1、ジュネーブからの帰途、3月13日一日をロンドンに滞在した。午前中にロンドン市内のキングス・カレッジ内「監獄研究のための国際センター(International Centre For Prison Studies)」を訪問し、引き続き同日午後、英国内務省内で開催された同センターの理事会に出席した。
このセンターは今回の専門家会議にも出席されていたアンドリュー・コイル氏がディレクターを、氏のパートナーでPRI事務局長であるヴィヴィアン・スターン氏がリサーチャーをされている研究機関であり、ロンドン市内のキングズ・カレッジの一室に事務所を構えている。事務所では久し振りに会うヴィヴィアン・スターン氏が出迎えてくれた。氏からは新著「A Sin Against The Future −Imprisonment In The World−」をプレゼントされた。世界の拘禁制度の抱える問題点を地域別、問題別に分析し、改革の方向性を明らかにしたすばらしい本である。日本はアメリカ、ロシア、中国と並んで大きな問題を抱えた国として紹介されている(ペンギンブックスISBN014 02.33091)。なんとか、日本でも翻訳して紹介したい。
ところで、このセンターの目的は 拘禁状態に関連した国際条約、国際基準に関する知識の発展、 刑務所の管理に関する公正で、品位があり、人道的で、効率の良い最良の実践例を世界中に広めることである。
現在のもっとも重要な仕事は旧東欧、ソビエト諸国の刑務所の改善のための実践的な協力が取り組まれており、過剰拘禁、結核の蔓延など古くて新しい諸問題と取り組んでいる。国連などの国際機関に人権の視点から新しい刑事司法、刑罰制度のありかたを提言していくシンクタンクを目指そうとしているのである。センターの常勤のスタッフ、非常勤のスタッフには英国のプリズン・サービスの現職、前職の職員が含まれている。半年間のインターンでプリズン・サービスから来ているレイチェル・ジョーンズ氏は20代の女性であり、ガバナーの資格を持っているエリートである。彼女の現在の課題はロシアやモンゴルの刑務所の改善に協力することだという。「ここでの経験は私が刑務所に戻ったときに必ず役立つと思います」と自信を持って話すレイチェル氏のあまりのかっこ良さに頭がクラクラするほどだった。
またその理事会メンバーには90年代のイギリス監獄改革の基礎を築いたウルフレポートの筆者であるウルフ卿、プリズンサービスとは独立に刑務所の状態を査察する権限を持った刑務所査察官(Her Majesty's Chief Inspector of Prisons)のジェネラル・サー・デイビッド・ランボサム氏、国連の拷問問題特別報告者でエセックス大学の教授でもあるナイジェル・ロドリー氏などそうそうたるメンバーが含まれている。
ナイジェル・ロドリー氏は日本の旭川刑務所における13年間におよぶ独居拘禁の問題を特別報告者の年次レポートで取上げ、この受刑者が工場に戻るきっかけを作って下さった方である。経過を報告したところ、大変喜んでおられた。
2、理事会の内容は活動報告と今後の活動の計画の討議であった。その詳細は会議で配布された活動経過報告と活動計画書にゆずるが、結核問題が東欧とロシアで深刻化しているということはショックであった。また、今後監獄・刑罰問題についての国際的な雑誌「Punishment And Society」を発行する予定であるということだった。大変期待できる。
3、理事会の後はアムネスティ・インターナショナル本部に行き、ピエール・ロベール氏とマーク・アリソン氏と6月のCPR総会の打合せを行った。ピエールはキャンペーン担当に昇格して東アジア担当を離れ、後任にはマークが就任したということ。日本のレポートは二人で協力して作成中ということだった。ピエールは調査の仕事から離れることに少し残念そうだった。
4、夜のミーティングのあと、私はアンドリュー・コイル、ヴィヴィアン・スターン夫妻の自宅にディナーによばれた。ロンドン郊外の居宅はとてもインテリアの美しい素敵な家だった。PRIの今後の活動のことなどを聞いた。来年の1月には総会をロンドンで開くことになっているという。世界中で刑務所制度の改革のために働いている仲間たちと話し合うため、CPRの会員の皆さんもPRIの会員となって、総会に一緒に行きませんか。