オランダにおける被拘禁者の法的地位

水野 英樹 (第二東京弁護士会)  

 2001年6月20日、オランダ・ナイメーヘン大学教授のペーター・タック教授に、オランダにおける被拘禁者の法的地位について、講演して頂く機会があったので、報告する。タック教授は、オランダ司法省の比較刑事手続問題の常任顧問を勤められているほか、国連アジア極東犯罪防止研修所の客員教授としても活躍されている。
 
1 基本的な考え方
 オランダでは、未決、既決、入国管理上の拘禁などの区別を基本的にしておらず、1999年1月1日に施行された「行刑法」が一括して被拘禁者の法的地位について定めている。
 そして、「隔離の原則」ではなく「交流の原則」に基づいて拘禁する。
 
2 刑務所の種類
 半開放的行刑施設、自己出頭者のための半開放的行刑施設、開放的行刑施設、短期刑行刑施設、身柄を確保された者のための施設、高度重保安施設がある。
 
3 刑務所の選別
 行刑コンサルタント(弁護士などによって構成される)によって刑務所の選定がなされる。
 
4 刑務所における交流レベル
 完全に自由な交流のレベルと制限つきの交流レベルがある。
 前者では昼間は共同生活となるのが原則であり、後者ではグループ活動時間外は居室に拘禁されることになる。いずれにしても夜間は個室ですごすことになる。
 
5 1居室1受刑者の原則
 オランダでは1居室には1受刑者という原則に従っている。現在過剰拘禁によりこの原則は必ずしも守られていないそうである。各居室には、トイレと洗面台があり、ベッド、椅子、テーブル、クローゼットと棚がついている。自費で、テレビ、ビデオ、本を置くことができる。鳥などのペットを飼うこともできる。
 
6 不服申立手続き
 刑務所長の決定に対し、不服申立委員会(裁判官、弁護士、検察官、警察官、ボランティア、学者によって構成されている)に不服を申し立てることができる。
 
7 刑務所の処遇
 被拘禁者は刑務作業に参加できる権利を有している。刑務作業に対しては賃金が支払われる。したがって、作業を拒否すると刑務所での自分の生活の質を落とすことになる。刑務作業の義務がある者がこれを拒否すると罰則として懲戒室あるいは隔離室に収容される。
 面接については、週に1時間しか権利として認められていない。親族以外でも問題がなければ面会できる。自費で週に最低10分間の電話をかける権利もある。
 
8 帰休制度
 釈放間近の者は帰休が認められるほか、開放的刑務所の全受刑者は毎週末帰休できる。また、家族への見舞いや葬儀への出席のための特別帰休も認められている。
 
 
 以上本当に概要だけ報告したが、日本のそれと大きく異なっている。既決と未決を原則として分けて考えないという考え方には違和感が残るものの、電話をかける権利や第三者機関への不服申立機関の存在など、極めて参考になる講演であった。なお、関心のある方は、成文堂からタック教授が執筆なさった「オランダ刑事司法入門」が発刊されているので参考にされたい。