獄中検閲情報 no.4

提供 統一獄中者組合--------------(1997/夏)


1997夏の抹消報告

●新聞などで見出しも含めた記事全体が抹消されると、どんな事件が起こったのか、何が問題だったのか、ととても心配になるものです。例えばこんな記事がそうでした。(いずれも東京拘置所在監者からの情報)

@8月29日朝日新聞夕刊25面の記事
「強盗容疑者 護送中に逃走 杉並で元米兵1時間半後、捕まる」

A9月11日朝日新聞夕刊19面の記事
「看守殴り組員逃亡 愛知・一宮署 住民へ広報せず」※留置場からの脱走事件です。

B9月12日朝日新聞夕刊18面の記事
「すりの容疑者 留置場で自殺 横浜・戸塚署」

C9月14日朝日新聞朝刊31面の記事
「逃走の組員が出頭 愛知・一宮署」※11日の続報です。
読売新聞でも9月12日朝刊39面、同日夕刊18面、14日朝刊35面の一部が抹消されていますが上記ABCの内容の記事と思われます。ところで、折にふれ、手紙や通信紙上でこのように抹消記事の見出し等を知らせて在監者の「心情の安定」に寄与しているのですが、それは消されていないことが多いのです。だったらはじめから、見出しだけでも残しておいたらいいのに、と思いませんか? 確かに、記事の本文中には逃走や自殺の手段も記されており(ま、その気になれば誰でも思い付くような方法です)見せたくない気持ちも分からないではありませんが。

●見沢知廉さんが獄中体験をもとに活発に作品を発表されていますが、かなり抹消されています。「抹消文学大賞」というのがあったら受賞まちがいなし?

『獄の息子は発狂寸前』(見沢知廉著)は計120行〜130行の抹消に合意しないと閲読が許可されないので、私は拒否しました。(東京拘置所Yさん)

※他にもこんなに抹消(一枚切取)されるのでは、と読まずに宅下げした方がいます。
『新潮』8月号の見沢知廉の小説「調律の王国」のうち以下の部分抹消。
・96ページ下段3行目冒頭から6行目の最終文字まで
・同15行目の「Sは」の後から18行目「夜勤の」の前まで
・98ページ上段冒頭から3行目の「自棄になって」の前まで

彼の小説は千葉刑当局の暴虐ぶりを描いて迫力があります。ただ、いろいろの所で誇張があると思います。(東京拘置所Sさん)

『殺されるために生きるということ−新聞記者と死刑問題』(原裕司著・現代人文社)は205ページ3行目〜13行目の秘密通信の方法を記した部分が抹消になったのですが、「8月25日にいったんスミ塗りなしで交付して、その数時間後に理由も言わずに回収・・・翌日、スミ塗りの告知を持ってきて・・・26日にヌリツブシて交付になりました」(東京拘置所Eさん)。
「当局が、雑誌の場合と間違えたのか、承諾確認なしでいきなり抹消したものが届きました。すぐに回収、事後承認の手続がとられました。〈今回のは、処遇の変更ではなく、完全な手続き上の間違い〉ということで、私としては事後承認に応じましたが、拒否していたら弁償させ得たかなあ、とも思います」(東京拘置所Sさん)と、扱いが混乱した様子です。尚、この本については、41ページ最後の1行〜42ページ2行目まで、42ページ12・13行、82ページ終わりの2行とその3行手前の下11文字ぐらいも抹消されたという報告もあります。(東京拘置所Mさん)

いずれも死刑の執行と遺体の様子が描かれた部分です。Mさんが死刑判決で上告中ということで念入りにチェックされたようですが、同じ東京拘置所の未決囚で抹消個所の多い人、少ない人がいるというのも釈然としない話です。

●その他以下のような報告もあります。元の記事やパンフを直接調べていないものもありますので、内容については推測の部分もあります。

@7月15日の読売新聞朝刊p38のニューススポット「看守12人を処分」という計16行の記事中、約1行分が抹消。看守が脱走を援助しようとしたという内容らしい。

A7月17日交付のパンフレット『希望』No.20のp20下段右から3行目半行分と、9行目から1.5行分。福岡拘置所脱走未遂事件関連記事。

B7月18日交付のパンフレット『豊穣な記憶』No.4のp39右下段のますの中。外国の雑誌紹介の記事中なので外国文のためか。

C8月2日昼のラジオのニュース(実際には同日朝7時のニュース)中、突然休止。「連続ピストル事件で」で、プッツリ。死刑執行のニュース。

D8月12日の読売新聞夕刊第11面「サンワリ君」(漫画)の右2段分14行

E『獄中19年』(徐勝著・岩波新書)175ページの1行目〜7行目(自殺の様子を描いた部分)

●外国語文の抹消についてはYさんがねばり強く交渉を重ねていることもお知らせしておきたいと思います。国連文書(英文)の差入に対し、例のごとく自費翻訳を求められたわけですが、明らかにその文書はすでに和訳が差し入れられている文書の英文版であり、なぜ、また自費翻訳しなければならないのか、すでに点検済みで問題がないとされた文書については改めて自費翻訳しなくても認めるべきではないか、そのためには点検済みの文書のリストを用意しておけばいいのではないか、そして、「私でよろしければ、そのリスト作りのボランティアをやらせてください」と申出までしたそうです。それに対する区長からの回答は・・・「図書の場合は確かに検閲経験の有無が明らかにできるが、パンフの場合は違う。タイトル通りの内容なのかどうか、翻訳して初めて証明できる。従って、パンフは和訳文の有無に関わらず、自費翻訳しない限りダメ」さらに「ボランティアでリスト作り云々の項は真摯な提案とは思えぬので、以後止めるように」と指導されたそうです。
Yさんは外国生活が長く、原文のほうが理解しやすかったり、また、出獄後は語学を生かす仕事につくかもしれないので、語学力を錆つかせないためにも本気で要求し、提案しているのですが。拘置所側こそ真摯に検討してほしいものです。

(まとめ:永井)