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女性被拘禁者の人権/イギリスに学ぶもの

行刑への市民参加を目指して

長谷川 真理(女性部会:関西CPR)


女性被拘禁者と児童の人権

 bQでイギリスの被拘禁者の支援団体であるNGOナクロについて紹介しました。個々の内容を読んでいくと日本の監獄とイギリスの監獄との根本的な理念の相違が感じられます。赤ん坊と母親のためのユニットについて先に触れましたが、日本では法律で生後一年間赤ん坊と母親は一緒に生活することが認められています。赤ん坊は一般の房とは離れた保育室で過ごし、母親は作業の合間の授乳時と夜の時間を共に過ごします。ほとんどの赤ん坊は6ケ月前後で外の施設や親戚に引き取られてきます。制限された条件のもと、子供にとってどの位の期間母親と過ごすのが最良か、実に難しい問題です。ただ拘禁施設や後に赤ん坊を引き取る施設の運営上の都合からではなく、あくまで子供を中心に個別の事情に応じて対応するべきでしょう。国際人権規約B規約では「児童の権利」を、「すべての児童は社会的出身、出生等によっていかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会および国による措置についての権利を有する」と保障しています。被拘禁者の問題のみからでなく、児童の権利の側面からも、現行の拘禁制度は見直されるべきでしょう。

「家族のきずな」の意味するもの

日本の拘禁施設では、所長訓話等でおりにふれて女性被拘禁者に対し、既成のジェンダーを尺度に「失敗した女性」としての自覚を植え付け、因果応報的論法で家族の一員としての資格さえ辞退させるような、まさにマインドコントロールがなされていると言われています。超個人主義の国といわれる北欧諸国では、夫婦のプライバシーが守られる個室の面会室を置いていますし、イギリスなどではファミリー・ルームを設け男性受刑者にも育児の機会を作るなど、様々な取り組みがなされています。強くイエ制度を引きづりながらそこからの「落伍者」がやり直す機会をも奪ってしまう日本に比べ、これらの国々の拘禁制度が、いかに家族の絆を維持・回復させるために力を注いでいるかが伺われます。

行刑の市民的コントロール

社会制度における監獄をとらえたときイギリスと日本を比べると、市民と監獄との距離の違いが感じられます。イギリスにおける非政府機関としてのナクロとPRIの位置付けについては紹介してきましたが、72年にはPROPという囚人組合が結成されています。監獄の解体と変革を目指し待遇改善を実現させてきたラジカルな受刑者団体です。また法的な権限を持つ第三者機関、「訪問者委員会」が刑事施設法で定められています。Watch Dogとも呼ばれるその歴史は古く、不服聴取、施設巡回のみならず全職員の処分等、権限は大きく、構成員も広範囲にわたっています。行刑への市民的コントロールを目指して日本での第三者機関の制度化を構想するとき、ドイツの施設審議会やオランダの監督委員会と同様にモデルに出来る要素を多分に含んでいると思われます。

社会復帰に向けて

社会の中で起きる犯罪は社会の抱える様々な矛盾の形態であり、犯罪者もまた社会の構成員であることの認識が、今後の日本の行刑に課せられた大きな課題となるのではないでしょうか。そして21世紀を目前にして尚、社会的弱者の立場にある女性の犯罪、女性被拘禁者の問題への市民の無理解、無関心が新たなる犯罪を生み出す根拠となっていないでしょうか。 余りにも有名なM・フーコーの「監獄の誕生」の論述にある「社会とのかかわりにおいて反自然的、反人間的生活様式の監獄と社会復帰の困難が犯罪を再生産させる」ということを再確認し、市民社会での自らの問題として監獄での人権問題に取り組んでいきたいと考えています。

関西CPR連絡先:Tel&Fax 078-706-1223 長谷川気付