2002年8月31日「裁判員制度」公聴会における発言

客野美喜子

2002年8月31日東京・弁護士会館2Fクレオにて、「市民の裁判員制度・つくろう会」が開催した「市民の裁判員制度つくろう!〜市民がひらく『裁判員制度』公聴会」の中で、公述人(布川事件の桜井昌司さん、甲山事件の山田悦子さん、他14人)の一人として「無実のゴビンダさんを支える会」の客野美喜子さんが発言しました。以下はその発言内容です。

  偶然にも、ちょうど昨日、朝刊の一面に「東電、原発トラブル隠す」という記事が、大きく載りました。たぶん、それで思い出した方もいらっしゃるでしょう。あの「東電」のOLが、5年前、渋谷で殺害されるという事件が起きました。私は、その犯人として逮捕され、今も獄中から無実を訴えているネパール人、ゴビンダさんの支援活動をしています。
私は、ごくふつうの主婦なのですが、数年前から、東京拘置所の外国人を訪問するという「面会ボランティア」をしており、ゴビンダさんとも、その中で知り合いました。 それまでは、刑事事件などに、まったく縁のない生活を送ってきました。裁判を傍聴に行く気もなかったし、裁判所がどこにあるかさえ知りませんでした。ですから、ただ漠然とですが、裁判所とか裁判官というものは、「公正中立」であると思っていました。  ところが、初めて裁判を傍聴に行った時、非常に驚きました。何度も面会に通って、自分の娘のように感じていたフィリッピン女性が、「手錠に腰縄」で入廷してきたのです。たとえ起訴事実を認めていても、裁判で刑が確定するまで、被告人は「推定無罪」のはずです。ましてや、ゴビンダさんのように、無実を訴えている人々を、裁判所みずからが、これ見よがしに「罪人扱い」をして、よいものでしょうか。
ある中国人の場合、警察の取調べで、後遺症を訴えるほどの暴行を受けていました。警察官を法廷に呼んで、弁護人が暴行の証拠を突きつけました。私たち傍聴人には歴然だったのですが、裁判官は、その証拠を取り上げませんでした。
また、別の中国人ですが、仲間同士の喧嘩で、一人が刺されて死亡するという事件がありました。一審は、「傷害致死」という被告人にも納得のいく判決でした。本人も反省してすぐ服役するつもりでいました。ところが、検察に控訴され、高裁では、何の証拠もないのに、「殺意」を認定され、一審より重い刑にされてしまったのです。「三審制」というのは、本来、誤判から被告人を守るための制度なのですが、しばしば、検察側に有利なように使われます。しかも、それに加担しているのが、「公正中立」であるべき裁判官なのです。
このように、健全な市民感覚からおかしいのではないかと感じる例をあげれば、きりがありません。つまり、警察が強引に作り上げた調書を、検察が補強して法廷に出す、それを裁判所が追認する、こうしたことが日常的に行われています。こういう中で、冤罪が生まれるのではないでしょうか。
その端的な例が、ゴビンダさんの高裁逆転有罪判決です。東京高裁は、新しい証拠が何一つないのに、たった4ヶ月のスピード審理で、4年もかけた一審の無罪判決を覆したのです。無罪判決後の身体拘束と言う異例の判断を下した判事の一人が高裁の裁判長になったのですから、この裁判は、はじめから「推定有罪」で進められたとしか思えません。
もし、この裁判に市民が参加していたら、はたしてゴビンダさんは、こんなにあっけなく逆転有罪になったでしょうか?健全な市民感覚を持つ者が、人を裁く立場に置かれれば、できるかぎり客観的な真相解明を求めようとするのではないでしょうか。
現在、問題にされている裁判員の人数や権限に加えて、私は、あらゆる市民が、近い将来「裁判員」に選ばれる時に備えて、裁判官に対抗できるだけの法的な知識と人権意識を日頃から養う必要があると思います。学校教育の場はもちろん、生涯教育として全ての市民が、「公的な司法教育と人権教育」を受けられる機会を早急に設けることを、司法制度改革推進本部に要請したいと思います。
「司法の民主化」という長期的展望に立って、「市民のための司法改革」が実現するよう、これからも声を上げ続けていきたいと思っています。本日は、このような機会を与えていただき、ありがとうございました。
「市民の裁判員制度/・つくろう会」とは(同会のHPより)
2002年6月12日、105名で「市民の裁判員制度・つくろう会」という市民ネットワークを発足させました。現在立法過程にある裁判員制度について、市民がさまざまな形で意見表明し、立法過程を監視することができれば、市民のための裁判員制度を実現していくうえで非常に大きな力になると思います。裁判員制度が実質的な市民参加制度として機能するか否かは、刑事事件以外への市民参加の道にも大きな影響を与えるものでしょう。それは司法において市民の常識や見識を反映し社会正義を実現する道を開くものであり、市民と共に社会が運営される真の市民社会の実現への第一歩としての意義を有すると思います。会としては、推進本部に対する要請を行うほか、ホームページ、メールマガジン、出版、集会など様々な行動をしています。会員数は、2004年5月28日現在、549名・15団体です。
「無実のゴビンダさんを支える会」も加入団体となっています。