KOKUSAI JINKEN HANREI

被拘禁者の人権に関する国際人権判例紹介

海渡 雄一(第二東京弁護士会)


 世界の被拘禁者の人権に関する国際人権水準を理解し、訴訟や支援活動の参考とするために、これからできるかぎり、規約人権委員会とヨーロッパ人権裁判所などの国際人権機関の判断例を紹介していきたい。

 まず最初に紹介するケースは、 「Estrella vs Urguay 通報 No.74/1980 見解の採択 1983 7 17 (18会期)」である。

第1、事案の紹介

 まず事案の紹介に入る前に、ごく簡単に規約人権委員会の説明をしておこう。規約人権委員会は国際人権規約自由権規約28条以下に基づいて設立された委員会で、構成は18人、個人の資格で選任されている。規約人権委員会の主な職務は第1選択議定書に基づく個人申立の審理と規約40条に基づく政府報告書の審査である。日本は残念ながら第1選択議定書を批准していない。規約人権委員会は審理の結果「見解(View)」を採択する。
 この事案ではウルグアイのリベルタード監獄における処遇が問題となっている。同じ見解の中で逮捕直後の拷問や軍事裁判所の手続などに関する論点も取り扱われているが、今回は割愛する。

1、居室の状況
 2人で1つの狭い居房に収容されていた。一日23時間居房に収容された(1時間は戸外に出られた)。午前6時30分から午後9時までベッドに横になれなかった。
2、恣意的な懲罰理由と苛酷な懲罰
 非常に恣意的な理由で懲罰が課されていた。その理由は頭を下げたまま歩かなかった、看守を直視した、他の囚人を名前で呼んだ、他の囚人と食事を分けあった、配膳の際に担当の受刑者に笑顔で「こんにちわ」といった、ヨーロッパの友人たちが面会に来たなどとされている。
 懲罰に処せられると数週間独居拘禁され、通信面会を許されなくなる。
3、精神を不安定にする処遇
 看守の射撃訓練と1日3度の警報がなると何をしていても、顔を下に地面に伏せていなければならず、動くと看守に撃たれる。
4、通信と面会の厳しい制限
 弁護人、国際機関への通信は認められないし、内容が恣意的に削除されることもあった。
 数百の手紙のうち手元に届いたのはわずか35通であり、面会は月2回各45分に限定されていた。面会中、時事的な話題は禁止され、会話はすべて録音され、面会者と囚人は別々の部屋で窓を通じてコミュニケイトしなければならない。看守が恣意的に面会をおわらせることも可能であった。何時も面会中に緊張感があるとも指摘されている。

第2、見解

 規約人権委員会はリベルタード監獄の処遇について規約10条1項と17条の違反を認定した。

1、リベルタード監獄の処遇は非人道的である。(10条1項違反。10条1項「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱われる。」)
2、刑務所における通信が一定の規制と検閲を受けることは通例であるが、しかし、規約17条により、それは恣意的適用に対する十分な保護手段を伴うものでなくてはならない。また、制限の程度は10条1項が求める被拘禁者の人道的取扱いの基準に適合しなくてはならない。とりわけ、囚人は、必要な監視を受けつつも、家族や評判のよい(reputable)友人と、通信や面会を通じて定期的に連絡をとることを認められるべきである。
リベルタード監獄における通信の検閲と制限が、容認される限度を超えている。(10条1項との関連において解釈される17条違反。17条「@何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。Aすべての者は、@の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。」)

第3、見解の意義

 この見解をみて日本の監獄の状況を知る我々がひどく驚くことは、房内での拘禁時間の長さ、恣意的な懲罰、面会、通信に対する干渉など、その状況が日本のそれに酷似していることである。確かに、日本では射撃訓練こそないが、一日の運動時間は30分、それも毎日ではないこと、1月の面会時間は1回30分が原則とされていることなど、よりひどい部分もある。我々はこの見解によって、日本の監獄の実情は正確にこれを国際機関に伝えることができれば、国際人権規約に違反しているという判断を得られることに確信を持つことができる。

第4、参考文献

「国連人権小委員会報告書−司法の独立と法律家の保護、公正な裁判−」 日本弁護士連合会 1994年6月
「国際人権規約先例集」規約人権委員会精選決定集第2集 東信堂
“Selected Decisions of the Human Rights Committee under Optional Protocol volume2”United Nations