ムミア・アブ・ジャマル氏の再審が棄却に


 さる9月15日、ペンシルバニア州地方裁判所のアルバート・セイボ判事は、黒人ジャーナリストのムミア・アブ・ジャマル氏と弁護団から出されていた再審請求を棄却する決定を下した。ジャマル氏は1982年12月に起こった白人警官殺害事件で逮捕され、半年後に死刑判決を受け、以来13年以上にわたって死刑囚監房の中から無実を訴えている。

【より明らかになったジャマル氏の無実】

 再審請求の聴聞会は、さる7月からフィラデルフィア・シティー・ホールで行われてきた。この中で、弁護団は;
一審における陪審員の構成が、白人10対黒人2と、不自然に白人に偏っていたこと。陪審員の中にあからさまに黒人差別を公言する者がいたが、排除されなかったこと。フィラデルフィア警察の関係者が含まれていたこと。
量刑決定の段階で、検察官がジャマル氏がブラックパンサー党員であった16歳当時の言動を引き合いに出し(事件当時、氏は28歳)、「鉄砲から政権が生まれる」という毛沢東の信奉者であり、警官を計画的に殺害した、と述べ、氏の思想的背景を問題にして、陪審を死刑判決に不当に誘導したこと。
検察側立証の柱となった複数の目撃証人が、自分自身、犯罪に関係しており、警察との取引によって、起訴や逮捕を免れようとしたこと(現に免れていること)。
警察が、ジャマル氏に有利な証言をした目撃者を脅し、証人として法廷に出られなくしたこと。
百数十人の証人のほとんどの住所を検察が弁護側に明かさなかったため、効果的な反対立証が妨害されたこと。
被害者の体から摘出された銃弾が、ジャマル氏が合法的に所持していた拳銃と一致しなかったこと。
ジャマル氏自身の負傷の状況が、検察側立証と矛盾すること。
 など、多くの争点を示した。また、一審で出廷できなかった証人(シングレタリー氏)を探し出して証言台に立たせ、警察による投石その他の嫌がらせで商売ができなくなり、州外に転居せざるを得なかったことや、ジャマル氏は警官が倒れたあとで現場に姿を見せたこと、ジャマル氏が撃ったのを見たと証言したホワイト証人は現場にいなかったこと、などを証言した。
 弁護側は、検死官、銃弾の鑑定家なども、新たに出廷させたが、彼らの証言は弁護側の立証を補強するものであった。

【あまりに早い再審棄却決定】

 一審で死刑判決を下した本人であり、全米で最も多い32人の死刑判決を下したことで知られるセイボ判事の訴訟指揮は、弁護団に罰金を課したり、一時拘束するなど、強権的なものだった。また、法廷にはジャマル氏の支援者だけでなく、FOP(警察友愛会)によって組織的に動員された死刑執行推進派が押し掛け、法廷は人種と政治的な対立を反映する場となった。ジャマル氏の支援者達は執拗な身体検査などをうけたが、一方のFOPは拳銃を携行している者さえいたが、とがめられなかった。
 9月11日、この再審請求の聴聞会が結審し、判決までには少なくとも数週間を要するという見方が大勢であった。しかし、セイボ判事は、わずか4日後の15日、再審棄却の決定を下した。決定書は154ページにわたるものであるが、結審後わずか中3日足らずで、これだけの決定書を書いたのであろうか?
 ワイングラス氏をはじめ、弁護団も支援者達も、この結果そのものには驚いていないが、あまりに早い決定は、再審を要求する世界的な世論の高まりへの挑戦とも受け取れるものである。

【州最高裁へ上告】

 弁護団は、今後ペンシルバニア州最高裁に対してアピールを行っていくことになる。州最高裁には6名の判事がいるが、再審決定には、この6名の全員一致が必要とされる。このプロセスに要する時間は、最低でも6か月、と弁護団では見ている。この間は、とりあえずは死刑執行の恐れはない。だが、ここで棄却された場合は、連邦最高裁による救済か、ジャネット・リノ司法長官の直接介入による再審決定しか、残された可能性がなくなり、きわめて厳しい状況である。
 ジャマル氏の支援者達は、この6か月の間に、6名の判事と司法長官への働きかけを強化するように呼びかけている。

【死刑廃止を推進する議員連盟が署名を開始】

 超党派の国会議員で作る「死刑廃止を推進する議員連盟」(二見伸明事務局長)では、衆院議員の金田誠一氏などが中心になって呼びかけた結果、ジャマル氏の死刑執行に憂慮を表明し、公正な裁判を望む主旨の署名活動を開始した。議員署名がある程度集まりしだい、記者発表などを行う予定だという。これは、8月9日に衆院議員会館で、新谷桂弁護士をまねいて行った議員懇談会の結果をうけたもの。新谷弁護士は、他の5名の弁護士とともに、アメリカにおける死刑制度の問題点の調査に訪れ、ジャマル氏の再審請求聴聞会を傍聴した後、日本で記者会見を行った。
 すでにヨーロッパ議会やイギリス議会などでも議員による意志表示が行われており、日本でもようやくこうした動きが見えてきた。

【ジャマル氏に懲罰的処遇がつづく】

 支援者達の報告によると、ジャマル氏は現在、フェイズ2と呼ばれる、懲罰に準じた処遇を受けている。フィラデルフィアにもっと近い拘禁施設があるにもかかわらず、3時間以上かかる刑務所に送られ、病院棟にある自殺防止房に入れられている。そこでは24時間電灯がつけっぱなしで、1日のうち10時間は足枷をはめられているため、彼は、慢性のくるぶしの腫れに苦しめられている。
 フェイズ2とは何を意味するのかよく分からないが、彼は死刑執行を前提とした処遇をうけているのか、あるいは現在ピッツバーグで行われている民事訴訟(彼の獄中での著作活動への妨害に関するもの)のせいで、こうした処遇を受けているのだろうか?


ムミア・アブ・ジャマル氏の日本国内での救援活動に関しては、以下に訊ねて下さい。
ムミアの死刑執行停止を求める市民の会 ( 略称 CASE of Mumia )
〒270-01 千葉県流山市東深井88-18/今井恭平気付
Tel 0471-53-7090 Fax 0471-53-7101

E-mail pebble@jca.or.jp
WWWインフォメーション http://www.st.rim.or.jp/~pebble/mumiaj.html
カンパ送り先
郵便振替 00100-5-7108 口座名義 ムミアの死刑執行停止を求める市民の会