革手錠の検証勝ち取る!

上本 忠雄 (第二東京弁護士会)


 千葉刑務所内の拘置区で看守らから暴行を受けた上、革手錠を装着され、うち一昼夜は両手後ろで、その後3〜4日は両手前の状態で保護房に収容されたという事を理由とした国家賠償請求事件(その概要は、本通信10号で報告済み)で、千葉刑務所内での革手錠の検証が実施されたので、その様子について報告します。

 東京地裁での一審でも革手錠と保護房の検証は申請していたのですが、採用されず、判決も国側主張の原告による看守への暴行の事実は否定しながら、原告が看守に暴行を加えようとしたと「誤認」したことに過失はない、保護房に収容したことも、併せて革手錠を装着したことも違法ではないという、無茶苦茶な判決でした。

 一審では、原告による看守への暴行の事実が否定されたので、控訴審では争点を絞って、革手錠の装着、とりわけ両手後ろの状態で保護房に収容していたことが違法であるという点を中心に主張を重ねていました。特に、重点的に主張したのは、両手後ろの状態で保護房内に収容した場合、糞便の垂れ流しや犬喰いを余儀なくされる結果となり、これは明らかに非人道的な取り扱いであり、国際人権規約7条、10条に定める被人道的あるいは品位を欠く取り扱いに当たるということでした。

 東京高裁は、両手後ろの場合と両手前の場合とで、どのように暴行抑制効果が違うのかを明らかにするように、国側に求めましたが、国側は両手後ろの場合の方が身体の重心が後ろに位置することになるので、「暴行をしようと職員に突進してこようとする際の被収容者の機敏な前進動作を抑制すると同時に、職員が暴行を避けるための時間的な余裕を確保」できるなどと主張していました。

 しかし、両手前の状態であっても、両手を腰の位置に固定された状態で、職員に突進しようなどというのは、殆ど自虐的な行為としか言えないものです。職員としては、足払いなどの手段によって、すこぶる容易に被収容者の暴行を制圧することが可能です。

 国側のこのような主張は、裁判所にも信用し難かった様子で、両手前と両手後ろとでは、どのように被収容者の動作が抑制されるのか、暴行制圧の容易さはどの程度違うのか、実際に確認するために、検証を実施することになったのです。

 裁判所は、当初は法廷内で簡単に検証することを考えていたのですが、国側はあくまでも革手錠を傍聴人に公開することに抵抗し、「暴行抑制効果についてその具体的状況を実際に革手錠の使用を通して法廷内において立証することは、とりもなおさず、革手錠使用時における被収容者の職員に対する暴行方法を明瞭に再現することであり」、「今後、不特定多数のものが革手錠使用時における暴行方法を知る可能性を残すことは、まさに、革手錠を使用した際における暴行の抑制効果を著しく低下させることにな」るなどと、奇想天外な理由で法廷内での検証に反対しました。もともと、本件では革手錠を使用した状態で原告らが暴行をしたという事実は、国側からも主張されておらず、また、革手錠を使用した状態でどのような暴行が可能なのかは、「再現」を見ないでも普通の人であれば、大体想像できるはずですが、法務官僚にはそうではないようです。国側の指定代理人の作成する文書には、よくそこまであれこれ理屈を考えつくものだと関心するものがありますが、法廷内での検証に反対する書面もその典型でしょう。

 ともあれ、裁判所は法廷内が無理であれば千葉刑務所内で検証をしようということになり、千葉刑務所内の会議室に保護房の部屋の広さを床にテープを貼って再現したところで、実際に書記官に実験台になって貰って、両手前と両手後ろ手錠の状態を再現して検証を実施しました。

 その結果、書記官は両手後ろの方が歩きにくいと感想を漏らしていましたが、何れにしても容易に職員は被収容者を制圧できることが明らかになりました。また、約30分間ほどの検証で、しかも革手錠と併せて装着する金属手錠は非常に緩い状態にロックされていたのですが、それでも検証終了時には両手首が赤く腫れ上がった状態になっており、横になったりすると金属手錠がすぐに手首にくい込んでしまうことも明らかになりました。

 また、革手錠の構造も現物を見ることで鮮明になりました。かなりの重量感があり、両手前手錠の状態で普通に立っているだけでも、相当の拘束感・疲労感を感じるでしょう。

 もともと、保護房内に収容した被収容者に対して革手錠を装着してまで、その行動を抑制する必要性があるとは思えません。仮に、場合によっては相当な興奮状態にある被収容者に対して、例外的に使用することが許されるとしても、両手後ろの状態は更に極限的な場合にのみ限定されるべきでしょう。今回の検証により、革手錠を装着した場合の身体の動静がどのように抑制されるかが一層明確になったことにより、革手錠の非人道性が明白に立証されたと考えています。


以下は、写真説明ですが、現在のところ、ウエッブ・ページでは表示できません(印刷されたきわめて解像度の悪い写真しか手元にないためで、入手できたら公開したいと考えています)ホームページ編集者

革手錠「両手前」の状態 11
ロックされていない金属手錠はだんだんきつく締まっていく 12
革手錠装着時の「制圧」 5
革手錠を装着された場合、口と椀はこれ以上近づかない 18
革手錠「両手後ろ」の状態 23
革手錠両手後ろの状態での食事「犬喰い」 30
検証終了時、両手首は赤く腫れ上がっている 43