国(旭川刑務所)を被告とする国賠訴訟事件における原告代理人と原告(受刑者)との面会に刑務官が立会し、秘密の打ち合わせを妨害された事件について

八重樫 和裕 (旭川弁護士会)


1、事件の概要について

 原告である磯江洋一氏は、1979年6月9日山谷のマンモス交番の制服警官を刺殺した事件により無期懲役に処せられた受刑者である。
 刑確定後、1982年9月3日に旭川刑務所へ移監となったが、以後厳正独居処遇(昼夜間独居)とされたため、同処遇の不当性を争い、服役後5年を経過した1987年12月4日に旭川地方裁判所へ国家賠償請求訴訟を提起した。
 当職らは同人の依頼を受け、訴訟提起前には訴訟提起の可否を含めて何度となく面会し、勿論、訴訟提起後は必要に応じて面会してきた。
 しかし、代理人と原告との面会には必ず刑務官が立会し、会話の内容を聴取し、メモしている。
 当職らは、実質的に一方当事者である旭川刑務所職員が立会することは原告にとっては極めて不利益であるので、立会なくして面会できるよう要請文を提出し、立会する法的根拠について23条照会をし、さらに、立会なしでの面会をさせるよう求める約1万人にも及ぶ署名を提出し、無立会での面会を追及してきたが、実現し得なかった。

2、原告本人尋問と尋問場所について

(1)国賠事件は、この間に進行し原告本人尋問を実施する段階に至った。ここで、まず問題となったのが、尋問場所をどこにするかであった。当職らは、当然のこととして、旭川地裁法廷での尋問を求めたが、国は所在尋問(於旭川刑務所)を主張した。
 その理由は@押送途中における逃走の恐れや支援者らによる身柄奪取の恐れがあり、Aそのために相当の人数を警備にあてなければならないが、旭川刑務所の人的体制からして、困難であるというものであった。

(2)原告はかつて別訴を提起しており(確定済)、その訴訟の際にも原告本人尋問の場所をめぐって論争となった。その裁判では旭川地裁が2度、札幌高裁が1度、法廷で原告本人尋問を実施すべく原告へ期日呼出状を送付したが、旭川刑務所は原告を法廷へ出頭させなかったため弁論期日が空転したことがあった。前訴事件においては、公開の法廷での尋問という原則を貫いたため、結局、原告本人尋問は実施できなかった。
 本件において、旭川地裁は前例の如く呼出をしても現実に出頭させないことが予想されるという判断から、1997年11月25日所在尋問を実施する決定をなした。
 本件では厳正独居の理由、独居生活による心身両面の苦痛などを原告本人から証言する必要性が強いので、やむなくこれを受け入れ、所在尋問に応ずることとした。

(3)受刑者が当該施設を被告として処遇をめぐる国賠事件を提起しても、原告(受刑者)はほとんど出廷できていないのではないだろうか。
 本人訴訟では若干の例がある様であるが、訴訟代理人がいながら原告が出廷できた例があれば、是非、紹介していただきたい。
 この問題は本稿の趣旨とは別の事柄であるが、受刑者の裁判を受ける権利の実質的保障という観点から、いずれ問題とすべきである。

3、無立会での面会にむけて

(1)当職らは原告本人尋問が迫ってきたことから、1997年6月19日内容証明郵便を旭川刑務所へ提出し、原告本人尋問場所の検討及び原告本人尋問準備のために、7月15日面会に行くので、無立会で面会させるよう申入れた。現実に私と清水一史弁護士にて、旭川刑務所へ行き、無立会での面会を求めた。
 しかし、旭川刑務所はいままで通りの立会のうえでの面会しか認められないという返事であったため、当職らは不当であるとして面会をせずに帰った。

