「刑事被拘禁者処遇に関する国賠事件シンポジウム」報告

監獄人権センター事務局


 昨年11月16日、弁護士会館において「刑事被拘禁者処遇に関する国賠事件シンポジウム」が日弁連人権擁護委員会の主催で開催され、数多くの事件の報告とディスカッションが行われた。8人の弁護士から、それぞれ関わっている事件(計14件)の経過と問題点が報告された後、福田雅章一橋大学教授と海渡雄一弁護士から総括的なコメントを受けた。報告された事件には、CPRニュース紙上でこれまで取り上げていないものも多いがいずれも被拘禁者の人権問題として注目すべきものであるので以下に紹介する。

1-(A) 旭川刑務所のI氏の長期厳正独居処分とそれによる心身両面の障害
1995年10月の突然の工場出役に至るまで13年間ものあいだ厳正独居を強いられ、国際的にも問題になりつつあったI氏の国賠事件。1997年には本人尋問が予定されており、出廷の可否も注目される。
1-(B) I氏への書籍差し入れに対する長期間の検閲による放置、閲読不許可、一部抹消
1審判決(1994年6月15日)では1万円の損害賠償を命じ、閲読許可の判断の遅延については原則60日を越えると違法となるという判断が示された。原告控訴するも1996年1月31日控訴棄却。
2-(A) 旭川刑務所のM氏に対する革手錠、金属手錠の使用、保護房拘禁
1989年8月4日、同房受刑者から一方的な暴行を受けた際に原告にも「(看守に対する)暴行のおそれ」があるとして7日まで4日間手錠を付けられたまま保護房に入れられた事件。札幌地裁にて1993年7月30日、原告勝訴(国は50万円を支払え)の判決が出され、国は控訴せず確定した。
2-(B) 同M氏への厳正独居措置
上記事件において保護房拘禁を解かれて以降、原告は今日まで厳正独居を強いられている。これは訴訟で闘い勝訴した原告への報復的措置にほかならない。1995年8月1日に提訴し、口頭弁論が進められている。
3 東京拘置所でのA氏等に対する
  @新聞切り抜き差し入れ妨害
  A書籍の閲読不許可
  B弁護人宛て信書の切り取り処分
@の事件とは1985年12月まで認められていた、一部を切り取った日刊新聞の差し入れが禁止されたというものである。これには説明がいるだろう。東京拘置所では新聞全体の差し入れを認めていなかった。読みたかったら自費購入せよというのだ。しかし、月々の新聞代といえば収入のない在監者にはもとより、家族・支援者にとっても負担は大きい。そこで知恵を絞って、新聞記事の切り抜きの差し入れは認められていることに目をつけ、新聞の左下隅を切り取り、残りすべてが新聞の切り抜きであるとして差し入れ、それが10年間認められていた。1審(1991年3月29日)ではBについては一部認められたが@Aについては棄却だった。原告、被告とも控訴したが高裁では双方棄却。 1994年7月22日付で原告側は上告を申し立て、現在最高裁の判断が待たれている。
4 宮城刑務所のK氏に対する不当な懲罰、職員による暴行等
10数個の請求原因をもって1991年10月提訴、仙台地裁に係属中。同囚者を証人請求していることに対して、被告側が激しく抵抗を示したとのことだが、採用され、原告の立ち会いも認められた。
5 八王子拘置支所のM氏に対する診療・治療拒否、不適 切な治療行為
M氏には心臓疾患があり発作が生じたにもかかわらず適切な医療を拒否されている件。1995年6月26日提訴、東京地裁八王子支部係属中。カルテ、看護日誌、当直日誌、医務日誌等の検証の申し立てに対して、被告側は心臓発作のあった日の分のカルテしか応じていない。
6 宮城刑務所のS氏に対する独居拘禁処分、弁護人依頼 権の侵害
S氏が白線に合わせて整列していたところ、看守から合っていないと注意され、翌日、なぜ注意されたのかと問いただしたことが「担当抗弁」とされ、区長訓戒の処分を受けた上、今日まで厳正独居拘禁が続けられている。また、弁護士を依頼して訴訟によって不当な扱いを解決したいと看守に話したところ、「刑務所を相手に訴訟を起こすと工場に下ろさない」と妨害されている。1995年7月7日提訴。
7 広島拘置所のY氏に対する軽屏禁処分
Y氏が昼間、居房において新聞を読んでいた際の姿勢(布団に肘がのっていた)を巡回職員に見とがめられ、これに「抗弁」したとして懲戒処分に付された事件。1994年9月8日提訴。1996年12月25日判決。そもそも大声を出すなど他人への迷惑行為などの制約はともかくとしても居房内での姿勢は自由であるべき。良識ある判決を期待したい。
8 京都刑務所のK氏に対する刑務官による暴行
K氏は1988年から1995年にかけて、整列中に頭をかいた、目を閉じていた等の理不尽な理由により刑務官から入れ歯がはずれたり前歯が欠けるほどの暴行を数度にわたり受けた。1995年11月22日提訴し、京都地方裁判所に係属中。
9 京都刑務所のK氏に対する軽屏禁処分
CPR News Letter4号でも紹介してきた、強迫神経症状に基づく軽微な指示違反(無断洗顔等)にその病状を考慮することなく課された懲罰事件。1995年1月13日提訴。
10 京都刑務所のI氏に対する暴行、虐待
11 京都刑務所のO氏に対する暴行、虐待
この2件はCPR News Letter8号で紹介されている刑務官による殴る、蹴るのすさまじい暴行、虐待事件。監獄という塀の中の、保護房といういわば2重の密室に立証を阻まれ、ともに一審敗訴したがO氏の事件は控訴審で係属中。
12 徳島刑務所のK氏に対する刑務官の暴行、保護房拘禁、 治療拒否
K氏は頚椎、腰椎に病巣があり、腹部に痛みや運動障害も持っていた。しかし徳島刑務所には詐病と決め付けられ、大阪拘置所では許可されていた下着、軍手、杖等を取り上げられ、薬の投与を求めたところ看守より暴行を受け、保護房に収容されたり、苦痛の大きい姿勢の強要に応じないとして懲戒処分を受けている。1990年8月8日提訴し継続中である。なお、この事件の打合せに赴いた弁護士との接見に刑務官の立ち会いと30分以内の時間制限を求められたことに対しても訴訟がなされ、徳島地裁で1996年3月15日、30分以内の制限は国際人権規約自由権規約(B規約)に照らして違法であるとの画期的判決が出されている。(CPR News Letter 10号で詳報。)
 参加者の多くが何らかの事件を担当している弁護士であることもあって、つっこんだ質疑応答がなされた。証拠保全のテクニックや国際的な実態調査の活用事例、更には法律扶助制度の利用のすすめまで、関係者には聞き逃せない話題が盛りだくさんであった。弁護士会の催しでも、獄中処遇をめぐる訴訟をテーマにこれだけの弁護士が一同に会するのは画期的なこと。心強く思ったのは私だけではないだろう。獄中の人々にも、この弁護士たちの熱意が伝われば、と思った。(永井)