PRI日本セミナー開催について

海渡雄一 (第二東京弁護士会)


 現在CPRでは、来年2月末から3月初めに世界的な刑務所制度改革のNGOであるペナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)の中心メンバーを招き、セミナーを開催することを計画している。この企画は第2回の総会の機会に、セミナーを開催しようというアイデアである。
 このセミナー開催は実は昨年11月にPRI主催の国際会議に出席した時に、事務局長のヴィヴィアン・スターンさんから出された宿題でもあった。
 今年5月に東京三弁護士会で訪英した際に具体的な提案を行い、日程の詰めを行ってきた。来日するのは事務局長のヴィヴィアン・スターンさんとブリクストン刑務所の所長のアンドリュー・コイルさんの2人である。スターンさんはイギリスでも最大級のNGOといわれる受刑者の社会復帰のための組織ナクロのディレクターを兼ね、イギリスの刑罰制度の問題点を深く分析したペンギンブックス「恥辱の赤レンガ」("Bricks of Shame")の著者としても知られている。2つの重要な組織の責任ある立場を兼ねながら、いつも笑みを絶やさない。コイルさんは犯罪学のPHDの資格ももつ気鋭の改革派刑務所長であり、ヨーロッパ拷問禁止委員会から「非人道的状態」とまで指摘されたブリクストン刑務所の状況を数年で劇的に改善したと評価されている。最近「我等にふさわしい監獄」("Prison We Deserve")と題する市民向けの刑務所問題の解説書を著した。大変美声で、国際会議の後のディナーでは世界中の歌を歌って歓迎してくれた。そして、二人は実は夫婦なのだ。市民団体の活動家と刑務所長が自然に結ばれてともに活動できるイギリスのふところの深さに感動する。来日時には息のあったところを見せてくれるだろう。この9月に来日したロッド・モーガン教授は2人の親しい友人でもある。
 5月初めの国連犯罪防止会議にオランダ政府から提案されていた決議案が、紆余曲折があったものの、一定の修正を施された上、採択された。日本政府はこの決議のPRIの作成したマニュアル「メイキング・スタンダーズ・ワーク」に関する部分について、検討の時間がなかったなどという理由で削除を求めたとされているが、決議は一部修正されただけで、ほぼ原案のとおり採択された。
 この決議に言及されているPRIのマニュアル「メイキング・スタンダーズ・ワーク」は、国連被拘禁者最低標準規則などの国際人権基準の意味内容をより具体的に記述し、基準をどのように実効性をもって実施していくかの方法を具体的に指摘したものである。各国の刑務所行政にかかわる人たちの座右において参照すべき実務のマニュアルといえるだろう。  今後このマニュアルについて国連との共同出版も予定されていて、その準備のため国連各国から意見を求め、今後ウィーンで行なわれる予定のコミッションにおいてこのマニュアルの修正のための議論が行なわれることとなっている。
 ともあれ、決議が採択されたことにより、国連の被拘禁者最低標準規則についての有力な解釈基準が示されたこととなり、今後の日本の監獄制度改革にも大変有効な指針が与えられたことになる。
 このマニュアルの翻訳作業もCPR代表の村井敏邦教授を監訳者に、静岡大学の葛野尋之さんを中心に作業が進められている。なんとかセミナーまでに出版にこぎつけたいと考えている。
 今回の企画については、既にブリティッシュ・カウンシルの後援が内定している。イギリスと世界各国の文化的交流を目的とする半公的な機関であるブリティッシュ・カウンシルとの協力関係を築く良い機会でもある。また、日弁連も、メンバーの来日を機会に独自のセミナーを計画している。
 今後これらのセミナーの細かい内容は実務的に詰めて行く必要があるが、これらのセミナーを通じて、@以上に述べたメイキング・スタンダーズ・ワークの解説はもちろん、Aアジアやラテンアメリカ、アフリカなどの欧米を除く地域でのPRIの活動、B専従スタッフ1200人といわれるNGOナクロの活動の実態、Cゆれ動くイギリスの刑務所改革と新しい内務大臣の下での厳しい犯罪対策の現状について、Dブリクストン刑務所の改革の実際、などいくつかの興味深いテーマを何回かに分けて話していただくことになるだろう。
 CPRは、このような一連のセミナーに法務省矯正局をはじめとする刑務所行政の実務担当者の方々を招きたいと考えている。国連犯罪防止会議の決議でも政府とNGOの対話と協力の重要性が指摘されていた。セミナーを通じて国際的な人権保障の実情をともに学び、対話する中から今後の刑務所制度の改革の方向を見つけだしていきたいものである。


ビビアン・スターンさんとアンドリュー・コイル
さんの来日スケジュール

 8泊9日というやや余裕のあるスケジュールで来日していただくことが出来そうですが、ブリティッシュ・カウンシルの経済的後援をいただきますが、それでもまだまだ財政的には赤字です。気の早い話しですが、ボーナス・カンパが可能な方はご協力をお願いいたします。ご賛同いただきながらまだ会員になって頂けていない方はぜひこの機会に会費納入をお願いいたします。詳しい会計報告は次号に掲載します。