死刑執行に抗議する!

8月1日東京拘置所で2名、札幌拘置支所で2名の死刑執行
監獄人権センター事務局


去る8月1日、東京拘置所で2名、札幌拘置支所で2名、計4名の死刑確定者に対して死刑が執行された。監獄人権センターは死刑を執行した松浦功法務大臣(当時)および法務省に対して強く抗議する。また、9月12日に就任した下稲葉耕吉・新法務大臣、および法務省に対して、死刑執行の停止、死刑廃止への措置をとること、死刑確定者処遇を早急に改善することを、強く要請する。
東京拘置所で執行されたのはN・Nさん(48才)、H・Kさん(43才)。札幌拘置支所で執行されたのはY・Hさん(54才)とN・Hさん(51才)の夫妻。
 Nさんは68年10〜11月短銃で東京・京都・函館・名古屋で4人を殺害した「連続射殺事件」で69年4月、19才の当時逮捕され、強盗殺人などの罪で起訴。79年7月、一審の東京地裁で死刑。81年8月、二審の東京高裁では「犯行時は19才の少年で精神的には18才未満と同じ。貧困も原因」として無期懲役。異例の検察による上訴で83年7月最高裁で破棄差し戻しとなり、87年3月差し戻し控訴審で死刑。
90年4月最高裁で上告を棄却され確定。
 高裁判決のとおり、犯行時は精神的に18才未満であり、死刑判決は18才未満の者が行った犯罪に対する死刑を禁ずる少年法にも、国際人権規約6条5項にも反している。
 法務省幹部は、神戸の小学生殺傷事件に触れて「早期に執行すれば一対で議論される恐れがあった」と述べたという。少年法改正論議が沈静化しつつあると判断し、法改正に応じないことの代償として、少年犯罪に対する報復感情を満足させる目的でNさんの処刑が行われており、極めて政治的な執行である。
 Nさんは拘禁生活中に独学し「無知が事件を生んだ。無知を生んだ貧乏が憎い」と主張、死刑についても「自分が殺したからこそ国家の殺人は許せない。死刑執行の時まで抵抗し続ける」として、死刑廃止運動に大きな影響を与えてきた。彼の遺体は2日、拘置所内で火葬された。弁護士は「事前に連絡はなく、非常に急いで火葬したという感じがする」と話している。Nさんはこれまで「執行の時は全力を挙げて抵抗する」と話しており、抵抗の跡を隠すための火葬ではないかとの疑問も残る。
 Kさんは85年3月、埼玉県岩槻市の父親方に押し掛け、父親と同居していた女性と女性の孫娘の3人を日本刀で刺殺したとして逮捕。86年5月一審浦和地裁で死刑。同年12月東京高裁控訴棄却。89年11月最高裁で上告棄却により死刑が確定した。
 彼に対しては「鑑定留置」(注:精神鑑定のため被告人を留置すること)が行われたが、「性格異常であるが精神異常ではない」との結論から起訴された。責任能力が問題とされたにも関わらず、一・二審ともに精神鑑定を採用せず、さらに、一審1年間、二審6ヶ月という短期間の審理で、死刑判決を下している。
 H夫妻は、共謀のうえ、自分が経営する従業員宿舎の放火を計画。指示を受けた暴力団組員が84年5月夜、宿舎に放火して6人を焼死させ保険金をだまし取ったとされる「夕張保険金殺人事件」で現住建造物等放火、殺人により起訴。札幌地裁は87年3月、二人に死刑を言い渡し、二人とも殺意を否認して控訴した。88年10月、「昭和天皇死去に伴う恩赦」を期待して、天皇死去以前の刑の確定を求めて控訴を取り下げたが、恩赦は認められなかった。国際人権規約(自由権)6条4項は「死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。死刑に対する大赦、特赦又は減刑は、すべての場合に与えることができる」と定めており、恩赦は「権利」である。死刑判決を受けた者を事実上その対象からのぞく日本の恩赦制度そのものが規約に違反である。96年5月、Y・Hさんは「控訴取り下げは昭和天皇の容体が悪化していた時期で、当時の弁護士から恩赦の可能性があると勧められ、誤信したもので、錯誤により無効」として、札幌高裁に公判再開を申し立てた。しかし、96年8月、高裁は「取り下げは無効とはいえない」として申立を棄却。97年5月30日、最高裁も特別抗告を棄却した。処刑当時Y・Hさんは、糖尿病が悪化し、3ヶ月以上前から医務部に収容されていたという。
