徳島刑務所人身保護請求について

金子 武嗣 (大阪弁護士会)


1、はじめに

 本件人身保護請求は、徳島刑務所在監中のK受刑者の弁護団、原田香留夫、木下準一、金子武嗣が1997年5月2日申立人となり徳島地裁に対し申し立てたもので同受刑者を手術と治療のため、香川医科大学附属病院か岡山大学医学部附属病院へ転院させ手術後医療刑務所へ移監させるよう求めたものである(徳島地裁、平成9年(人)第1号事件)。  K受刑者は、CPR News Letter bS、10で報告したように、受刑者接見妨害事件の原告でもある(同事件は高松高裁に係属しており1997年7月29日に結審し、11月25日午後1時10分判決言渡の予定である)。

2、K受刑者の状況

 K受刑者は、刑の確定により1990年4月26日、大阪拘置所から徳島刑務所へ移監された。
 当時から多くの主訴があり歩行障害があったが、徳島刑務所側はすべて詐病として取上げてこなかった。K受刑者や弁護団は、たびたび徳島刑務所に指摘してきたため、徳島刑務所も1991年5月に徳島市内の田岡病院でMRI検査を受けさせたところ、腰椎(胸椎)に黄色靱帯骨化症があり、脊髄の圧迫所見が見受けられていたにも拘らず、徳島刑務所は大したことはないとして従前と変わらない処遇を続けた。

 しかし、別件の大阪地裁係属事件(大阪地裁、平成2年(ワ)第3054号)で1994年4月に香川医科大学の乗松尋道教授の鑑定が提出され、K受刑者の主訴が11―12の腰(胸)椎の黄色靱帯骨化症という客観的な病状に裏付けられることが明らかとなった。そして同年10月14日の証人尋問で乗松教授は手術をしなければ、病状は改善できず、歩行不能となると指摘された。弁護団は同年12月徳島刑務所に話し合いを申し入れたが、同刑務所はこれを拒否した(徳島地裁、平成2年(ワ)第332号)ため、それまでの徳島刑務所相手の損害賠償事件で、鑑定を申し立て、1995年10月27日徳島地裁はこれを採用し鑑定が開始された。
 また1995年12月に手術を受けるまでの損害賠償を求める訴えを提起した(徳島地裁、平成7年(ワ)第555号)。

3、鑑定意見

 鑑定は、岡山大学医学部整形外科原田良昭講師と神経内科城洋志助手の2人でなされたが、その鑑定結果が1997年3月、5月にそれぞれ提出された。
 その鑑定によれば、「原告には、胸腰椎移行部(T11/12)に黄色靱帯骨化がみとめられる。鑑定人による診察時点(平成9年2月21日)で、両下肢のほぼ完全な運動麻痺の状態であり、手術による回復は極めて困難と推定される。」(原田鑑定)「神経障害はあり、頸椎症及び胸椎の黄色靱帯骨化は年々進行していると推定されるので、治療のためにも新たに画像検査を受け、治療方針を決定すべきである。原告の訴える腹部腫瘤については、消化器系疾患の専門医の診察を受けるべきである。」(城鑑定)という乗松鑑定を裏付けるものであった。

 このままでは手術をしても回復が困難となってしまう。そこで、弁護団は鑑定結果を踏まえ急拠人身保護請求を申し立てたのである。

4、人身保護請求について

 受刑者の処遇改善について人身保護請求が許されることは判例が認めるところである(東京地判平成5年1月13日、判時1454号29頁)。
 我々は国際人権規約自由権規約(B規約)7条、
10条1項、被拘禁者最低基準規則や「あらゆる形の拘禁受刑のための収容状態にある人を保護するための原則」などで、受刑者の治療の必要性が定められている。監獄法も40条、42条、43条、規則117条1項等で必要な治療を定めている。刑務所に課せられた国際人権規約並びに監獄法などに基づく基本的義務を懈怠した場合には、法令に定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著として違法とされ、人身保護請求による治療のための病院への移監などの処遇がされなければならないと考える。受刑者の客観的症状と移監の必要性が認められれば、人身保護請求は極めて有力な武器になるし、これしかないのが現状である。

5、訴訟の現状について

 人身保護の審理は、徳島地方裁判所で進められている。第1回は1997年7月16日に行われた。徳島刑務所は審問期日が決まった後の同年7月1日から10日の間、K受刑者をわざわざ別の房に移し、一日中テレビカメラで監視し、動静につきすべて録画をとった。これによりK受刑者の主訴がおかしいことを立証しようというようである。弁護団はビデオテープを入手し、検討を加えたが、そこにあるのはK受刑者のやつれはてた姿であった。動くときは、体をゴロゴロと這わせなければならず、手洗いの水は立てないので使えないため、這いながらでもできる水洗便器(洋式)を使わざるを得ないというひどいものであった。

 そもそも、裁判のためとして24時間すべての生活、寝姿はもちろん大小の排泄までビデオを撮るという徳島刑務所の非人間的あり方が問題とされるべきである。
 1997年9月5日に第2回の審問が入っているが、弁護団はK受刑者の人身保護による移監決定を求め、努力する所存である。