「訴訟援助・訴訟参加」「差別表現・差別煽動」について、五団体が共同意見書を提出(4/4)


2001年4月4日
人権擁護推進審議会
 委員各位
人権フォーラム21
DPI(障害者インターナショナル)日本会議
社団法人アムネスティインターナショナル日本
特定非営利法人 動くゲイとレズビアンの会
在日コリアン人権協会


意見書の送付について

 人権擁護推進審議会委員の皆様におかれましては、人権救済制度に関するご検討に余念のないところと存じます。
 私どもは、日本でさまざまな人権問題にかかわるNPO/NGOとして、さまざまな人権侵害・差別に直面してきました。特にさる3月21日には、ジャーナリストの筑紫哲也さんらを招いて「もう泣き寝入りはごめん!新しい人権救済制度を求めるシンポジウム」を開催してきたところです<別紙、資料参照>。
 この立場から、1)人権救済機関による訴訟援助・訴訟参加について、ならびに、2)差別表現・差別煽動について、に関する意見書を提出させて頂きます。
 委員各位におかれては、この意見をご参照下さり、日本における望ましい人権救済制度の確立のため、ご審議下さるようお願い申し上げます。


意見書
2001年4月4日
人権フォーラム21
DPI(障害者インターナショナル)日本会議
社団法人アムネスティインターナショナル日本
特定非営利法人 動くゲイとレズビアンの会
在日コリアン人権協会

(1) 人権救済機関による訴訟援助・訴訟参加について

@ 訴訟援助

 人権救済機関による救済手続によっても解決が図られなかった事案について、当事者が裁判所に対して訴訟提起を行う際には、人権救済機関は、当事者に対し@法律扶助、A法律上のアドバイス、B代理人(弁護士)の紹介など十分な訴訟援助を行うべきである。

 いかに人権救済機関による救済手法を整備したとしても、それによって解決されない事案が出てくることは避けられない。そうした事案については、最終的には裁判所に判断を求めることになる。しかし、そのような事案は「加害者」が確信犯的である場合や、大企業などの社会的権力である場合など、解決が困難なものであることが多く、人権侵害を受けた側が被害を立証するには多くの困難が伴う。したがって、訴訟の提起や遂行にあたって、人権救済機関は人権侵害を受けた者に対し十分な援助を行うべきである。
 援助の手法としては、「中間取りまとめ」が列挙する法律扶助、資料提供などに加え、人権侵害を受けた者に対して適宜法律上のアドバイスを与えることや、弁護士のあっせんを行うことなども含むべきである。そのために、人権問題に精通した法律家やNGOとの連絡体制を整えると同時に、人権救済機関の内部にも法曹資格を有する者から成る「訴訟援助部」を設けるべきである。実際に他国の人権救済機関では、そのようなセクションを設置している(たとえば、カナダ人権委員会のリーガル・サービス部)。

A 訴訟参加

 人権侵害を受けた者が訴訟を提起した場合には、人権救済機関は外部からそれを支援するだけでなく、@主体的にその訴訟に参加することや、A法廷において意見陳述を行うことなどを通じて、積極的に訴訟に関与し、人権侵害を受けた者に適切な司法救済が行われるように努めるべきである。

 訴訟の場においては、訴訟を提起した側、すなわち人権侵害を受けた側が、自らの被害や損害を立証する責任を負わなければならず、人権侵害を受けた者にとって大きな負担を伴う場合が多い。したがって、人権侵害を受けた者が実効的な司法救済を得るためには、人権救済機関が側面的に訴訟援助を行うだけではなく、主体的に当該訴訟に参加することも必要であり、そのような訴訟参加を可能とするような法制度を整備すべきである。また、人権救済機関が事前に関与した事案が訴訟で争われる場合には、人権救済機関が法廷で意見陳述を行うことができる制度も設けるべきである。

 上述のような訴訟援助や訴訟参加の制度を整え、裁判においても人権救済機関はあくまでも人権侵害を受けた者をサポートするという姿勢を示すことは、それ自体が人権侵害行為に対して一定の抑止効果を発揮することが期待される。


(2) 差別表現・差別煽動について

@ 差別表現・差別煽動と積極的救済

 悪質な差別落書きや部落地名総鑑の出版、あるいはインターネット上で差別を煽る言説を流布するなど、差別を受けた者に対して著しい被害を与え、また社会的に見ても害悪の大きい差別表現・差別煽動については、当該表現行為の差止めや表現物の削除などを含め、積極的な救済を図っていくべきである。ただし、差別表現・差別煽動は表現の自由にかかわる問題でもあるので、その取扱いには慎重さが要求され、原則としてあっせん、調停、仲裁などの強制性の少ない解決手法が取られるべきである。差止めや削除といった強制的な手法は、重大かつ緊急を要する事案に限定されるべきであり、またそれらは裁判所の命令によって行われるべきである。

