「人権救済制度のあり方に関する中間取りまとめ」に対する意見書(1月29日)


弁護士 村上重俊

1、政府からの独立性が人権救済機関の生命線であることの認識が欠如している。
 政府からの独立性は人権救済機関が市民から信頼を得られるか否かを左右する重要な要素であり、いわば人権機関の生命線である。規約人権委員会も指摘するとおり独立性こそが人権機関に権威を付与し、市民の機関に対する信頼を得るための不可欠の要素である。しかるに中間取りまとめは独立性が重要であることについての認識が十分でない。
 これは警察などの公権力による人権侵害が頻発する現状では、人権救済機関が人権救済活動を行うには政府からの独立が不可欠であるとの認識が乏しいからである。また身内意識から官僚がしばしば同僚の不正行為の隠蔽工作をするのは周知の事実であるのに、中間取りまとめが独立性が確保されなかった場合の弊害に何ら言及していないのは、独立性の確保に関する意欲が乏しいからであると評価せざるをえない。

2、人権機関の独立性を確保するための組織改革の提言が欠如している。
 中間取りまとめには独立性を確保するための具体的な組織論の提言が欠けている。
 自前の事務局を持たない国家公安委員会や他省庁出身官僚の横滑り人事に支配されている公正取引委員会等政府から独立した機関であるはずの既存の独立行政委員会は機関としての独立性が不十分であると内外から指摘されている。
 前車の轍を踏まないためには制度改革の具体策が必要であるが、中間取りまとめが組織改革のための具体的提言をさけたのは、改革の熱意に欠けるからであると評価せざるをえない。

3、人権擁護局を改組して人権機関とすることを許してはならない。
 中間取りまとめは人権機関の設置にあたっては法務省人権擁護局の改組も視野に入れるとしている。法務省の全国人権擁護委員連合会の意見書も指摘するとおり、人権擁護局の改組は人権機関の独立性を損なうものであり、また国民一般から高い信頼を得ているとは言い難く人的資源が質量ともに限られているとの人権擁護局に対する評価にも沿わない。
 法務省職員が自らの管轄下にある警察・入国管理局・刑務所等の職員による人権侵害に直面した場合、被害者の立場で同僚と対侍することは期待できない。人権擁護局を人権機関に改組することは、人権機関に対する市民の信頼を根底から覆すものであり許してはならない。

4、独立性を確保するための私の提言
 独立性を確保するためには以下の通りの改革を実施すべきである。

(1) 透明性ある人権委員の選出手続きの制定
 人権委員は、候補者名簿を作成する推薦委員会へ人権救済活動に実績のあるNGOを参加させることにより候補者の多元性を確保したうえで公選制も視野に入れて透明性ある選出手続きにより選任すべきである。
(2) 独自の採用試験による職員の登用
 従来の独立行政委員会では国家公務員の一般職を採用してきたが、これが既存の官庁の横滑り人事を招き機関の独立性を著しく損なった。すなわち他省庁からの出向職員は自ら望んで職務を選択するのではないし、慣例により3年後の本省復帰を念頭に事実上本省幹部職員の意向を伺いつつ職務を行うことになる。
 よって、機関の職員は、裁判所職員と同様に国家公務員法の特別職とし一般の国家公務員試験ではなく独自の採用試験を実施して、適正がありかつ職務に使命感を持つ人材を登用すべきである。機関発足時に他省庁から職員を採用するとしても公募を原則とすべきであり本省への復職を前提とした採用をすべきではない。

(3) 人権機関への市民参加
 人権機関に適正に職務を執行させるには、機関の職務の執務について市民が監査出来るシステムを設ける必要がある。人権機関の決定に対し不服申立があった場合これを審査する検察審査会類似の機関を設置すべきである。

(4) 人権機関の準司法機関としての位置づけ
 中間取りまとめは、しばしば人権機関が行政機関であると言及している。しかしながら、人権機関を単なる行政機関であると位置づけるのは誤りである。人権機関は個別救済機能を発揮するにあたって、先ず当該事件が人権侵害にあたるか否かを判断することを求められる。その意味において公正取引委員会と同様に準司法的機能を有する国家機関と位置づけられるべきである。かかる特質を軽視して人権機関を単なる行政機関と位置づけるのは人権機関の公平・中立の必要性及びこれを担保するための独立性をあえて軽視するものである。
 また行政機関と位置づけることは人権機関を他の行政機関と同列に置き、他省庁の職務に干渉してはならないという官庁間の暗黙のルールに従わせることになる。
 これは、人権機関が人権状況の抜本的改善のために、行政の枠組みを越えて政府や他の行政機関に対して政策提言や改善勧告を行ったり、公務員などに対する人権教育の実施を妨げ、人権機関の本来の機能を狭めるものである。

