5月17日セミナーでの質疑応答

質問日本も条約を批准すれば定期的に自国の人権状況をCATに報告する義務が生ずるが、具体的にどういったことが行われるのか?またその国の制度や状況の改善に大きな影響を与えた例がありましたら。

ソレンセン二番目の質問からお答えします。二つ例を挙げたいと思います。まずイギリスです。90年11月に英国からCATに報告書の提出がありました。これは公的な公開のミーティングです。BBCも参加していました。先ほど第2条で示しました拷問の定義・対象というのがすべてイギリス政府に提示されました。私たちはイギリス政府は北アイルランドについてはむしろ拷問を推進していると言いました。こういう問題が起こっていたのは北アイルランドの拘置所でした。先ほどグアテマラで示したのと同じようなことが起こっていたのです。会議は公開で行われましたので、BBCを通じて全部放送されています。イギリスがCATのメンバーになる前、つまり90年11月以前には、1ヶ月に100件くらいの苦情・申し立てがなされていました。こういう形で公開で議論を行い、またそれがBBCというメディアを通じて公開されることによって、この件数はすぐに減少しました。会議が行われたのは90年11月半ばくらいだったのですが、91年1月には申し立ての件数は10件になっています。ですので、申し立ての数を100から10に減らすことができたわけです。今は1ヶ月に1回くらいです。
 もう一つの例はメキシコなんですが、報告が行われたのが90年だったと思います。メキシコの法務省から提出されたデータというのはあまり満足のいくものではありませんでした。また、政府の代表として出てきた法務大臣が拷問にも関与していたのです。報告書が委員会に提出された次の日、法務大臣が首相に解任されています。ということでこれも一歩前進だと思っています。ほんの例にすぎませんけれども。
 一番目の質問ですが、批准したら、6ヶ月以内に最初の報告書を出さなければなりません。もちろん毎回期限が守られるわけではありません。ウガンダの場合、88年6月26日にレポートが提出されていたはずなんですが、まだ提出されていません。ですが、報告書が出されますと先程言いました10人のメンバーで検討を行います。また、NGOからの情報もたくさん入ってきます。例えばアムネスティやヘルシンキ・ウォッチからの情報ですね。それと日本の監獄人権センターからも報告が入ると思いますが。こういう情報をもとに政府と話し合いをすることができます。勧告を行いますけれども、最初に必ず謝辞が書いてあります。あいさつからメインの部分に入りますと、私たちが懸念していること、そして実際に改善の勧告ということになります。そして締約国が私たちの勧告に従ってくれることを期待するわけです。私たちは執行させる力は持っていないのです。ですが、報告書は公表されます。そして国連総会に送られます。ということで国にプレッシャーがかかることになります。
 拷問が行われていない国でも非人道的な取り扱いというのはある程度は存在しているものなんです。そして、すべての国、100%の国は何らかの批判を受けます。そして、国々は指摘されたことを直そうと努力するわけです。4年後にはもう一度政府がレポートを提出します。これは非常に批判的な目で私たち委員のチェックを受けます。「4年前にはこういう勧告をしたのに、なぜ今できていないのですか?説明してください」という形で批判していくわけです。この方法は非常に効果があります。
 私たちはいわゆる情報を公表するという以外の権限を持っていませんので、執行させることはなかなかむずかしい面はありますが、だいたい当該国の報道機関が来ていますので、それによってカバーしてもらうわけです。参考までに国連の中で執行力を持っているのは安全保障理事会だけです。

質問NGOからの情報を活用しているということですが、例えばアムネスティ・インターナショナルとかヒューマン・ライツ・ウォッチのような大きなNGO、国連NGOであれば、情報の提出の仕方・ノウハウを知っていると思うんですが、比較的小さな、ローカルなNGOが情報を提出しようというときにはどうしたらいいのでしょうか?

