用水路の妖精たち
フランシスコ・ウンブラル/著
坂田 幸子/訳
2014年12月刊行
定価2600円+税
4-6上製・306頁
ISBN978-4-7738-1425-5 C0097
20 世紀後半のスペインを代表する作家・知識人の自伝的小説
人生と旅にはいつも、列車がすれ違うような瞬間があって、
そういうとき、人はどこへ行くのかも、どうして旅立つのかもわからないものだ。
すべてを頭の中でもう一度、整理してみなければならないのに、そうしたところで無意味だとも思う。
もちろん、旅立つための理由がないのと同様に、留まるための理由もない。
まさにそういう時、人は旅立つのだ。(本書より)
独裁者・フランコ将軍の死の翌年( 1 9 7 6 年)に刊行されるや、因習と宗教に制約された地方都市に育った一少年の成長物語としての本書は、一大ベストセラーとなった。読者は、ここに、スペインという国そのものの歩みを読み取り、同時に、来るべき新しい時代の息吹を感じ取ったのである。
〈セルバンテス賞コレクション〉
スペイン文化省は1976 年に、スペイン語圏で刊行される文学作品を対象とした文学賞を設
置した。名称は、『ドン・キホーテ』の作家に因んで、セルバンテス賞と名づけられた。以後、イベリア半島とラテンアメリカの優れた表現者に対して、この賞が授与されている。このシリーズは、セルバンテス賞受賞作家による、スペイン語圏の傑作文学を紹介するものである。
人生と旅にはいつも、列車がすれ違うような瞬間があって、
そういうとき、人はどこへ行くのかも、どうして旅立つのかもわからないものだ。
すべてを頭の中でもう一度、整理してみなければならないのに、そうしたところで無意味だとも思う。
もちろん、旅立つための理由がないのと同様に、留まるための理由もない。
まさにそういう時、人は旅立つのだ。(本書より)
独裁者・フランコ将軍の死の翌年( 1 9 7 6 年)に刊行されるや、因習と宗教に制約された地方都市に育った一少年の成長物語としての本書は、一大ベストセラーとなった。読者は、ここに、スペインという国そのものの歩みを読み取り、同時に、来るべき新しい時代の息吹を感じ取ったのである。
〈セルバンテス賞コレクション〉
スペイン文化省は1976 年に、スペイン語圏で刊行される文学作品を対象とした文学賞を設
置した。名称は、『ドン・キホーテ』の作家に因んで、セルバンテス賞と名づけられた。以後、イベリア半島とラテンアメリカの優れた表現者に対して、この賞が授与されている。このシリーズは、セルバンテス賞受賞作家による、スペイン語圏の傑作文学を紹介するものである。
【著者紹介】フランシスコ・ウンブラル(フランシスコ・ウンブラル)
Francisco Umbral (1932―2007)
1932年生。スペインの作家、評論家。青年期までを地方都市のバリャドリードで過ごし、1961年からはマドリードを拠点として文筆活動を行う。1975年にフランコ独裁政権が終わり、スペインが民主主義国家として生まれ変わると、その文化形成に大きな役割を果たすことになる革新系の日刊紙『エル・パイス』のコラムニストとして活躍し、最新の文化事象や当世風俗を自在に論じていちやくスター作家となった。膨大な量のコラムに加え、エッセイ、伝記、評論、小説などを発表し、単著だけでも100冊を超える。ここに訳出した小説『用水路の妖精たち』(1976)は、バリャドリードで過ごした少年時代をもとに書かれた自伝的な内容で、小説家にとっての登竜門たるナダール賞を与えられ、ベストセラーとなった。他に代表作としては、幼くして白血病で亡くなった息子の闘病と死を見つめてつづった省察の書『限りある命にして薔薇色の』(1975)など。1996年にアストゥリアス皇太子賞、2000年にセルバンテス賞をはじめとして受賞歴多数。2007年没。
【著者紹介】坂田 幸子(サカタ サチコ)
慶應義塾大学文学部教授。専門はスペイン文学。主な仕事として、『初歩のスペイン語』(共著、放送大学教育振興会、2013年)、『ウルトライスモ―マドリードの前衛文学運動』(国書刊行会、2010年)、「おてんば少女の輝いた時代―スペイン女性作家たちによる児童小説」(『文学の子どもたち』所収、慶應義塾大学出版会、2004年)。