「人権救済制度の在り方に関する中間とりまとめ」について(2001年1月29日)


全日本手をつなぐ育成会
権利擁護委員長 野沢和弘

 「人権救済制度の在り方に関する中間とりまとめ」の中の「自主的解決が困難な状況にある被害者の積極的救済」(「第3人権救済制度の果たすべき役割」の(2−2)に関しては、まさに知的障害者が置かれている現状が的確に指摘されており、「より実効性の高い調査手続きや救済手法を整備して、積極的救済を図っていく必要がある」との指摘は評価するものである。しかしながら、「積極的救済」の内容や運用方法に関して、また、積極的救済を行う「人権救済機関」について若干の懸念を抱かざるを得ない。以下にその懸念と全日本手をつなぐ育成会としての要望を述べる。

 今日、知的障害者への人権侵害に関して欧米諸国で取り組まれていることは、大規模入所施設の解体と人間らしい地域生活の実現である。閉鎖的な施設に隔離しプライバシーのない集団生活は、それ自体が深刻な人権侵害だとして、欧米諸国では入所施設が次々と解体されている。ところが、我が国は依然として入所施設が増え続けている。この「構造的差別・虐待」とも言える現状に対する制度改革の推進こそが求められていることを、まず指摘しておきたい。

 つぎに、近年明るみに出た施設や職場での知的障害者の虐待事件を見ると、本来なら「積極的救済」に乗り出すべき関係行政機関、警察、検察、法務局などがほとんど機能せず、逆に、民間の救済活動に対して最も厚い障壁となったことを指摘せざるを得ない。これは何を意味するのであろうか。

 知的障害者に対する虐待、権利侵害、差別は後を絶たず、多くの被害者が泣き寝入りを強いられているのは「中間とりまとめ」に指摘されている通りである。その原因は・障害の特性ゆえに被害を訴えにくい・能力はあるが生育歴や教育が原因で被害が訴えられない・現在の環境が原因で被害が訴えられない・被害を訴えても相手にされない−−などが挙げられる。施設や職場での虐待では、知的障害者の親自身が「ここを追い出されたら他に行き場がない」との強迫観念から虐待者を擁護する側に回るケースが決して珍しくはない。こうした知的障害者をめぐる特別な状況を理解し、諸外国に見られるような知的障害者のコミュニケーション特性に配慮した調査や救済活動を行わなければ、まったく実効ある救済が望めないばかりか、こうした公的機関の存在自体が虐待・権利侵害の加害者にとって免罪符になってしまうのである。

 「中間とりまとめ」では人権救済機関に関しては、法務省人権擁護局、法務局・地方法務局の人権擁護部門の改組などが言及されている。しかし、これまでの知的障害者に対する虐待事件での行政・司法機関に照らすと、果たしてこのような既存組織の改組で有効な救済が実現できるのであろうか、深い懸念を抱かざるを得ない。むしろ、本来「積極的救済」を行うべき行政・司法機関など「公権力」の無理解や怠慢に対して調査し改善をはたらきかける機能こそが、新しい人権救済機関に求められているのではないだろうか。

 また、障害特性や知的障害者の置かれている特別な状況を鑑みれば、「救済手続きが相手方や関係者の人権をある程度制限する」くらいのものでなければ、有効な救済は実現できないことも強く訴えたい。そのうえで以下の諸点を要望・提言するものである。

 積極的救済を行う「人権救済機関」は既存の司法・行政機関からは独立して創設すべきである。また、公権力による差別や虐待、公権力が本来の職務を遂行しないために放置されている差別や虐待こそを最重視し、これらの行政・司法機関に改善を働きかける機能を最優先させるべきである。

 もしも、法務省の人権擁護部門の改組などで「人権救済機関」を設置するのであれば、障害当事者あるいは障害特性や知的障害者の置かれている特別な現状を理解したスタッフが設立過程に参加し、設立後の救済活動にも参加できるようにすべきである。

 虐待被害を受けた知的障害者が自ら被害を証言できるようになるには、長い時間と専門知識と専門技術と忍耐を備えた支援が必要である。このような外部スタッフ(支援者)の養成や関係機関との連携を、「人権救済機関」の業務に組み込むべきである。

 「人権救済機関」に対する苦情や異議申し立てを受け、同機関の業務内容をチェックする独立したオンブズマンを設立すべきである。そのオンブズマンには必ず障害当事者及び障害特性や知的障害者の置かれている特別な現状を理解したスタッフを加えるべきである。

 真に有効な救済を実現するため、2〜3年ごとに組織機構や業務内容の見直しを行うべきである。その際には障害当事者及び知的障害者の特別な現状を理解したスタッフの意見を反映させるべきである。

以 上


 

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