)
■ NMP研究会・山崎公士編『国内人権機関の国際比較』
   (現代人文社、2001年)


5.シンポジウム

 人権フォーラム21は両部会における検討の成果やプロジェクトによる国際比較調査・研究の成果を刊行するとともに、たびたび公開のシンポジウムを開催し、ひろく市民に訴えかけてきた。とくに、第3回総会(1999年12月)以後は、総会ごとにシンポジウムやパネルディスカッションを開催してきた。
 2000年以後は、人権擁護推進審議会の人権救済「答申」や人権擁護法案をめぐって、次のようなシンポジウムを主催し、または実行委員会メンバーとして開催に尽力した。

・ 1998年12月 第2回総会&シンポジウム「国内人権システムをめぐる最近の国際動向」
・ 1999年12月 第3回総会&パネルディスカッション「日本における国内人権機関設立の諸課題」
・ 2000年11月 シンポジウム「人権擁護推進審議会答申案をどう考えるか」
・ 2000年12月 第4回総会&シンポジウム「人権擁護推進審議会答申案をどう考えるか」
・ 2001年3月  シンポジウム「もう泣き寝入りはゴメン!−新しい人権救済制度をつくろう−」
・ 2001年12月 第5回総会&シンポジウムシンポジウム「世界の差別禁止法と人権救済機関」
・ 2002年3月  シンポジウム「どうなる、日本の人権救済−人権委員会は使えるか?」


6.今後の展望

 以上のように、人権フォーラム21は人権政策提言の公表を軸にさまざまな活動を展開してきた。人権フォーラム21の発足当初は、2002年には人権教育・啓発推進法と人権委員会設置法が成立するものと想定していた。しかし、前者は国会で成立したものの、後者は未だ成立していない。政府は人権擁護推進審議会の答申を十分に踏まえた法案を国会に提出せず、結果として国会上程された人権擁護法案は多くの問題点を抱え、2002年の通常国会と臨時国会で成立のめどがたたない状況にある。
 こうした時期にこそ、人権救済制度の確立と政府から真に独立した人権委員会の設置が求められている。人権フォーラム21はここに約5年間の活動を終え、解散する。しかし、われわれ市民は、人権救済制度の確立を含め、人権政策の行方を引き続き注視し、市民の視点から(「上からでなく」「下からの」視点で)、人権政策提言活動を継続すべきである。
 人権フォーラム21の5年間の活動を率直に反省し、これを踏まえて、人権政策提言の活動が今後も一層活発化することを祈念したい。
 最後に、これまで人権フォーラム21の諸活動に参加し、これを支え、支援して下さったすべての個人と団体に、心からの敬意と感謝をささげたい。


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