第4回監獄人権セミナー報告
東京拘置所在監の外国人への面会ボランティアを通じて

監獄人権センター事務局


 96年11月30日(土)、第4回監獄人権セミナーが開催された。お話しは拘置所訪問ボランティアのメンバーで東京拘置所等で外国人被拘禁者に面会によるボランティアを続けているアントニオ・ローリーさん。(当日「アメリカ合衆国における犯罪被害者対策の近況について」、明治大学の菊田幸一さんにお話しいただいた。内容については死刑廃止フォーラムのニュース第39号に掲載されています。)

1.外国人被拘禁者面会ボランティア(VVD)が設立されるまで
(1)外国人被拘禁者と私の関わり
(a)私はフィリピンから来日し、6年間千葉に住んでいた。そこで1992年、フィリピン人関連事件(オーバーステイ、窃盗)に関わり、千葉県の拘置所と警察署で面会したことが外国人被拘禁者との関わりのきっかけであった。1994年にはチャーリー・ガルシア氏とアルトゥール・ララナン氏と面会した。この件はオーバーステイや結婚の問題があり、中谷神父の協力によって、外国人被拘禁者との面会を通した関わりの重要さを自覚し、自らの職務として遂行して行こうと思った。
(2)この経験から学んだこと
(a)拘置所の中で、とりわけ外国人の場合は言葉もよく分からず、知り合いも少なく、心情的に苦しい状態におかれ、ストレスや孤独や寂しさが、肌身で感じられる。そのために外国人被拘禁者との面会はもっともっと必要である。
(b)被拘禁者といえども人間個人の尊厳を尊重すべきであり、そうすれば人権侵害は避けられる。
(3)外国人被拘禁者ボランティア(VVD、Volunteers Visiting Detainees)は1995年に結成された。日本人主婦や外国人、教会関係者は教会の広告を通じてこのボランティア活動に賛同してくれた。
2.VVDの活動内容
(1)東京拘置所、川越拘置所に定期的に訪問、面会。毎週木曜日が定例面会日だが、時間が空いてる時に訪問することがある。
(2)衣類、食料、文具等の物資的援助。衣類等の提供をお願いしたい。
(3)外国人被拘禁者は日本に親戚や知り合いがないので、孤独な状態におかれているそれを精神的にサポートする。
(4)裁判傍聴を通じて、また担当弁護士から事件についての情報を聞き、訴訟上の観点から最大限の協力をする。また弁護士に被拘禁者の状況について知らせる。
(5)被拘禁者の家族や友人と連絡を取り合って、お互いに被拘禁者を励ます。特に有罪が確定した被拘禁者の関係者とは連絡を密に取り合う。
(6)訴訟手続きや訴訟手続上の権利について被拘禁者に説明する。
(7)毎月1回「勉強会」を設けて、被拘禁者の福祉などトピックを設けて検討する。
3.被拘禁者の実情と問題点
(1)拘置所の規則が厳格で、嘆願書や改善案を提出しても一向に改善されない。他国とはかなり規則の相違がある。被拘禁者はこの規則が理解できず面会時不満が出てくる。他国との規則の違いを教えることもしている。規則が日本語で書かれているので理解できない。規則を翻訳しなければならない。
(2)被拘禁者の多くは窃盗、強盗、障害などが原因で拘留されている。
(3)オーバーステイの件でも裁判に時間がかかり過ぎる。2、3ケ月東京拘置所に拘留されていることがある。
(4)外国人の刑事訴訟は日本人の訴訟より時間がかかる。
(5)被拘禁者にとって、法廷通訳は大きな障害であり問題点になるときもある。
(6)面会に際しての言語制限はとても厳しい、しかし東京拘置所では英語での面会が許されることもある。
(7)被拘禁者の日本語のレベルによっては、円滑なVVDメンバーと被拘禁者との親近やコミュニケーションの形成において妨げになることもある。相互理解が進みにくい。
(8)1日1面会者の規則は我々ボランティアが被拘禁者に急ぎの援助などで世話をするのに膨大な時間と努力を伴う。
(9)拘置所での検閲により、翻訳を要するので手紙が被拘禁者に届くのにかなりの時間がかかる。
(10)言語の制限はあるが、英語やタガロク語で書かれた読み物は差し入れできる。
(11)東京拘置所の最近の被拘禁者リストを把握するのが困難である。面会の時に、被拘禁者の人数よりもVVDのボランティアの人数の方が多いときもある。
4.私の提案、これからやるべきこと
(1)被拘禁者に関わる同じ目的を持った民間団体やボランティアとネットワークを形成する。
(2)法廷通訳の専門訓練や試験の導入などプロ化にすることで通訳の向上をすすめる。
(3)代用監獄は廃止すべきだ。
(4)拘置所は刑務所と異なるので、拘置所規則を改善すべきである。未決拘禁者は有罪になっていないからである。
(5)1908年に施行された監獄法にメスを入れ、日本の刑務所、拘置所の収容に関する新たな法を作るべきである。世界人権宣言で人間の尊厳の尊重が明記されているにもかかわらず、日本の拘禁施設では、人権侵害が日常的に行われている。
(6)日本人、外国人被拘禁者の処遇改善に向けて、VVD、弁護士会、CPR等の民間団体、大使館等それぞれの立場から協力して取り組む。
(7)被拘禁者にいらなくなった衣類や読み物等を提供してもらいたい。
質疑応答から〜被拘禁者との関りの中でローリーさんが感じる問題点
(1)拘置所の面会時間が短い、15分位では意志疎通は難しい。毎日のように行かないと関係が作れない。東京拘置所でフィリピン女性と面会したが離婚について込み入った話しになり何回も行かねばならなかった。英語の通訳が1日1人しかおらず、全部で4人しかいない。重なるとかなり待たされる。
(2)被拘禁者の不満は寒さ、食事、暴力などである。何が不満か聞き出す。日本の拘置所は、義務の説明はあるが権利の説明がない。何が出来ないかはわかるが、何が出来るかわからない。
(3)獄中での暴力に関しては、獄外に伝えづらい。普通に言ってることが規則を乱す、反抗的であるといって懲罰の対象になるからである。マイケルさんと面会したとき顔が腫れていたが何も言わない。「どうしたのか」「なんでもない」「弁護士を頼みますか」「はい」と言った会話しか出来ない。弁護士を通してしか事実を明らかにできない。
(4)裁判所での通訳がなかなかうまくいかない。フィリピン人だからといって、タガログ語ではない言葉が母語の人もいる。片言の日本語がしゃべれれば、日本語で取り調べられる。取り調べ内容が分からなくても強引に押し通されてしまう。
(5)VVDは名簿上は80人、そのうち宗教関係者は20人、面会相手は22名。グループという形をとっているが、それは、面会が重ならないようにということと、衣類や金銭の集約ということの必要性からである。
(6)刑務所から出獄しても金がないため帰国できず、十条の入管事務所に送られ、牛久の拘置所に拘留されることになる。
(7)VVDが結成されたとき、フィリピン大使館に挨拶にいった。その時はフィリピン人被拘禁者の古い名簿しかもらえなかった。新しい名簿をもらえる方法はないだろうか。(了)