ソレンセンアムネスティ・インターナショナルやヘルシンキ・ウォッチはすばらしいレポートを作ります。これはある意味で当然のことです。ですが本当にその場に即した、詳しい、生々しい情報というのは地元のNGOからくるんです。手続きから言いますと、6ヶ月前にはどの国が調査の対象になるかがはっきりします。はっきりはしていないんですが、アムネスティなどがCATの調査があると地元のNGOに知らせているんではないかと思います。ですから、調査のタイミングというのはみなさんにも伝えられると思います。NGOから出される報告の内容ですが、まったくNGOの自由です。いわゆる公的言語で報告が出てくれば非常に助かります。CATの場合には、できれば英語、フランス語、スペイン語のいずれかで出していただきたい。国の方からは「こういうふうにうまくやっている」という話しはあると思いますので、NGOはむしろ悪いこと、間違っていると思われることをレポートしてください。CATにとっては批准後に起こった事件だけが対象です。批准前に起こった事件は対象外です。私たちとしては2つのタイプの情報を是非いただきたいと思っています。一つは特定の係争事件、単純にいつ、どこで、誰が、どういうことをおこなったか?、誰によって、何がなされたか?ということです。こういう情報を送っていただくときにはその関係者、対象者から合意を得てください。こういう形で具体的ケース、拷問がおこなわれた例を挙げていただくと、政府からの代表に対してピンポイントできます。もう一つの情報としてはその国の弱点ですね。例えば、私の国(デンマーク)ですと刑務所ではそれほど問題は起きていません。ところが、警察の留置場の場合ですと、例えば親類や家族、弁護士との接見交通権や医者と会う権利というものが保障されていないんです。これでよろしいでしょうか?

質問日本では被疑者が逮捕された後、23日間警察署内の留置場で拘禁することが可能です。その拘禁期間に、取調べも可能で、それによってたくさんの嘘の自白が採られているという訴えがあります。この「代用監獄制度」には、拷問禁止委員会の立場からすると、どういう問題があるでしょうか?

ソレンセンCATは一番重要な問題は、ある人間が逮捕されたり留置されている場合に、家族に知らせない、弁護士に知らせないこと(Incommunicado)だと考えています。日本でもそういうことが起こってはなりません。もしそういうことがありましたら、状況を詳しく報告してください。例えばヘロインを5キロも輸入した人間だと奥さんの方に警察に捕まったとすぐに知らせるのはまずいのかもしれませんが、そういう例外的な場合には必ずそういう規則ができているはずですし、作らなければなりません。もう一つ重要なのは書類ではなく、本人が裁判官の前に連れていかれるということです。適切な時間内に裁判官に会わなければならない。私たちは24時間以内と言っているんですが、まぁ交通の状況とかにより国によっては48時間以内となっているところもあります。その後、釈放されるか、もしくは拘置所の方に移されなければならない。CATもCPTも警察署に人間を置くというのはその人にとって大きな危険があると考えています。拷問も品位を傷つけるような行為も警察署で行われる危険性があるんです。今言ったようなことをCATからの勧告という形で出しています。

質問国連の人権委員会の作業部会で拷問等禁止条約の選択議定書(Optional Protocol)のドラフトが検討されていると思うんですが、この制度にはどういう期待ができますか?日本政府はこの人権委員会での審議には後ろ向きの態度をとっていると聞いていますが、日本政府に注文したいことはありますか?

ソレンセンここは私の個人的な意見になりますか?公式の意見になりますか?公式な見解としてはもちろんこの選択議定書のドラフトというのは非常に重要です。ご存じない方に説明しますと、この選択議定書は今ヨーロッパで発効しているCPTで行われていることが世界中で実施されるということを意味します。今交渉が行われているのは年2週間なんですが、非常に熱心な議論が行われています。「国からの招待があったときにのみ訪問調査が許されるべきだ」と言う国もあります。私の意見ではそんなことなら選択議定書は必要ないと思います。招待したいなら招待すればいいのですから。機能・使命というのはCPTと同じであるべきです。日本もこの交渉に参加していますけれども、選択議定書を批准することになるんであれば、ちゃんと機能するような形で持たなければならないはずです。次のミーティングは10月に行われます。

質問ソレンセンさんはエジプトやトルコの調査にも携わったと思いますが、どういう調査が行われてどんな経験をされたのか?特徴的なことがありましたら、教えてください。

ソレンセン調査は第20条をもとに行います。要件が3つあります。十分根拠のある情報を受けていること。情報源に信頼がおけること。また系統的・組織的な拷問が行われているということ。それをもとに政府と話し合いを持ちまして、調査を行います。訪問をする場合もあります。トルコについてはそういう訪問調査を行いました。問題はなかったです。CPTの訪問調査と同じような形で行われました。エジプトについては4年半くらい交渉を行いましたが、訪問調査をするという合意はとれておりません。ですから、一つの国は全然問題がなかった。もう一つは訪問調査をするまでの段階で大きな問題があったということです。

質問エジプト政府は「このような拷問禁止委員会の決定はテロリストを勇気づけるだけだ」というような発言を行ったということですが?

