人権擁護推進審議会は、公開、透明で、国民に対し説明責任を果たす審議を


人権フォーラム21   代表 武者小路公秀
事務局長 山崎公士

○ さる4月28日、新聞各紙は当日行われた記者会見をもとに「人権擁護推進審議会の最終答申は、5/18、遅くとも5/25には出される見通し」と報じました。審議会は拙速ともみえる程、審議を急いでいます。
以下に、読売新聞と朝日新聞の記事を紹介します。

<>読売新聞(O1年4月28日)  メディアの人権侵害強制調査の対象外に ― 擁護審方針

新たな人権救済制度のありかたを審議していた政府の人権擁護推進審議会(会長・塩野宏東大名誉教授)は二十七日、焦点となっていたメディアによるプライバシー侵害や過剰取材などの事案については、文書提出命令や立ち入り調査などの強制的な調査手段の対象外とする方針を打ち出した。日本新聞協会などは、新たな救済機関がメディアに対する強制調査権を持ち、取材段階にも関与することに「遺憾」を表明し、「表現の自由」に配慮を求めていた。
 昨年十一月の「中間取りまとめ」では、強制的なメディア規制も「検討する」とされ、救済機関の調査にメディアが従わない場合には、罰金などが科せられる可能性も指摘されていた。この日の審議会で示され
た最終答申の原案では、メディアの自主規制に配慮しつつ、定の範囲で訴訟援助など「積極的救済」の対象とした。その上で、人権侵害の事実関係を救済機関が調査する場合には「任意的な調査によって対処すべきだ」とし、文書提出命令などの手法を取らないこととした。「表現の自由」の重要性にも一定の理解を示したものといえる。審議会は、さらに詰めの議論を行い、来月中に最終答申をまとめる。

<>朝日新聞・(O1年4月28日) 「来月25日には法相へ答申を」―人権擁護推進審

 人権侵害を救済するための新たな行政機関の設置を検討している人権擁護推進審議会(会長 塩野宏.東亜大通信制大学院教授)は27日、メディアによる犯罪被害者らに対する人権侵害の救済を、任意調査に限るかどうかについて議論したが、結論は出なかった。塩野会長は審議会終了後、「早ければ5月18日、遅くても25日には(法相に)答申したい」と話した。
 審議会は、人権救済のための施策の検討を法相から諮問され、昨年秋に「中間取りまとめ」を公表。強制調査の権限を持つ行政機関が、調停や仲裁、勧告・公表、訴訟援助などの方法で解決を図るべきだと提言した。

○ そこで、人権フォーラム21として、最終意見書を作成し、5月1日、各委員と審議会事務局に送付いたしました。これまで主張してきた事柄のうち、最終局面でもっとも強調したい事項に絞って表現しました。なお、審議会議事録の完全公開(発言者氏名の明記、会議配布資料の公開など)および4月27日の会議で配布された「答申たたき台」の公表をもとめ、情報公開法にもとづく「行政文書開示請求」も、5月2日午後、法務省に対して行いました。 結果は、「文書で30日以内に郵送でおこなう」とのことですので、期待しているところです。

○ 私達は、人権擁護推進審議会が、公開、透明で、国民に対し説明責任を果たす審議をつくすよう、強く求めるものです。

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 意 見 書(2001年5月1日)
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人権擁護推進審議会
委員各位  
人権フォーラム21
代表 武者小路公秀
事務局長 山崎公士

人権擁護推進審議会委員の皆様におかれましては、人権救済制度に関するご検討に余念のないところと存じます。
さて、私どもはこれまでもたびたび意見書を提出させて頂きましたが、去る4月28日の新聞各紙の「5月18日又は25日に答申予定」との報道に接し、現時点で貴審議会に期待したい項目について、簡潔な意見書を作成いたしました。意見書は「審議会の運営に関する事項」と「答申の柱立てに関する事項」の二部構成で、10項目からなっています。
貴審議会におけるご審議の最終局面で、是非とも下記の意見をご斟酌下さり、日本におけるよりよい人権救済制度の確立のため、最終答申を作成下さるようお願い申し上げます。
末筆ながら、委員各位のますますのご健勝の程を心からお祈り申し上げます。


