領置品の総量規制問題について

領置品規制対策会議(仮称)


 法務省令にもとづく被収容者の領置品の総量規制が昨年10月1日より全国の施設で施行されている。在監者一人当たりの保管量を施設毎に一律に定め、それを超える場合には宅下げ(親族等への寄託等)させるか廃棄処分させる、それに応じない者には新たな購入や差入れを制限せよ、というものである。

★実態を無視した一律規制

昨年4月23日に公布されたこの省令(平成9年法務省令第38号「被収容者の領置物の管理に関する規則」)は、第一条で「この規則は、領置物の適正かつ良好な管理を図るため、被収容者一人当たりの領置物の総量並びに被収容者の自弁物品の購入及び差入れに関し必要な事項を定めるものとする。」と趣旨を述べた上で、各施設の所長が、衣類臥具(がぐ)については被収容者一人あたりの種類と数量を定め、それ以外のものについては倉庫の保管容量を収容定員で割った一人あたりのスペースから衣類分の容量を引いた範囲内にさせる、それを越える物品の購入や差入は許さないことができる、としている。そして現在の領置物がそれを越えている場合は6ヶ月毎に減らしていき3年後には一律に規制するというものである。
こうして計算された一人あたりの容量は、多くの施設でみかん箱程度の領置箱2箱〜3箱分であると告知されている。収容期間のきわめて短期な人、あるいは、頻繁に宅下げ、差入を繰り返してくれる家族や支援者のいる人でもなければとうてい収められる容量ではない。法務省は導入に際して、領置品の多い者と少ない者とがいては不公平だ、と「公平な処遇」を強調しているが、在監期間さえ考慮にいれない机上の計算での「公平」の押し付けは「悪平等」以外のなにものでもない。

★訴訟書類も対象になる

5月30日付の関連通達(1319号)では裁判所等からの送付物や閲読後の信書はこの制限の対象ではないとしている。しかし、訴訟資料の大部を占めるのは、弁護人等から差し入れられる公判記録のコピーであったり、参考文献等であり、それらも「総量」の範囲内に収めなければならない。これは未決拘留者のみならず、再審を準備している者にとっても防御権の重大な侵害である。裁判所からの送付物にしても、例えば、それを弁護人に回したが最後、改めて弁護人から差し入れてもらうと規制の対象になる。
さらに深刻なことは、機を一にしたかのように、房内での訴訟書類の所持に対しても制限が加えられていることである。このかん、東京拘置所では、房内に所持できる訴訟書類は高さ2m、それ以外のものは1m、計3mまで、といった指導が強化されている。刑事裁判の死活にかかわる書類がこんな量り売りのような数値で規制されようとしているのだ。これは裁判中の者に限らず、確定囚が自ら再審を準備することをも封じるものであろう。

★不明瞭な告知手続

4月に公布されていながら、在監者にこの省令の存在が知らされたのは東京拘置所の場合で施行1ヶ月前の9月1日の放送による告知が最初だった。9月25日に2回目の放送があり、そして、ことこまかに定められた領置できる下着や上着の種類・枚数などが具体的に示されたのは10月1日の施行日前後なのである。さきに記してきた私信や訴訟書類の取扱いについても在監者が問い合わせるなどしてこのかん徐々に明らかになってきたことである。その場合も人や時によって回答内容が異なっているケースがある。そして、房内所持品との関係等、まだまだ不明瞭なことは多い。各地からの報告には各施設の職員もまた、実態無視の省令と現場での板挟みに右往左往している様子もうかがえるのである。

★規制撤回に向けて

日弁連・人権擁護委員会への人権侵害救済の申立を共同で行なおうと呼びかけ、海渡雄一、福島武司、川村理の3弁護士を代理人として、最初の申立を12月11日に全国11施設、30人の在監者の連名で、第2次の申立を12月25日に11名、第3次の申立を1月9日に9名の連名で行なったが、その後も委任状が各地より届いている。申立には死刑確定囚や、懲役受刑者も参加している。現在、各申立人の領置状況等に関するアンケートを集めているので、近く更に詳しい実態が把握できるであろう。また、拘禁2法案対策本部や、刑事弁護センター等にも問題を提起し、取り組みを要請している。拘禁2法案の先取りをさらに上回る、法的根拠の乏しい規制であること、明らかな防御権の侵害であることなどから、弁護士会内部では疑問の声が日々高まっている。
一方で、長期の獄中生活を体験した方々からは、数少ない娯楽の手段であり、学習の手段であった書籍類が持てなくなるとは大変なことだと、と「何かできることがあれば」と協力の申し出が相次いでいる。なによりも共同申立の案内を送付した在監者の半数以上の人々が、申立に参加していることが、事態の深刻さを示しているといえよう。
省令によれば施行6ヶ月後(本年3月末)には施行時超過数量の1/4を廃棄ないし宅下げしなければならなくなる。それに応じないときは新たな購入・差入を認めないというのであるから事実上強制以外のなにものでもない。大阪拘置所では、超過している者に郵送差入れがあった場合は、在監者の負担で返送する、などとも告知されている。 「…四月頃から、私の場合、本の差入が不能になると思われます。家族からの書籍差入の拒否は現行の法律からは極めて問題があり、おそらく、そのような事態になれば、誰かが訴訟を起こすでしょう。…違法性が強いとしても、裁判で白黒の決着がつくまでは、官側による差入れ制限(事実上の差入拒否)は続くと思われます。…緊急事態と言わざるを得ません。来年の三月頃には本、訴訟書類、使用済ノート、等の宅下げを行う予定ですので、保管スペース等考えておいてください。」これは、領置品規制の告知を受けたある受刑者の家族あての手紙の一部である。まさに緊急事態が進行しているのだ。
撤回にむけた取り組みへの協力を訴えるものである。


「領置品規制対策会議」(仮称)のニュースNo.1を用意しました。ご希望の方は監獄人権センターまで。また、人権擁護委員会への申立書や委任状等のセットも用意しています。とりわけ外部交通権の制限が厳しい確定囚については、こうした取り組みの伝わっていない方が多いので、関係者の方のご協力をお願いします。