東京拘置所仮舎房の問題点

田鎖 麻衣子 (第二東京弁護士会)


1997年10月21日、東京三弁護士会拘禁施設調査委員会のメンバー12名が、東京拘置所の建替に伴い建設された仮設舎房(「新北舎」とも呼ばれる。以下「仮舎房」)を見学した。被収容者が移る前のことであり、未完成な部分も残しての見学だったが、施設外の人間が見学した唯一の貴重な事例なので、法務省との協議内容と併せて報告する。(図は統一獄中者組合『監獄通信第66号』より引用。)

1 建物全体の構造

 昨年10月に発注されてから約1年弱で完成した仮舎房は、地上4階建てで、「壁式コンクリートパネル」という工法によっている。一種のプレハブ建築であるが、短期間の施工でも丈夫な建築だという。収容定員は370名、東西に長い建物で、中央の廊下を挟んで南北両側に居室が並ぶ。1階が共同室(雑居)、2〜4階が単独室(独居)、屋上が単独用運動場となっている。

2 単独室

単独室は2階から4階となっており、4階のみ見学出来た。ワンフロアに合計75の居室が、廊下を挟んで南北に並ぶ構造になっている。単独室は3畳敷の奥(巡視路側)に1畳分の様式トイレ・洗面スペースがついている。広さは約7.50平方メートルで、従来の独居5.94平方メートルより広く、新庁舎での単独室と同じ広さ。窓は巡視路に面して透明ガラス2枚の引き戸がはめられ、うち1枚のみ開閉することができるが、開閉できる方には網戸が固定されており、窓から巡視路に顔や手を出すことは出来ない。巡視路と外部との境界は、すりガラスと、その上下部分にある半透明のルーバーとで仕切られているが(CPRニュース13号の図参照)、一枚一枚のルーバーは「強度をつけるため」(法務省施設課の説明)に「羽」がついた鍵型(┗┓)をしている。このためルーバーとルーバーのすき間は殆どなく、外部は全くと言っていいほど何も見えない。しかも、「すりガラス+ルーバー」の仕切は所々コンクリートパネルで中断されているため、居室窓の外が半分近くもコンクリートの壁で覆われている部屋もあった。こうした構造には、見学した委員から口々に驚きと批判の声が挙がった。
また、見学当日は見事な秋晴れで時間も午後2時前後であったが、北向きの居室は蛍光灯を付けてもやや薄暗かった。外の見えない閉塞感に加え薄暗いとなると、それだけでも被収容者の不快感は相当ではないかと推察された。
なお、75室のうち数室が、鉄格子を取り払い特殊防弾ガラスを用いたいわゆる「実験舎房」とされているが、この部分は当時施工中で閉鎖されており、今回は見学できなかった(完成後に見学予定)。
単独用浴室は、家庭のものと同様のユニットバスで、色もアイボリーで明るく清潔な感じを受け、この点は大いに改善されたとの印象を受けた。4階のみ実験的に空調設備が廊下天井に設置されている。コスト計算のためにはワンフロア全体に設置する必要があるため、との説明であった。

3 共同室

共同室は10畳敷に1畳分のトイレ(和式)、1畳分の流しスペースがつき、定員は6名。この大きさの部屋が24室あるほか、1室だけ6畳敷で定員4名の部屋がある。定員6名の部屋は広さ22.50平方メートルで、既存の雑居の21.32平方メートルより広くなったが、奥行きが65センチも短くなっており、横長で外(廊下)から中の様子が見えやすい部屋になっている。トイレは和式で、窓にはガラスブロックがはめられている。居室窓の眺望については単独室とまったく同様の問題がある。
浴室は1カ所で定員6名、単独用浴室同様に明るい色調である。そのほかに理髪室1室が設けられていた。

4 単独用運動場

 上下二層に分かれた構造になっており、廊下を挟んで両側に計23個の運動場が並ぶ。広さは横2m×縦5mの10uで新庁舎の単独運動場と同じサイズだが、約16uある既存の独居用運動場(細長い扇形)よりかなり狭い上、縦が5mしかないため、走ろうとしてもすぐ壁に当たってしまい、使いにくい。また、周囲は壁で囲まれていて壁と壁の間2カ所に2cm足らずのすき間があり、そこから辛うじて僅かに運動場の外(敷地内)を見ることができるだけである。天井部分は金網で覆われ、上層の巡視路から看守が運動の様子を監視する構造になっている。廊下から運動場に入る入口ドアの上に小さな透明の庇があり、多少の雨ならよけられる。床面には現在人工芝が入れられている。新庁舎ではアンツーカーのような素材にするかどうか、これから検討するとの説明だったが、いずれにしても、これまで踏みしめることのできた土の地面とは格段の差があろう。
なお、雑居用運動場(屋外)は、1階入り口脇で造成中のため見学はできなかった。

5 見学を終えて

 見学した委員の感想は、まず「居室からまったく外が見えない」ということであった。既に少なからぬ数の仮舎房被収容者から、「外が見えないため閉塞感が大きい」といった訴えが弁護人などの元に届いており、見学後に行われた法務省施設課との意見交換会でも、弁護士会側はこの点を大きな問題として挙げ、改善を求めた。これに対し施設課は、「仮舎房で使用しているルーバーは、従来の施設で使用しているタイプのもの(目隠し機能と通風機能を持たせたもの)であり、これと同じものを新庁舎で使用するという意味ではない。新庁舎ではアルミ製のルーバーを用いる予定だが、ルーバーの角度については、実験舎房において角度調節の可能なルーバーを用い、どの角度ならどの程度外が見えるのかを実験した上で決定する」と説明した。しかし、実験の結果、外がまったく見えない角度でルーバーが固定される危険性も大いにある。
また、単独用運動場についても、せめて周囲の壁のうち、施設敷地に向く部分だけでもパンチメタルにして外が見えるようにしてほしい、との要望も行なった。
仮舎房は、「仮設」と言いながら、これから先、新庁舎完成予定の2004年まで6年もの間使われるものであり、現に今後も相当長期の収容が見込まれる被収容者が多く生活している。さらに、仮舎房の構造が恒久的施設である新庁舎にも取り入れられるという重大な要素を持つ。施設が新しく、清潔になるのは良いことだが、一日の殆どを居室内で過ごす被収容者にとって、敷地の土を踏むことはおろか、見ることすらできない生活は、外部との通謀のおそれも、プライバシー侵害の危険もないのに加えられた過剰な制限であり、耐え難い苦痛である。今後も被収容者の切実な声を反映させ、「敷地内の自然に接する当たり前の生活」を実現するべく、粘り強く交渉していく予定である。