死刑執行に抗議する

監獄人権センター事務局一同


 95年5月26日、東京拘置所でSさん(54才)とTさん(69才)、大阪拘置所でFさん(40才)の3名に対する死刑が執行されました。今回の死刑執行も、「凶悪事件」に対する人々の応報感情の高まりを背景として利用した、不合理かつ恣意的政策的な、死刑を存置することを正当化しようとする暴挙であると言わざるをえません。
今回の死刑執行も非常に多くの問題を抱えています。第一に大阪拘置所で執行されたFさんは再審弁護人を選任し面会・通信を通じて再審の準備中であり、このことは拘置所当局も法務省も知っていました。
 第二に、SさんとFさんは、一審判決後、控訴を自ら取り下げて死刑判決が確定しています。特にSさんのケースでは、86年5月に事件が発生、86年12月に一審で死刑判決、87年1月本人の取り下げにより刑が確定しており、実質的に審理が行われたのは二、三ヶ月しかありません。
 第三にTさんは、警察官が事件の被害者であったということで、一般の事例と比較して著しく重い刑罰が下されているとして、当時から問題になっていた事件でした。そして今年で70歳になる高齢者でした。国連決議では高齢者に対する死刑を禁止しており、高齢者とは70歳以上の者をさすとされていることから、あえて69歳のうちに執行したとも考えられます。
 これらの、再審準備中の者、上告せずすべての段階の裁判所の判断をあおいでいない者、高齢者、等々に対する死刑執行は、1989年12月15日に「死刑廃止国際条約」と同時に採択された、国連総会決議「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する決議」に明らかに違反しています。この決議では、「手続きのあらゆる段階において弁護士の適切な援助を受けることを含む弁護を準備する時間と便益を与えることによって特別な保護を与えること」「すべての死刑事件で、…必要的上訴(注:審理の慎重を期すため必ず最高裁まで上訴すること)…を規定すること」「死刑の宣告または執行が行われない最高年齢を確立すること」などを規定しています。そして日本政府はこの決議に賛成しているのです。
 監獄人権センターは死刑執行を強行した法務省に対し強く抗議します。そして、死刑執行の停止、死刑廃止への措置をとること、死刑確定者処遇を早急に改善することを、法務省に対し強く要請したいと思います。
(同内容の抗議文を法務省に提出すると共に、監獄問題に取り組む海外の人権NGOに法務省に対し抗議の声を寄せるよう要請する英文レターを送付しました。)