人権擁護法案に懸念を表明します

 今年3月8日、通常国会に上程され、継続審議となっている人権擁護法案(以下、法案)は、10月18日に招集された臨時国会で審議される。法案は差別や虐待をはじめとする人権侵害を禁止し、その被害者の救済を目的とした「人権委員会」を設置することを規定している。しかし、これらが実効的なものであるかどうか、私たちは、特に国内における人権問題に関心を持つ立場から、いくつもの点で懸念を抱いている。私たちは、同法案が日本におけるすべての市民の人権が尊重される社会を実現するための新たな人権救済制度となるよう期待し、特に以下の点を踏まえた実質的審議を要請する。

1.救済される「人権」の定義の明示と差別禁止法の制定。
 「人権」の定義は韓国国家人権委員会法第2条などを参考にし、「日本国憲法および日本政府がの批准・加入した国際人権条約および国際慣習法によって認められる権利」とされるべきである。また、国際人権諸条約の精神ならびに人種差別撤廃委員会からの勧告などを踏まえ、あらゆる人種差別行為を禁止し、被害者に対する効果的な保護と救済措置を与えるための国内法の整備が必要であるということから、差別や人権侵害の行為者に対する罰則などの制裁措置を含む「差別禁止法」を、実質的には「人権委員会設置法」ともいうべき人権擁護法案とは別個に整備するべきである。

2.人権委員会は法務省の外局ではなく、内閣府の外局として設置し、「独立性」を確保する。
 法務省の外局では、政府からの独立性を重視している国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)に沿わないものであり、特に被拘禁施設内での公権力による人権侵害が効果的に救済されないことが懸念される。国連・規約人権委員会による「最終見解」の趣旨が、法務当局による人権侵害を想定した上で、独立した救済機関の設置を勧告していることを今一度想起し、独立した人権委員会を設置するべきである。

3.人権委員会の委員および人権擁護委員や事務局員の構成における多元性の確保。
 人権委員会の構成における多元性ならびに被差別当事者性を確保する趣旨の条項が、それぞれの資格要件・任命手続きとして法案に盛り込まれることが重要である。その際には、ジェンダーバランスを考慮することはもとより、人権に関する豊かな活動経験を有している被差別当事者団体や人権NGOの関係者、法律家などについても、多元性と実効性の観点から、積極的な登用・採用の方針が示されるべきである。

4.地方人権委員会を設置する。
 法案は地方人権委員会の設置を予定していない。しかし、このような中央集権的なシステムは、分権化の推進という時代の要請や、人権問題の実情に適合していない。人権問題は、人々の日常生活の中で、その土地の地域性や慣習、歴史などを背景として生じる場合が多い。人権問題を効果的に解決していくためには、各都道府県及び政令市ごとに人権委員会を設置し、独立した救済権限を与えるべきである。

5.公権力による人権侵害からの救済策の強化。
 法案は公権力による人権侵害と私人間の人権侵害からの救済について、同じ救済手続を予定している。しかし、権力性や密室性が強い公権力人権侵害は、基本的に対等な私人間で起きる人権侵害とは異質である。これに関しては、委員会による拘禁施設への無条件立入調査権限など、行政機関に対する特別の調査・救済手続を整備する必要がある。法律の構成上も、両者の手続きを明確に分けて規定し、公権力による人権侵害からの救済制度を強化すべきである。

6.メディアによる人権侵害からの救済を「特別救済」の対象から外すべきである。
 法案ではプライバシー侵害・過剰取材の要件や判断基準が明確でなく、人権委員会の恣意的な判断で、メディアに圧力が加えられる危険性が否定できないからである。本年3月7日に日本新聞協会・日本民間放送連盟・日本放送協会が公表した「人権擁護法案に対する共同声明」もこの趣旨の批判をしている。

7.政策提言機能の強化。
 法案では委員会の政策提言機能が不十分である。委員会は首相や国会への意見提出権を規定している。しかし、政府から真に独立した存在となるためには、委員会に明確な政策提言機能を持たせ、委員会が提言した場合には、その名宛人である行政機関の長や国会は、提言への応答義務と説明責任があることを明記すべきである 以上のように、法案は根本的な問題点を抱えており、臨時国会での審議を通じて抜本的に修正する必要がある。

 上記7点を実施するにあたり、被差別の当事者の経験や意見を十分に反映するべく、あらゆる適切な措置をとるよう保障するよう要請する。


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