 現在でも、被差別部落出身者などを誹謗中傷するいわゆる差別落書き・差別はり紙が横行している。また日本社会の国際化や住民の多国籍化が進むにしたがって、かつての在日韓国・朝鮮人に対する差別落書きに加えて、外国人一般の排斥を唱導するような差別煽動を内容とする落書きも深刻な問題となっている。さらにインターネット上では、その匿名性ゆえに、多くの差別表現が蔓延しており、被差別部落出身者、障害者、同性愛者、在日外国人。女性などに対する差別表現や差別煽動が日常的に行われている。こうした悪質な差別表現・差別煽動は、社会一般に対する悪影響が大きく、差別を受けた当事者のみならず、二次的、三次的な差別を生むおそれがある。したがって、人権救済機関としてもこれら差別表現・差別煽動について積極的な規制・救済の対象とすべきである。
 具体的な救済手法としては、人権委員会による差別中止勧告や裁判所による差止命令が考えられる。人権委員会による差別中止勧告は、あっせん、調停などの非強制的な解決手法を駆使しても解決が見られなかった事案に対して行われることを原則とするが、とくに重大かつ緊急を要するものに関しては、即時的に勧告を行うことも可能とすべきである。また、勧告の実効性を担保するために、勧告拒否に対しては氏名・事実等の公表を行えるようにすべきである。ただし、過料等による間接強制は行うべきではない。
 人権委員会によるあっせん、調停、または中止勧告等によっても差別表現・差別煽動がなくならない場合には、裁判所による差止命令を請求できるようにすべきである。差止命令は、人権委員会自らが請求できるほか、差別を受けた個人または団体も請求することができようにし、命令の不履行に対しては、過料を科すことによってその履行を促すべきである。
 ただし、問題となっている表現行為にマスメディアが関与している場合や、インターネット上の問題については、表現の自由の保障という観点から、メディアやプロバイダーによる自主的な救済制度を尊重し、それらによる解決を優先させるべきである。

A 差別表現・差別煽動の実行者に対するケア

 病的な差別表現・差別煽動の実行者に対しては、彼らに対する精神的ケアを行うべきであり、人権救済機関は差別の被害者のみならず、そのような加害者に対するサポートにも取り組むべきである。

 悪質かつ執拗な差別表現・差別煽動を行う者は、精神的な疾患を負っている者が少なくない。したがって、差別を根絶するためには、そのような病的な差別者に対するケアを行う施設や手法を整備することも重要であり、人権委員会もそうした取り組みに積極的に関与すべきである。差別の救済は、必ずしも差別を受けた側に対するものにとどまるべきではなく、差別を行っている側にも適切な指導、あっせん、カウンセリング、治療等を行うことによって、総合的な救済を図っていくべきである。

B 差別煽動罪の新設

 悪質な差別煽動については、差別煽動罪を新設し、刑罰によってそれを規制することも検討すべきである。ただしその場合には、公権力によって表現行為が不当に侵害されないように、禁止される行為を明確に規定しなければならない。

 悪質な差別煽動を犯罪化する傾向は西欧諸国等に見られる。また、日本が締約国となっている人種差別撤廃条約は差別煽動の処罰立法の制定を締約国に義務づけ、市民的及び政治的権利に関する国際規約第20条2項は「差別、敵意又は暴力の煽動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。」 と規定する。こうした国際義務を履行するため、日本政府は差別煽動を法的に規制する必要がある。その方法として、差別煽動罪を新設し、差別煽動を刑罰の対象とすることも考え得る。
 しかしながら、差別煽動の刑事的な規制は、表現の自由を侵害するおそれもあるので、何が禁止される差別煽動にあたるのかを法律で厳格に定めておかなければならない。また、いかなる差別煽動であっても、表現行為に先立ってそれを規制することは許されず、事後的に規制を加える場合でも、当該表現行為が近い将来、実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であり、その害悪が重大かつ切迫したものであり、規制手段がその害悪を避けるために必要不可欠なものであるという「明白かつ現在の危険」の基準を満たすことが要求される。
 なお、日本政府は、憲法で表現の自由が保障されていることなどを理由として、差別煽動に関する処罰立法の制定を義務づけている人種差別撤廃条約4条(a)(b)を留保しているが、差別煽動罪を新設するのであれば、当然この留保は撤回すべきである。

以上




<参考資料>

1) 「もう泣き寝入りはごめん!新しい人権救済制度を求めるシンポジウム」資料
2) 特定非営利法人 動くゲイとレズビアンの会「同性愛者に対する差別表現および差別助長・誘発表現に関する資料と提言」
3) 国連人種差別撤廃委員会・日本政府報告書への最終所見2001.3.20(人権フォーラム21機関紙[NEWS LETTER25号]所収)


 

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