監獄人権センター総会にアムネスティ
インターナショナル ピエール氏を招待の予定

海渡雄一


日本における外国人被拘禁者に対する虐待 レポート公表

 アムネスティ・インターナショナルの国際事務局は昨年11月10日に「日本における外国人被拘禁者に対する虐待」と題する調査レポートを公表しました。このレポートは昨年五月に国際事務局から派遣された調査団が約1カ月に渡って調査を行なった結果をまとめたものです。この報告書では刑務所、拘置所、警察留置場、入国管理施設の中で外国人被拘禁者が受けた人権侵害を具体的ケースをもとに詳細にレポートしています。報告されている事件には監獄人権センターの弁護士が関与している東京拘置所のエジプト人のケースやナイジェリア人のケース、府中刑務所のアメリカ人ケビン・ニール・マラケースやイラン人のバフマン・ダネシアンケースも取り上げられています。
 東京拘置所で、このエジプト人は「日本人の怖さを見せてやる」と看守からいわれ、懲罰によって全裸にされ、腹部を強く蹴られた上で、肛門に警棒を押し込まれたとされています。府中刑務所に収容されていたイラン人のダネシアンさんは、「イラン人はみんなうそつき」という幹部看守に「イラン人にも日本人にもうそつきとそうでない人がいる」と反論したことから、懲罰とされ、その懲罰言い渡しの際に「気をつけ礼」をしなかったためひどい暴行を受け、皮手錠をされて、保護房に収容されています。
 警察の取り調べで脅しと暴力を加えられた東京電力OL殺人事件の容疑者とされたネパール人のケースも報告されています。入管収容所で暴力を加えられたという報告も多数掲載されています。

レポートの分析と勧告

 このように、このレポートに特徴的な点はまず、施設職員による人種差別的な言動が数多く報告され、日本の拘禁施設の多くで職員の間に人種差別的感情が広がっていることが示されています。また、刑務所では外部に公開されていない規則の些細な違反に対して、非人道的な懲罰が加えられていることが強調されています。さらに、刑務所の秩序に従わないものに対するシステマティックな暴力と保護房、皮手錠の使用が行なわれているとされています。  警察留置場では外国人被疑者はことばが不自由な上に、暴力や脅しを加えられている例があることがわかります。
 このような多数のケースの分析を踏まえて、報告書は日本政府に対して、一二項目の勧告を行なっている。その中で拷問禁止条約の批准、拘禁施設内での医療措置へのアクセスの改善、拘禁施設職員に対する人権教育の徹底、人権救済の申し立てに対する調査の手続の強化、被害者への賠償、加害者に対する公正な裁判、拘禁施設に対する独立の監督機関の設立などが含まれています。
 このような勧告の多くは日本人の被拘禁者の処遇を含む拘禁施設制度全体の改善にも役立つものであり、日本政府の前向きの姿勢が望まれています。

今年の監獄人権センター総会にはピエール氏を招請

 アムネスティ代表団は報告書を内閣総理大臣、外務大臣、法務大臣、警察庁長官に提出し、東京で国際代表者のスーザン・ウォルツ博士、ピエール・ロベール主任調査員が出席して記者会見がもたれました。
 日本政府も、このレポートに対して反論のコメントを同時に公表しています。このコメントでは、警察が個別ケースにまで丹念に反論しているのに対して、法務省は制度的な問題については反論しているものの、個別ケースについては黙殺していることが注目されます。
 アムネスティはこのレポート以外に五月の調査を踏まえて死刑問題のレポート、日本の刑務所における保護房、皮手錠問題に関するレポートを作成中です。来日期間中に私は監獄人権センターの事務局長としてピエール氏と会い、このレポートの意義と今後の活用方法、今後発表される一連のレポートの内容についてディスカッションをする機会がありました。
 国際的に評価の確立した人権NGOであるアムネスティ・インターナショナルは代用監獄や死刑制度、難民認定等についてはレポートを公表してきました。しかし、拘禁施設の処遇についてのレポートはありません。アムネスティが日本の拘禁施設、とりわけ刑務所、拘置所の問題について続けて3つものレポートを公表する事態は画期的なことです。この一連のレポートは今年秋にも予定されている規約人権委員会における日本政府の報告書の審査でも極めて重要な役割をもつものと考えられます。ここで指摘されている勧告の内容は国際人権水準に合致し、また我々監獄人権センターの求めてきた改善点と基本的に同じ方向にあるものと評価できます。今年の我々の活動の重点はこのアムネスティ・レポートを効果的にサポートし、規約人権委員会の審査に影響を与えることに置きたいと考えています。
 ピエール氏も保護房・皮手錠問題に関するレポートが公表される今年春にレポートの広報のために来日する計画に賛同してくださいました。レポートの作成、翻訳に用する時間など未確定な要素があるため、正確な時期は決められていませんが、今年の春の総会にはピエール氏をお呼びし、一連のアムネスティ・レポートの紹介と日本の拘禁制度の改善の方向について考えるセミナーをアムネスティ・日本支部などとも共同で実現する方向で話し合っています。