死刑執行に抗議する!


12月20日、東京拘置所で3名の死刑執行
監獄人権センター事務局

去る12月20日、東京拘置所で3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。監獄人権センターは死刑執行を強行した松浦功法務大臣および法務省に対して強く抗議する。そして、死刑執行の停止、死刑廃止への措置をとること、死刑確定者処遇を早急に改善することを、強く要請する。
執行されたのは「銀座ママ殺害事件」のHさん(60才)、Nさん(50才)と、「元昭和石油役員一家3人殺害事件」のIさん(56才)。
 Hさん、Nさんは1978年5月と6月、共謀して2人の女性を殺害したとして強盗殺人罪などで起訴、Hさんは88年10月に「昭和天皇死去に伴う恩赦」を期待して天皇死去以前の刑の確定を求めて上告を取り下げ、Nさんは90年2月に最高裁判決で、それぞれ死刑が確定した。
 Iさんは83年1月、元昭和石油役員の一家3人を殺害、預金通帳などを奪ったとして強盗殺人罪に問われ、東京地裁で死刑を言い渡され、85年11月に東京高裁で控訴を棄却された。一度は上告したが、88年10月にHさんと同じく「天皇恩赦」を期待して上告を取り下げていた。
戦後、恩赦によって死刑が減刑された人は3名しかいないなど、死刑に関する限り恩赦制度は形骸化している。こうした現状で、誤解に基づいた「天皇恩赦」を期待しての上告取下げには、弁護人の適切な助言があったのか疑問が残る。また、Iさんは事件発生からわずか2年半後の確定判決(控訴審)という、拙速な裁判で死刑が確定している。1989年の国連総会で死刑廃止国際条約に反対した日本政府は、死刑存置国の死刑制度運用に一定の適正な手続を定めた「死刑に直面する者の権利の保護の保障の履行に関する決議」には賛成した。同決議には「手続きのあらゆる段階において弁護士の適切な援助を受けることを含む弁護を準備する時間と便益を与えることによって特別な保護を与えること」「すべての死刑事件で、…必要的上訴(注:慎重を期すため必ず最高裁まで審理すること)…を規定すること」と定められている。さらに、93年10月には日本政府の報告をもとに日本の人権状況を審査した国連規約人権委員会(自由権)から、「日本が死刑廃止にむけた諸措置をとること」「死刑確定者の処遇が再考されるべきこと」等の「提言および勧告」が出された。これらに反する今回の執行は重大な国際法違反である。
またこの執行により、7月12日の3名の執行と合わせて、1996年の執行数は計6名となった。93年3月の死刑再開以来4年間で21人の死刑執行という数字は、それ以前の年1〜2名の執行と比較しても、異常な大量執行であると言わざるをえない。
今回の執行は11月に着任後、1ヶ月あまりの松浦法相による最初の死刑執行であった。報道によれば松浦法相は24日の閣議後の記者会見で、死刑執行に関して「私がサインしなければ、執行はない。したかと言えば、した」と認め、「(報道機関が死刑執行を察知して)確認に来られれば、私がサインをしたかどうかについては答える。これからは方針を変える」と述べるとともに、就任後1ヶ月余りという異例の短期間での執行についても「細かな人の問題は私がやっているわけではない。部下を信用して、部下がよろしいと言うんだったら、後は大臣の決断だけでしょう」「期間が短いとか短くないとかは問題にならないのではないか。長い時間を掛けて事務当局が一生懸命調べてこれで大丈夫だということで持ってこられたんだから」と発言した。
官僚への批判が高まる世相の中での「官僚追随」姿勢にはあきれるばかりだが、問題はそればかりではない。法務総合研究所編の『執行事務解説』には「死刑の執行」について次のように解説している。刑事訴訟法において、通常は刑の執行は検察官の指揮によるのに対し、死刑は法務大臣の命令に基づいて執行されるが、それは「死刑が人の生命を奪う極刑であって、いったんこれを執行するときは、もはや回復することができないから、その執行手続を特に慎重にする必要があるばかりでなく、死刑が確定しても、その執行を免れさせるために(法務大臣が中央更生保護審査会の審査を通じて)、特赦、減刑等恩赦をすべきでないかどうかを調査し、その後において執行を決定する必要があるからである。」今回の松浦法相の発言は、こうした従来の法務省の姿勢をも大きく踏み外した「大量執行の肯定」とも言える論理であり、刑事訴訟法にも反するまったく不当なものである。これが本当に法務省の方針なのか、今後追及する必要がある。
この法務大臣・法務省のもとでは今後とも死刑執行の危険は続く。監獄人権センターはあらためて死刑を執行した松浦法務大臣および法務省に対し強く抗議する。そして、死刑執行の停止、死刑廃止への措置をとること、死刑確定者処遇を早急に改善することを、強く要請する。

ご賛同いただけるみなさん、下記抗議先に抗議をお寄せください。
【抗議先】
松浦 功 法相
〒100 東京都千代田区霞が関1-1-1 法務省
Fax. 03-3592-7011

橋本龍太郎 首相
〒100 東京都千代田区永田町1-6 首相官邸
Fax. 03-3581-3883