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ルワンダにおける監獄と正義の回復

首藤信彦〔東海大教授、アフリカ平和再建委員会(ARC)委員長〕


 昨年4月6日に故・ハビャリマナ大統領機が撃墜され、そのニュースが伝えられた瞬間からツチ系住民に対するフツ系急進、政府、警察、民兵による組織的虐殺が始まった。その結果、50万とも100万とも伝えられるツチ系及び穏健派フツ系住民が虐殺され、内乱化した状況で、ウガンダから侵攻したツチ亡命政権とルワンダ愛国戦線軍(RPF)が腐敗した旧政府軍を追って新政府を樹立した。一方、虐殺と民族浄化を計画し実行した旧政府と民兵組織は200万もの難民を盾(人質)としてザイール等に脱出した。現在、旧政府側は国際社会の難民・人道支援援助を吸い上げて再軍備をすすめ、ルワンダへの再侵攻の準備を整えている。皮肉なことに、虐殺から国土を救った新政権には、何も残されず、また政権基盤が安定していないとして、国際社会からの支援も十分に得られていない。
 ルワンダの平和再建は虐殺首謀者・加担者に対する処罰、国外流出難民の帰還と国民再融和(reconciliation)にかかっているが、両方とも目処がつかないのが現状である。首謀者はほとんどザイールに亡命し、ルワンダ国内にはいわゆるB・C級の虐殺加担者が残されているが、虐殺は末端では隣近所同士が実行したため、加担容疑者の数は膨大なものとなり、ルワンダの監獄は容疑者であふれている。現在、小生が調査したキガリ監獄では収容者が400%に達し囚人はほぼ全員が立ったまま雨露をしのぐ惨状である。裁判官の9割が殺害されたため、裁判が開かれないまま悲惨な状況が長期化し深刻化している。罹病者も輸送手段が無いため、病院まで運べず、一切の医療行為のないまま獄内で死亡している。地方では意図的な間引きが行われているという噂がある。虐殺には多くの子供も加害者として参加し(最年少は8歳という)、キガリ監獄でも多数の少年が見られた。このような監獄の状況を救う、いやこれ以上悪化させないために、国際NGOが立ち上がり、国境無き医師団やアムネスティ、国境無き弁護士団などがジョイントで「市民ネットワーク」という一種のNGOベンチャーを組んで、政府(法務省)との微妙なバランスを保ちながら、収容所長に対する人道研修や司法警察官の育成に当たっている。ルワンダ政府は国民再融和の前に、正義の回復すなわち虐殺加担者への処罰を主張する。しかし、裁判が開かれないまま、劣悪な監獄に容疑者をとどめておくことは新たな人道問題を生み出している。このままでは、今度は新政府側が人道に対する犯罪を犯すことになるのは必定であろう。国際社会そして日本も正義回復と平和再建のために、新生ルワンダに対する司法支援をする必要があるのではないか。

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