ソレンセン調査の許可を求める交渉の中では第2条をもとに話しをします。私たちの立場からすると、テロリストであろうとなかろうとそれは言い訳にはならないのです。どういう形であれ拷問は認められません。テロリストに対して拷問を加えてはいけないということがテロリズムを支援することになるとは私には信じられません。エジプト政府に対しては、私たちはテロリズムに反対しているとはっきり伝えてあります。テロリストにはいろいろな手段をとれると思いますが、その中には拷問は含まれていないというのが私たちの見解です。人類の歴史を見た場合、拷問で政治的な問題が解決したことは一回もありません。むしろ反対のことが起こっています。拷問をやめたときから交渉が始まっていることの方が多いのです。

質問昨日府中刑務所を訪問されたということですが、その感想を。

ソレンセンまず申し上げておきたいのは、刑務所の訪問については私はゲストとして招かれたわけで、調査官として入ったわけではありません。そしてゲストで招かれたらホストのことを悪く言わないというのは鉄則なんです。それに府中刑務所にいたのは1時間半です。CPTが刑務所を訪問するときには、普通は7人で行って、3日間調査をするわけです。そして調査の後、お互いに討論して結論を出します。そしてその後勧告やコメントを行います。ですので、ご理解いただきたいのですが、たった1時間半の訪問ではコメントすることができないのです。

質問プライベートな精神病院で公務員の関与抜きに拷問等が行われた場合は、拷問等禁止条約の適用はあるのか?学校での児童への体罰、出入国管理施設など、CATは関与することがあるのですか?

ソレンセン今質問で出されたことというのは、非常に重要なことです。ただしそれがCATの対象かというと、プライベート、つまり公務員が関わらないで行われたことはCATの範囲外となります。精神病院で行われていることというのはCATの対象外です。収容されている人間に完全に自由が保障されていて、例えば扱いが気に入らないから出ていくということが完全に自由にできましたら、CATの対象外となります。学校については私の方ではふれなかったんですが、これは国連の子供の権利条約という非常に良い条約がありますので、そこでカバーされています。出入国管理関係の施設については、CATについてもCPTについても非常に興味のあるところです。どこに収容されているのか、どの場所にあるのか、どういう形で審査が行われて、本国に送還される場合にはどういう形になっているのかということは、CAT、CPTにとってすべて討議の対象です。CPTの例ですが、国によってはこういう入国管理関係で捕まった人たちを出入国管理施設ではなく刑務所に入れているケースがありました。刑務所というのは基本的には犯罪者が行くところです。政治避難民(Asylum Seeker)が行く場所ではないわけです。私たちが話しをした国においてはほとんどそういう慣行はなくなっています。

質問日本の裁判官や法律家は国際人権法について十分訓練を受けていないので、これに基づいて裁判を行うことに慎重になったり、躊躇したりする傾向があるが、それをどうやったら変えられるか?
ソレンセンさんはどういうきっかけで拷問の問題にたずさわるようになったのか?

ソレンセン一番目の質問は非常に重要です。条約の条文に、拷問の禁止に関する教育を研修の中にとり入れなければならないと書いてあります。これ以上の強い文言というのはありません。それを私たちはすべての国々に言っています。ご存じのとおり、国連は一国の内政には関与しません。ですので、私たちは「おたくの国はこういうことをすべきです」と言いますが、どういうふうにするかはその当該国に任されることになります。そのあと私たちの方でこう言葉を続けます。「検察官や裁判官に良い資料があるんですけれども…」と。「ジュネーブのテクニカル・アシスタンスの方に行って是非そういうサポートを受けて下さい」と申し上げます。非常に重要な問題です。「薬を飲ませる」ためにはどうするかということですけれども、まず裁判官・裁判というのは完全に独立していなければならない。これは世界でも広く認識されていることです。次に、精神医学的に裁判官として耐えられないということでもない限り、裁判官を解雇してはならない。三番目に給料が高くないと。サラリーがいいということは非常に重要なんです。国によっては裁判官の給料があまりにも低すぎ、ワイロを得ないと生きていけないというケースがあります。ですから、裁判官のサラリーは高くしてくださいと申し上げます。
 二番目の質問は私個人に関わることですね。私はコペンハーゲン大学の外科の教授で、学部長だったんです。EUのメディカル・リサーチ・カウンシルの議長でもありました。EUには50万人くらいの医者がいますが、その代表だったわけです。でも、みなさんと同じように人権について非常に関心を持っていました。84年に、先ほど申しました、RCT(拷問被害者のためのリハビリテーションセンター)の議長が必要になったんです。デンマークの医師会の方から私が指名されました。それまでは拷問については全然知らなかったのですが、この分野に大変興味を持ちました。拷問を受けた人たちの人格が完全に崩壊しているのを見ました。こうした病状というのは人工的に作られたものなんですね。外科医としてはそういう人工的なケガというのは見る機会はなかったんです。またこうした犠牲者に対して、治すことができる、癒すことができるということも分かりました。こうして非常にこの分野に興味を持ちました。そして哲学者のカントが言っているように、私にとって一番重要なこと、命を捧げてもいいことになったわけです。それからCATとCPTのメンバーになりました。実はこの二つの委員会のメンバーを兼任しているのは私だけで、またCATのなかでは医学者として委員になっているのは私だけです。そういうことで自国から1年間に120日は離れなくてはならないような状況になってしまいました。そうなると大学には勤められなくなりましたので、辞めたというわけです。ですけれども私は1秒たりとも後悔したことはありません。私の生涯の中で一番意味のあることをやっているんだなぁと言う自覚を持っています。どうもありがとうございます。