-------- 記 --------


○ 「審議会の運営に関する事項」についての要望<2項目>
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1.拙速を避け、慎重審議を

・ 去る4月28日の新聞は、5月18日または25日に最終答申が出されると報じられている。先に数度にわたる申し入れで指摘したとおり、昨年末に公表された「中間取りまとめ」には、重大な論点の欠落があり、そのまま答申の骨格とするのは不適切である。
・ 人権擁護施策推進法採択時における衆参の法務委員会の附帯決議は、救済施策に関しては「五年を目処に」審議することとしている。したがって、1997年春から実質審議を開始された貴審議会は、2002年春までかけて、21世紀の人権救済制度のあり方をじっくりと、慎重に、審議すべきである。審議を急ぐ合理的な理由は何もないはずである。


2.公開、透明で、国民に対し説明責任を果たす審議を

・ 「人権救済機関は、その活動に関する公開性・透明性を高め、説明責任を果たすことにより、信頼性の向上に努める」(「中間取りまとめ」10頁)必要性が指摘されている。こうした「人権救済機関」のありかたを検討する人権擁護推進審議会自体にも、審議の「公開性・透明性を高め、説明責任を果たす」ことが求められる。
・ しかしながら、現在公開されている人権擁護推進審議会の議事録は、発言者を明記しない要旨のみであり、また会議で配布・説明された参考資料の公開にも消極的など、質量ともに不十分である。司法制度改革審議会や男女共同参画審議会など、他の政府の審議会に較べても、公開性・透明性はきわめて低いと断じざるを得ない。
・ とりわけ、本年4月から「行政機関の情報公開に関する法律」が施行され、政策形成過程の公開性の向上や説明責任を重視することがますます求められている。今後の審議においては、「公開性・透明性」を一層高め、国民に対する「説明責任」を十分果たすよう強く要望する。


○ 「答申の柱立てに関する事項」についての要望<8項目>
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1. 人権救済制度に関する基本理念の明示を
―「中間取りまとめ」第1―Bに関して―

・ 「中間取りまとめ」には人権救済制度のあり方に関する基本理念が欠如していた。よって最終答申では、人権救済制度のあり方に関する基本理念を明示することが不可欠である。人権救済制度は、人権侵害や差別を受けた市民が納得できる実効的救済を提供するための公的サービスの一環であると考える。
・ このためには、@総合性、すなわち「省庁の縦割り行政の弊害を排した人権侵害・差別事案への総合的取り組み」、A当事者性、すなわち「当事者自らによる事案解決に対する適切な支援」、B地域性、すなわち「地域において人権侵害・差別事案を自ら解決する取り組みの支援」の三原則を、今後の人権救済制度の基本理念として打ち出すべきである。人権救済に関わる地方自治体のきめの細かい先進的取り組みに学び、今後の人権救済行政は国と地方自治体の両者で推進することを明記すべきである。


2. 地域密着型の人権相談・人権申立受理体制の確立を
―「中間取りまとめ」第4に関して―

・ これからの人権救済制度は、次の2点―すなわち@人権問題は地域で生起すること、およびA人権救済制度は市民への公的サービスであること―を十分に踏まえ、市民から信頼される地域密着型の人権救済制度と人権救済機関を設計すべきである。
・ そのためには、@市民が無料で、簡単に利用できる人権相談体制を確立し、A地域の現場で、人権侵害・差別事象に迅速に対応し、早期にこれを解決できる体制を整備する必要がある。
・ このため、@人口30万人を目安に、全国各地に24時間対応の人権相談窓口を設置し、A人権相談・人権救済に関する実務経験のある人材(職員及び専門スタッフ)をジェンダー・バランスに配慮して配置すべきである。


