ペルー大使に申し入れ


 ペルーの首都リマにおいて、日本大使公邸がトゥパク・アマル革命運動の武装グループによって占拠され、人質がとられたことは、周知の通りである。監獄人権センターは、この事態そのものに対してコメントする立場にないが、ペルーにおける監獄の人権状況の改善のために、1997年1月7日、以下のような申し入れ書を、東京のペルー大使館あてに送った。


ペルー共和国日本大使館
ビクトル・アリトミ大使閣下

貴国の監獄における人権状況に関する申し入れ

監獄人権センター Center for Prisoners' Rights

 昨年12月に発生したトゥパク・アマル革命運動(MRTA)による、リマの日本大使公邸の占拠には、心を痛め、また解決に向けて努力をつづけられていることと思います。私達、日本の人権NGOである「監獄人権センター」も、事態の推移に重大な関心をもっております。
 私達は、日本の監獄における人権の状況を、国際的な基準に合致するように改善していくことを目的に活動しております。また、そのために世界のあらゆる国々での、監獄における人権状況にも、つねに重大な関心をもっており、逮捕から未決拘禁、裁判、受刑、釈放に至るまでのすべての段階で、国際的に確立された人権基準に沿った、人道的な取り扱いが、すべての囚人に対してなされることが必要だと思っています。

 MRTAは、ペルーの監獄において、反テロ法や反逆罪で逮捕された囚人および、その他多くの一般の囚人が、きわめて非人道的で、ペルーの憲法に照らしても適法とはいいがたい処遇を受けていると主張し、自分たちの仲間の釈放や、処遇改善を要求しています。貴国の法律に従って、適法に逮捕、拘禁されている者を、人質を取って釈放を強要することが許されないことは言うまでもありませんが、彼らが主張しているように、貴国において、容疑の不十分な逮捕や、被告の防衛権の侵害、また囚人に対する、拷問などの非人道的な処遇が行われているとすれば、それもまた許し難いことです。

 われわれと同様の目的で活動している国際人権組織、Human Rights Watchやアムネスティ・インターナショナルは、貴国における監獄の人権状況を調査し、それぞれレポートを発表していますが、それらを見る限り、貴国の監獄における囚人の取り扱いに国際的な基準を満たしていない部分が多々あることは否定できません。

 また、赤十字国際委員会も、今回の事件が起こって以降、それまで許されていた囚人に対する面接調査が許可されなくなったことに不満を漏らしています。

【公正な第三者機関による、ペルーの監獄の人権状況の調査を申し入れます】

 私達は、貴国政府に、Human Rights Watch、アムネスティ・インターナショナル、赤十字国際委員会などの公正な第三者機関による、ペルーの監獄への立ち入り調査を認めるように申し入れたいと思います。そして、もし、人権侵害にあたる事例があれば、ただちに改善し、すべての囚人が、適切で効果的な弁護および公正な裁判を受け、あらゆる形態の拷問その他の非人道的な取り扱いを受けることがないよう、保障するべきです。このことは、大使公邸占拠事件の平和的な解決に対しても、効果のある一歩となりうると確信いたします。これは、いかなる意味においても武装ゲリラとの「取引」ではなく、貴国政府が国際的な人権基準と人道主義にのっとった政策をとっていることを世界に伝えることで、MRTAの囚人釈放の要求の根拠を消滅させることにつながるからです。

 また、現在300名にのぼる囚人が、ハンガーストライキに入っている、とも伝えられ、私達は、彼らの健康状態を危惧しています。貴国政府のしかるべき当局が、ハンガーストライキを行っているものに対して、適切な医療を提供し、人道的な対処を行い、決して、懲罰などの手段をとらないようにお願いします。

 どうか、私達の以上のような申し入れを、大使閣下から、フジモリ大統領閣下にお伝えくださるよう、心からお願い申しあげます。平和的な解決に向けての貴国政府の努力に敬意を表します。

1997年1月7日
監獄人権センター
事務局長 海渡雄一(弁護士)

神奈川県川崎市高津区溝口138
シマザキビル2階
福島武司法律事務所気付
TEL & FAX 044-844-7211

なお、この件についてお問い合わせがある場合、下記まで電子メールでお願いできれば、もっとも早くご回答申し上げることが可能です。
cpr@jca.or.jp


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