5、既存の救済機関による救済を優先するか否かは利用者の選択に委ねるべきである。
 中間取りまとめでは、既に個別的な行政上の救済制度が設けられている分野においては、当該機関による救済を優先すべきであるとしている。
 しかしながら、中間取りまとめは同時に既存の救済制度は設置目的などの制約により救済の実効性に限界があるとも指摘しており、日弁連の調査でも既存の救済制度の様々な問題点が明らかになった。(第四三回日弁連人権大会第一分科会基調報告書参照)
 人権機関が、救済の実効性に限界があると認識する制度に救済の優先権を与えるのは、迅速かつ実効的な救済という人権機関の使命を自ら放棄するに等しい。
 人権機関は、刑事手続き等制度上排他性を必要とする場合を除き、既存の救済制度による救済を無条件に優先させるべきではない。
 救済の申立があった場合、人権機関は当該機関による救済の実効性の有無など救済の実情に関する情報を提供し、利用者に機関の選択を委ねるべきである。
 人権機関は市民のためのサービス機関であり、サービスは利用者の取捨選択により質が向上する。機関が並立し競い合ってこそ機関の改革・改善も可能になる。
 中間取りまとめには良質なサービスの競争の確保という視点が欠けている。
6、人権擁護委員を人権機関の救済手続きに関与させるべきではない。
 中間取りまとめは、本来人権機関の職務であるあっせん、調停、仲裁手続き等の積極的救済手続きに現行の人権擁護委員も参加すべきであるとし、人権機関と人権擁護委員の職務分担を提唱している。
 人権機関は人権救済活動を行う権限を付与されるとともに誤りなくこれを遂行する責任を負っている。人権委員及び職員はその職責の重大性から有給で一般的に他の職務との兼任を禁じられ専任義務を負わされている。
 しかるに、あっせん、調停、仲介など本来機関が行うべき重要な活動をボランティアである人権擁護委員などに委ねることは機関がその職責を放棄することであり、救済活動全般に関して機関が責任を負うことを不明確にするものであり、断じて許してはならない。
 また、法務省の人権擁護活動はもっぱら人権擁護局員が人権侵犯事件の調査、措置を担当し、人権擁護委員の任務は主として人権啓発活動であり、あっせん、調停、仲裁職務に適正があるとは言い難い。人権擁護委員はむしろボランティアとしての特質を生かし被害者が人権機関を利用するのを援助する活動をすべきである。

7、人権機関は各都道府県に支部を設けて、各支部毎に人権委員を配置すべきである。
 中間取りまとめでは全国的な組織体制の整備の必要性に言及しているが、各支部の職員に事実上調査・調停・仲裁などの人権擁護活動を委ねようとしている。
 しかしながら、人権機関の職務を職員の判断に委ねるのは危険であり、人権機関の活動は人権委員の責任においてその指揮監督に基づき執行されるべきである。
 そのためには各支部に人権委員を配置し、調査・調停・あっせんについても人権委員が判断し職員を指揮監督する必要がある。
 また、各支部は合議体により職務を執行するのが望ましいので、各支部には複数の人権委員を選任し、配置すべきである。
 人権擁護局の現状は、年間1万7千件もの人権相談に十分に対応しているとは言い難い。質・量ともに限界があると指摘される現状を改革するため、公募により公正取引委員会と同規模の事務局体制(約600名)を整備すべきである。

8、人権機関は人権思想の進化に対応することを機関の責務とすべきである。
 中間取りまとめは、人権侵害の主体や態様の類型化を図っている。
 人権の簡便な理解のためには類型化も必要であるが、人権尊重の思想は時代とともに進化発展を遂げてきたことを見過ごしてはならない。
 人権は国家の承認をまってはじめて存在する権利ではなく、先ず道徳的理論に根拠を持ち、集団における道徳となり、次いで法的世界に取り入れられるのである。(東京弁護士会発行「人権救済申立事件調査ガイドブック第3部人権救済活動の理論」参照)
 人権思想の進化は既存の制度を変える場面で大きな役割を果たしてきた。
 人権状況を改善するには分かりやすい人権侵害の救済に取り組むだけでは足りず、何が人権侵害であるかを絶えず問いかけ、人権思想の進化発展に努める必要がある。
 中間取りまとめが人権侵害の主体や態様の類型化を図るのは、人権の概念を固定化し、人権思想の発展を阻害するおそれがある。
 人権機関は、国際的な人権基準を各国と共有しつつ、絶えず新たな人権侵害の把握とその救済に務め、人権思想の進化に貢献することを機関の責務とすべきである。


 

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