仮借なき時代 下巻
ヴィクトル・セルジュ/著
角山 元保/訳
2014年2月刊行
定価2500円+税
4-6上製
ISBN978-4-7738-1402-6 C0097
陰謀渦巻く開戦前夜のパリより始まる逃避行は、熾烈な包囲のなか窮乏に耐え抜くレニングラード、激しい空爆に苛まれる陥落寸前のベルリンを経て、幾多の亡命者が秘密を胸に目指したメキシコに辿りつく。苛酷な状況にある民衆の生を圧倒的な筆致で描きだす、巨大な力に翻弄される個から逆照射した第二次世界大戦史。
ファシズムから逃れるため、ブルトン、レヴィ=ストロースらと同じ船でヨーロッパを脱出し、アメリカ、カリブの島々を経由して辿りついたメキシコで、セルジュが死の前年に書いた最後の小説(1946 年執筆、1971 年出版)。ソヴィエトの諜報機関から抜け出ようとするスパイたちの逃避行を縦糸に、第二次世界大戦下のパリ、レニングラード、ベルリンに生きる人びとの描写を横糸に物語は織りなされる。本書は初期のソヴィエト連邦で国際的な諜報活動に従事した著者だからこそ書ける極上のスパイ小説であり、正統な歴史が無視し続けてきた名もなき民衆の声に耳を澄ます、セルジュならではのもうひとつの第二次世界大戦史である。
(下巻あらすじ)
連合軍による苛烈な空爆を受け陥落寸前のベルリン。破壊し尽くされ、不条理な生に満ちた街でダリアとDのかつての部下アランが邂逅する。そして戦争は終わり、解放されたダリアはDとの再会を求めて大西洋を渡る。Dが隠棲するメキシコの田舎町で二人を待ち受けていた運命とは?
【著者紹介】ヴィクトル・セルジュ(セルジュ, V.)
1890 年、亡命ロシア人の両親のもとブリュッセルに生まれる。10 代の頃より自活しながらさまざまな社会運動に身を投じ、社会主義系、アナキスム系の新聞、雑誌に寄稿。1909 年にパリに移る。その後、「ボノ事件」に連坐して約5 年間収監。国外追放となり向かったバルセロナで「バルセロナ蜂起」に加わるも失敗。再びパリに戻って収監され、1919 年に捕虜交換のかたちで革命下のロシアに移動する。
ソヴィエト政権下では共産党員として国際的に活動するも、次第にスターリンとの対立を深め、1928 年に党を除名、苛酷な弾圧にさらされる。ロマン・ロラン、アンドレ・ジッドら主にフランスの作家たちによるセルジュ釈放運動が実り、1936 年ソ連を出国。ブリュッセル、パリなどを拠点にスターリニスムを告発する論考を多数発表する。1941 年、ファシスムの侵攻を逃れてメキシコに亡命。同地で1947 年に心臓発作により死去した。
1928 年にスターリン政権の弾圧により収監された後、本格的に小説の執筆を始め、自らの波乱に満ちた経験に基づく作品を多数発表。近年、フランスや米国でその評論集や小説が相次いで再刊され、再評価の動きが高まっている。小説の邦訳として、本書と『勝ち取った街 一九一九年ペトログラード』(角山元保訳、現代企画室)がある。
【著者紹介】角山 元保(カクヤマ モトヤス)
1939 年東京生まれ。東京外国語大学フランス科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科(仏文学専攻)修士課程修了。同博士課程満期退学。元早稲田大学教授(教育学部、2005 年退職)。訳書にV. セルジュ『革命元年』(共訳、二見書房、1971 年)、同『勝ち取った街』(現代企画室、2013年)、J. ジョッホ『小さな赤いビー玉』(ホンヤク出版社、1977年)、J. ジョッホ『アンナとその楽団』(文化出版局、1985 年)、J. ポミエ『内なる光景』(共訳、法政大学出版局、1987 年)、 J. ボテロ『神の誕生』(ヨルダン社、1998 年)などがある。V. セルジュ関係論文に「ヴィクトル・セルジュ研究覚書(Ⅰ)─ヴィクトル・セルジュ事件をめぐって」(1980 年)、「同(Ⅱ)─ムラン刑務所からペトログラード入りまで」(1988 年)、「同(Ⅲ)─いくつかの初期詩編をめぐって」(1995 年)(それぞれ『早稲田大学教育学部学術研究─外国語・外国文学編』第29 号、第37 号、第43 号に所収)がある。