(2)その後、前述の通り11月25日の第43回口頭弁論期日において所在尋問を実施することが決定された。
 当職らは、原告本人尋問前に、原告本人尋問準備のために無立会での面会を実現すべきであるとして、裁判所へその方策をとるよう求めた。
 以前の合議体は、原告本人尋問前に、旭川刑務所において裁判所の訴訟指揮権に基づいて、一定時間、無立会での面会をさせる方法があることを示唆していたからである。
 しかし、当該合議体は、そのような見解には疑問を呈したが、無立会での面会を実現する方法がないかを、原・被告及び旭川刑務所を交えて1998年1月21日検討する機会をもつこととした。

(3)1997年11月25日は、くしくも既にご存じのとと思うが、高松高裁にて「国際人権B規約14条1項は、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を保障している。」、「接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会があって会話を聴取している状態では十分打合せができないと認められる場合には、その範囲で刑務所職員の立会なしでの接見が認められるべきである」とする旨の判決がなされた日であった(高松高裁平成8年(ネ)第144号、第204号事件)。
 当職らは、上記判決をもとに、12月26日付内容証明郵便にて、上記判決を引用して、また、用件も列記して、1998年1月6日に無立会での面会を求めたが、これも拒否された。施設側は上記判決は上告されており、確定してないということを強調していた。

(4)当職らは1998年1月21日の四者協議にそなえて、上記判決及び無立会での面会を求めた内容証明郵便を裁判所へ送付するとともに、1月6日にも無立会での面会を拒否されたため、止むなく原告本人尋問準備のため立会のうえ、面会してきたことを伝えた。
 被告国及び旭川刑務所は四者協議直前に、文書にて無立会での面会は認めることはできないことを通告してきた。

(5)1月21日の四者協議の場において、裁判所は被告らが無立会での面会は認められないという理由は納得しがたいとして、別途裁判所から旭川刑務所へ文書を提出するので、鋭意検討されたいことを伝えた。
 1998年(平成10年)1月22日付で、「接見の立会について(依頼)」と題する書面が裁判所裁判官森邦明氏より旭川刑務所長宛に提出された。同文書は「…原告本人尋問が行われることとなっておりますが、原告代理人は、右本人尋問を行うにあたり、事前に、貴庁職員の立会いを付さないで原告と打合せを行うことを求めております。当裁判所としても、本件が刑務所内での処遇を問題とするもので、貴庁が一方当事者的な立場におられることに鑑みると、本件においては、受刑者とその民事事件の訴訟代理人との接見の一般的必要性にとどまらず、その接見が貴庁職員の立会いなく行われる必要性が強く認められるものと考えます。/ よって、貴庁におかれましては、原告代理人が貴庁職員の立ち会いのない接見を求めた場合、これを許可されますよう要望いたします。」としていた。
 裁判所が訴訟外で他官署へ文書を提出するのは異例のことと思うが、上記文書にもある通り、一方当事者である旭川刑務所が現に原告本人尋問が決定されているにもかかわらず、立会にこだわる不当性及び上記高松高裁判決を考慮してのことと思われる。

(6)当職らは裁判長の上記文書をうけて、2月5日には旭川刑務所へ電話のうえ、2月9日に面会に行くが無立会で面会可能か問うたが、認めない方針である旨の回答を受けた。そして2月9日に面会に行ったが、上記文書の効果もなく、無立会での面会は認められなかった。止むなく、立会のうえ原告本人尋問のための打合せを行った。
 1998年2月18日に旭川刑務所で原告本人尋問(主尋問)が実施された。

4、今後の対応

 当職と清水一史弁護士及び磯江氏が原告となり、無立会での面会を拒否したことに対して国家賠償請求訴訟を提起すべく、準備中である。4月中には提訴したいと考えている。
 受刑者が当該施設の処遇の不当性を訴える訴訟において代理人と受刑者との面会に当該施設の職員が立会し、逐一その会話を聴取し、かつ録取しているという、極めて不当な実態は何としても止めさせなければならない。
 高松高裁の判決が一つの道筋を与えてくれているので、同判決をバネにして、各地で次々と訴訟を提起し、現状の取扱の違法性を明らかにして、無立会での面会を実現すべきであろう。