ソレンセンさん来日企画顛末記

CPR事務局 桑 山 亜 也


本企画の準備から当日まで様々な形で御協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。厳しい条件のもと、なんとか準備から当日までの全スケジュールを消化することができました(会計上も全体として赤字は回避できました)。尚、詳しくは別途報告書を作成します。ご覧になりたい方には、送料のみの実費(ただしカンパは常に大歓迎です!!)で差し上げます。返信用として190円切手を同封の上、事務局まで郵送にて御請求ください。

5月14日(水) 1日目/日本着

 デンマークからの長旅でお疲れの様子かと思いきや、時差ボケは全くなかったとおっしゃっていました。

5月15日(木) 2日目


一橋大学セミナー「世界の刑事拘禁施設の状況」
 ソレンセン氏が実際に訪問したアジアや東欧を中心とした刑事被拘禁施設の状況をスライドを使ってコメントしながら説明。設備はまだ不十分、衛生面でも問題がある一方で、受刑者が自ら農場を経営したり、(人間の汚物を使った)「発ガス」設備をつくって自らの生活を支えていると聞き、会場からは感心の声も。参加者は一橋大の刑事法専攻の学部生・院生・教授を中心とした30名。

5月16日(金)3日目

アムネスティ議員連盟の国会議員セミナー(議員会館)

テレビ局の取材を受ける
ソレンセンさん
 議員・秘書を併せて総勢30名ほどの出席者がありました。ソレンセンさんからは、日本にやってくる「難民」保護の観点から、CPR事務局長海渡さんからは、日本における人権侵害の解決の観点から、それぞれ拷問禁止条約の批准の重要性を説明。予算委員会などで批准しない理由を問い質すなどの努力をされている議員もいるようですがまだ力不足というのが共通の認識のようです(ちなみに、ソレンセンさんは、なぜ「予算委員会」で条約批准に関する質疑応答がなされるのか不思議がっていましたが…。)さかんな質疑応答があり、議員の関心は高いようであり、ソレンセンさんからも有意義な会であったとの感想をもらっています。

府中刑務所見学
 ソレンセンさんおひとりで見学。見学後、感想を求められ、「あくまでも『ゲスト』として訪問したのだから、『ホスト』を批判することはできない」とのことでした。通常は、3日かけて訪問調査してやっと事情がつかめるのに、今回は1時間30分で、話したのは通訳担当の刑務官のみ。これだけでは、何ともコメントしがたいと話しています。もっともな感想でしょう。

元受刑者および元刑務官との懇談会
 当初の予想以上の出席者(15名程)で、ちょうど同時期に来日していたアムネスティ・インターナショナルの国際事務局職員や、テレビ局の取材までもが加わりました。施設見学だけではわからない日本の刑務所の問題点を理解してもらう格好の機会であり、ソレンセンさん自身も丹念にメモをとり、さかんに質問をしていました。

5月17日(土) 4日目

「ヨーロッパ拷問展」見学
 現在、明治大学で開催中の展示会。中世の遺物であるはずの拷問器具が実は、別の地域で未だ使われているとの感想。人間はいつまで「愚か」なのでしょうか。

『法学セミナー』取材(8月号に掲載)

CPR・アムネスティ共催セミナー 本号の報告を参照

5月18日(日) 5日目

鎌倉で観光
 以前より葛飾北斎の浮世絵のファンであるとか。CPR代表村井さんの発案で「鎌倉美術館」を訪問。お帰りの際にも北斎の画集をプレゼントしました。非常に喜んでおられましたが、もっとゆっくり見たかったとおっしゃっていたとか…。

NGOとの懇談会(アムネスティ東京事務所)
 警察留置場、刑務所、拘置所、入管施設における日本の人権侵害事例を報告。その後、条約批准のためにどんな活動をすべきか話し合いました。今年は国会議員への働きかけに重点を置こうというところで時間切れ。会議では、国際社会における義務として条約の批准を訴えたらどうかなどの提案がありました。関係する団体や個人に呼びかけて、今後ともこうした会を継続して持っていきたいと考えています。

5月19日(月) 6日目

NHK「44ミニッツ」(ラジオジャパン)に生出演

外務省人権難民課訪問
 人権難民課長他2名と懇談。外務省側の意見では、批准の障害となっているのは、条約7条(拷問を行ったとされる容疑者の訴追義務を定めている…日本での証拠収集が困難との理由)というが、ソレンセンさんによれば、この規定は適用可能性がないから悩む必要がないとのこと。今後も外務省との対話を続けていく必要があります。


記者会見(『週刊金曜日172』97年5月30日号に掲載)

日弁連・国際人権セミナー(『自由と正義』掲載予定)
 弁護士、市民等50名程の参加。条約の批准のためにもさることながら、批准後もいかに条約を実効化させるかという点において、弁護士の役割は重要です。今回のセミナーが条約の存在の重要性に気付いてもらう契機となってくれれば(日弁連新聞281号97年6月1日に記事)。

5月20日(火) 7日目

十条・法務省入国管理局第二庁舎訪問
 当初希望していた収容場の見学ができず残念でしたが、大脇雅子議員の協力のもと、入管職員と懇談会をもつことができました。内容は、報告書に掲載予定。

在京の大使館、領事館スタッフとのミーティング
 10ヶ国程が参加。冬の寒さの問題から出所後の生活の問題まで様々な要望をもっているようです。今回あげられた要望は、何らかの形で法務省側に伝え改善を要求していくつもりです。

『日経トレンディ』、BBCによる取材
 前者は、8月号あたりに掲載予定。BBCは、飛び入り参加だったので、詳細は不明ですが、ソレンセンさんから聞くところによれば、「なぜ日本は、拷問等禁止条約を批准しないのか」という質問がメインだったようです。いつも注目するのは、海外向けのマスメディア。日本国内の世論を盛り上げるためにも、もっと日本のマスコミも注目してほしいのですが…。

5月21日(水) 8日目/離日

 約1週間の日本でのハードスケジュールをこなし、なんとデンマークに着いて、お連れ合いに鞄を渡したら、そのままパリにわたると話されていました。さらに、7月初めまでは、また各国を巡るのだそうです。


以上がスケジュールの概要です。来日初日まで固まらないスケジュールの中で、多くの人の協力があってなんとかこなすことができました。今回の企画で改めて、NGO活動におけるマンパワーの大きさを実感したように思います。ただ、ソレンセンさんの来日はあくまでも「はじまり」であって、今後の批准促進活動、さらには批准後に条約をいかに国内で実効化させるかの方がもっと大きな仕事です。今回の準備や当日の運営を通じて、その活動の展開がいかに困難を伴うものかを強く感じましたが、一方で、セミナーの参加者や国会議員の予想以上の関心の高さという明るい要素もあるわけで、これを励みに活動を継続していきたいと考えています。皆様からの厳しくも暖かな助言・意見などお待ちしております。