日弁連セミナーでの質疑応答

質問外務省人権難民課でのやりとりについて。

ソレンセン外務省へ訪問した際、担当の方が第7条について議論しているとおっしゃっていました。これは普遍的管轄権(Universal jurisdiction)の条項ですけれども、日本が批准をすると、次のようなことが行われるようになります。外国で拷問を行った人間が日本にいる場合、日本は以下の二つのうち、どちらかを選択しなければなりません。裁判が確実に受けられる場所にその人間を送るか、あるいは、日本で訴追して日本の裁判所で裁判を起こさなければならないのです。
 外務省の方からは正当なコメントかなぁとも思うんですけれども、実際にはこの条項をどういうふうに適用するのか、他の国で行われた拷問ですので、その国からどうやって証拠を入手すればいいのか?とおっしゃっていました。
 私はその質問には直接答えないで、むしろ「この条項は予防的な意味合いが強い」というふうに説明いたしました。世界中で拷問を行う者がこの条項、つまり他国に逃れても意味がないということを知るわけです。
 もう一点、これは委員会にとっても、もし実行できれば理想的な状況です。しかしながら、実際にはこういう形で訴訟が起こったことはありません。ですから、外務省はそれほど恐れることはないだろうと思うんですけれども。

質問精神的な拷問は、どのように証明するのか?

ソレンセン精神的な拷問は、ほかの精神的障害の分析と同じような形で行うことができます。それにはいくつかの条件がありまして、精神科医なり医者なり、こういう拷問について熟知している人間がまず必要になります。それから、時間が必要です。なぜかといいますと、心理的な拷問を受けたかどうか、その人間に聞いて、イエス・ノーをその場で答えるということは期待できないからです。これは弁護士のみなさんはよくご存じだと思います。犯罪を犯した人間は、その犯罪を犯したときに正気だったのかどうかという問題がよくでてくると思うんですね。これは法医学の精神分析医が担当するわけですけれども、場合によると数週間かかります。ですが、それだけの時間をかければ裁判所も納得いくような答えを得ることができます。
 それとまったく同じような方法が精神的拷問を受けた人たちにも当てはまります。その際、調査をする人間は、自分が何を知りたいかということを具体的に把握していることが重要です。ですから、条約を批准する必要があるわけなんです。なぜなら、これを批准することによって、国家はそれを担当する人間を教育する義務を負うからです。

質問刑務所の調査の場合、受刑者に直接インタビューすることが難しい事例はありますか?

ソレンセンヨーロッパ拷問等防止委員会(CPT)の立場で申し上げます。CPTはそういう調査をする権限を持っています。CPTを批准するということは、その調査を受けるということを前提としていますので、実際上も問題はありませんでした。
 例えばイギリスなんですけれども、刑務所に非常に危険な人間がいました。投獄されていた期間に1人ずつ、その時点までで4人の看守を殺害した人です。私たちとしては、こういう人間がどういうふうに刑務所で扱われているかを見たいわけです。それで、「その人とインタビューができますか?」と私たちの方で聞きました。刑務所長は、「もしそれをやらなくてはならないのでしたら、十分気を付けて下さい」と言い、私たちは「私たちだけでやりますよ」と言ったんです。それで精神分析医と私と2人で彼の房に行きまして自己紹介をして、「少しお話しできますか?」と聞きました。彼は「インタビューには応じたくない。静かにしていたい」と答えました。私たちは「では、1時間後に戻ってきます。そのときまでに気が変わっているかもしれませんからね」と申し上げたんです。で、1時間後に戻りましたら、非常に良いインタビューができました。私たちが欲しいと思っていた情報、悪い取り扱いを受けたのはどういう状況かという情報が得られたわけです。