 1989年の国連総会で死刑廃止国際条約に反対した日本政府は、死刑存置国の死刑制度運用に一定の適正な手続を定めた「死刑に直面する者の権利の保護の保障の履行に関する決議」には賛成した。同決議は「手続きのあらゆる段階において弁護士の適切な援助を受けることを含む弁護を準備する時間と便益を与えることによって特別な保護を与えること」「すべての死刑事件で、…必要的上訴(注:慎重を期すため必ず最高裁まで審理すること)…を規定すること」などを定めている。93年10月には国連規約人権委員会(自由権)から、「死刑廃止にむけた諸措置をとること」「死刑確定者の処遇が再考されるべきこと」等の「提言および勧告」が出された。また97年4月3日には、国連人権委員会で、死刑存置国に死刑廃止・執行停止、死刑廃止条約の批准を呼びかける内容の、死刑廃止決議が採択された。これらに反する今回の執行は重大な国際法違反である。
 近年、国内での死刑の執行が年二回、国会閉会中に行われる傾向が定着させられようとしている。今回で5年連続、計25名が執行された。これは従来の年1〜2名の執行と比較しても、異常な大量執行である。また、執行される時期や死刑確定者の順序も非常に曖昧かつ恣意的で、常に政治的に利用されている。
 松浦法務大臣(当時)は「報道機関が確認に来られれば、死刑執行指揮書に署名したかどうかは答える」と発言した。しかし、死刑に関わる情報は一般には勿論、執行される死刑確定者本人にも公にされていない。報道によれば法務省幹部は「開会中は国会の質疑で取り上げられる可能性が高い。そうした時期には執行しないのが不文律のようになっている」と話したという。このような厳重な密行主義のもと死刑確定者の生命が奪われている。
 下稲葉耕吉・新法務大臣は就任後の記者会見で、「執行を公表する考えはないか」との質問に対し、「遺族の方の気持ちや社会的影響を考えると、積極的に公表する気はない。(報道各社などから執行について)質問があった場合にうそをつく気はないが、公の立場でコミットするのがいいのかどうか」と答えたという。国際的に死刑廃止の流れが確固たるものとなり、国内的にも最高裁判決補足意見で死刑制度見直しが言われ、世論の流動化傾向もある中で、制度を存置し、年間多数の死刑確定者を処刑し続けることがどうして必要なのか、なぜ殺さなければならないのか、明確な説明は行われていない。
監獄人権センターは死刑を執行した松浦法務大臣(当時)および法務省に強く抗議する。そして、下稲葉・新法務大臣および法務省に死刑執行の停止、死刑廃止への措置をとること、死刑確定者処遇を改善することを、強く要請する。
ご賛同いただけるみなさん、下記に抗議および要請をお寄せください。

松浦 功 (8月1日当時法相)
〒100 東京都千代田区永田町2-1-1参院議員会館426号
Fax. 03-3508-8426
〒167 東京都杉並区清水1-16-13
橋本 龍太郎 首相
〒100 東京都千代田区永田町1-6-1 首相官邸
Fax. 03-3581-3883
〒710 岡山県倉敷市羽島岩山1000-72
下稲葉 耕吉 (新法相)
〒100 東京都千代田区霞が関1-1-1 法務省
Fax. 03-3592-7011
〒179 東京都練馬区春日町2-18-3