3. 地方人権委員会の設置を
―「中間取りまとめ」第6-2に関して―

・ 前項とも関わるが、地域密着型の人権相談・救済体制を維持するため、地方自治体の協力を得て、都道府県および政令市に、地方人権委員会を設置すべきである。
現在、審議会で検討されている中央人権委員会のみの体制では、@大量の人権救済申立に対応できず、A全国各地の実情を十分に把握できず、B市民から敷居が高い存在とみなされるため、結果として市民から信頼を得るのは、極めて困難となろう。
・ 先の「中間取りまとめ」も、現行の法務省人権擁護行政が「国民一般から高い信頼を得ているとは言い難い」と正しく現状を指摘しており(第2-2-(1))、「法務局・地方法務局の人権擁護部門を改組することなどにより、人権侵害事案の調査や調停、仲裁等に当たる委員会事務局の地方における組織体制の整備を図る」(「中間取りまとめ」23頁)ことでは、市民から信頼される人権救済制度は確立できない。
人権救済に関わる地方自治体のきめの細かい先進的取り組みに学び、地方自治体の協力を得て地方人権委員会を設置することを明記すべきである。


4. 地方および中央人権委員会の独立性・多元性の確保を
―「中間取りまとめ」第6―1に関して―

・ 人権救済機関の独立性を確保するため、@機関は国家行政組織法第3条にもとづく独立行政委員会とし、Aこれを法務省でなく、内閣府に位置づけるべきである。
・ 「法務省」から独立した機関であることが、肝要である。人権救済機関が実効的に機能できるか否かは、この点にかかっている。
・ 市民から信頼される人権救済機関とするため、人権委員会委員の選任基準および選任方法は、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」ならびに『手引き書』に準拠すべきである。
参考:国連パリ原則(構成と独立・多元性の保障)
1. 国内人権機関の構成およびその構成員の任命は、選挙によるか否かを問わず、人権の伸長と保護に関わる(市民社会の)社会集団の多元的な代表を確保するために必要なあらゆる保障を与える手続に従って行われるものとする。特に、(国内人権機関の構成およびその構成員の任命は)下記の代表とともに、またはその関与を通じて確立される実効的な協力を可能とする勢力によってなされるものとする。
(a)人権に取り組み人種差別と闘うNGO、労働組合、ならびに弁護士、医師、ジャーナリストおよび著名な科学者のような関連する社会的および職業的組織、(b)哲学的または宗教的思想の諸傾向。(c)大学および高度の専門家、(d)議会、(e)政府部門(これらの代表は、助言的資格でのみ議論に参加すべきである。)


5. 多元的な人権委員会職員体制の確立を
―「中間取りまとめ」第6―4に関して―

・ 地方および中央人権委員会の職員体制は、以下の原則にもとづき整備すべきである。
 a. ノーリターン原則
 法務省等の省庁からから移行する職員は、元の所属省庁に戻ってはならない。
 b. ハーフ・アンド・ハーフ原則
 省庁等の国家公務員から移行する職員は定数の半数以下にとどめ、その他は地方公務員、弁護士、NGO・NPO等の人権活動経験者等から採用する。
 c. ジェンダー・バランス原則
 職員のジェンダー・バランスを確保する。


6. 差別禁止法の必要性の明記を
―「中間取りまとめ」第6―6に関して―

・ 人権救済機関が私人間の人権侵害事象について積極的救済を図る前提として、対象とされる「人権侵害」や「差別」を法律で明確に定義する必要がある。
・ このため、最終答申では、個別的または包括的な差別禁止法の必要性に言及すべきである。


7. 人権救済機関に「人権政策提言」機能を
―「中間取りまとめ」第6―6に関して―

・ パリ原則にも明記されているように、政府から独立した国内人権救済機関の機能として、「政策提言」機能は不可欠な要素である。「中間取りまとめ」(26頁)にいうような「助言」機能でなく、「提言」機能を人権救済機関に付与すべきである。


8.市民社会との協働の重視を
―「中間取りまとめ」第6―5に関して―

・ 先の「中間取りまとめ」は、「民間団体等との間においても、適正な連携協力関係を構築していく必要がある」(第6―6)としているが、例示されているのは弁護士会のみで、他の人権問題に取り組むNGO・NPOについては、まったく対象外とされている。
・ 公的な制度である人権救済機関は、既存のさまざまな裁判外紛争解決(ADR)の仕組み、NGO・NPOの活動、さらには広く市民社会との協働によって、はじめて実効的な活動が可能となる。
・ 21世紀の人権救済制度を設計するにあたり、日本国内と世界の市民社会との協働の重要性について、再度確認し、具体的な枠組みを提示する必要がある。

(了)


 

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