質問拷問禁止委員会がこの条約に基づいて設置されて、委員が10名だということは聞きましたけれども、具体的にどういう活動をしているのか。特に、各締約国からの報告を審査したり委員会独自に調査に入るということもあると聞いておりますが、具体的にはどういうことなのかをお尋ねしたいと思います。

ソレンセン国別報告書を審査します。だいたい一つの国について1日、もしくはそれより長くかけますので、時間としては十分です。私たちの主な機能はそこにあります。
 次の主な機能としては、個人通報の審査です。普通はこれは代表者を使って行います。その代表者が審査を行って、その結果を委員会の方で承認するという形になります。審査自体は公表しない形でやるんですけれども、結果は公表されます。
 調査は基本的には認められていないんですが、一つだけ例外があります。十分な根拠のある情報で、その情報源が信頼のおけるものであり、ある国で拷問が系統的に行われているという情報を得た場合、第20条を適用し、調査を開始することができます。その結果として当該国への訪問調査ということになる場合もあります。けれども、そういうケースは少ないですね。
 そして、話し合いは公表しないところで行われます。ですが、その結果は公表いたします。過去10年の実績で、2つの国にだけこれが適用され、2つのレポートが出ています。

 93年のトルコのケース。これは訪問調査をしました。それと、去年のエジプトのケース。ここは訪問調査はしていません。政府の抵抗を受けたからです。
 ですから実際に国連の拷問禁止委員会でやっている調査というのは非常に限定されています。10年間に1回しかしていないわけですから。それに比べて、ヨーロッパ拷問等防止委員会の場合には査察というのが重要な仕事になります。

質問中国において拷問が実際に行われているという委員会の見解が出されたそうですが、どういったやりとりがありましたか?

ソレンセン中国のケースでは、最初の報告書が出されたのが90年か91年だったんです。その時は拷問の存在について全面的に否定しました。そして私たち委員会のことを「嘘つきだ」と言いました。「NGOを信じるからだ」と。「誠実でない」とも言われました。「中国の国内事情、内政に干渉している」と非難されたのです。
 最新の報告書は95年の11月か96年初頭に提出されました。中国とは非常に長時間にわたって、有意義な話し合いを行いました。彼らの態度は次のようなものでした。彼らは「ある程度は拷問は行われている」ということを認めました。「NGOが言うほど多くはないけれども、少なくともいくつかの拷問はある」と。「それについては誠に残念だと思っている」と。また、「国としてはベストを尽くしたつもりだ」と。
 二つの事件で、拷問を行った検察官に対して、非常に厳しい判決が出されています。今後すべての刑事司法制度を改革する予定であると言っています。今までは自白に頼ったシステムだったわけですが、証拠を重視するシステムに移行すると言っています。
 私たちの方では、拷問の被害者に対するリハビリテーションセンターを支援する必要があると言いました。この代表団の団長だったのはジュネーブ駐在大使のフーという方ですが、この提案を中国政府に持ち帰ると言いました。私はこれは非常に有意義なディスカッションだったと思っています。
 私たちCATの委員というのは10人しかいませんけれども、決して馬鹿ではないつもりです。11億もの人口がある国では、一つのことを変えようとしてもなかなか大変だということは分かっています。その日、ディスカッションが終わりまして、CATの委員の側も、それから中国の代表団もハッピーだったと言い、非常に良いディスカッションができたなということで満足できました。

質問一般的に、拷問の被害者に対してどういう治療法が可能なのですか?

ソレンセンちょっと詳しくお答えするだけで2時間くらいかかってしまいますね。今の質問にお答えするために過去20年間仕事をしてきたようなものです。
 簡単にお答えしますと、拷問というのは心理的なものと肉体的なものがあります。ですから、治療法も当然、肉体的なものと精神的なものがあるわけです。
 被害者だけでなく、家族全体が傷ついていますから、家族全体に対する治療も必要です。何か拷問を思い出させるようなことがありますと、例えば電気を使ってショックを与えられて尋問等が行われたとしますと、もう電気的なショックを与えられて拷問を加えられることはないんだということを、時間をかけて説得していかなくてはなりません。  非常に簡単な言い方になりますけれども、これが原則になります。