安田好弘弁護士記者会見

1999年10月1日(金) 午後1:30〜
霞ヶ関 弁護士会館




 記者会見には、土屋公献弁護団長、保釈担当の前田裕司弁護士、石田省三郎主任弁護人等も参加され、保釈に到る経過説明や、不当な長期拘留の問題点なども話されました。

 以下は、安田さんの発言部分だけをテープ興ししたものです。
 安田さんの話言葉を可能な限り忠実に拾ったつもりですが、聞き違いやもれもある可能性はあります。また、どうしても後から聞き取れない部分は****となっています。
 それらの責任は、これをアップしている今井恭平にあります。

 安田です。多くの人に支えられ、そして励まされて、ようやく10カ月目にして保釈を勝ち取ることが出来ました。この10カ月というのは、私にとっては毎日が激しい怒りの中、あるいはやり場のない悔しさの中での10カ月でした。しかし、ようやく弁護人あるいは私に理解をしていただく人たちの力によって、拘置所から引きづり出していただいた。このことに関しては、お礼の言葉もない、感謝の気持ちでいっぱいです。
 私にかけられた嫌疑あるいは私になげつけられた事件というのは、私の裁判において冒頭意見陳述で述べたとおり、およそ不当なものであり、およそありえない事実の虚構の上に虚構がくりかえされたものなわけでして、私は裁判を通して、そのすべてを明らかにしたいと思っていますし、今までの過程のなかでその一端が明らかになりつつあるというふうに思っています。私のこの10カ月という拘留----言葉としては拘留ですけれども、現実はあからさまな暴力、すなわち監禁そのものでした。これが今、弁護団長からもお話がありましたけれども人質司法というのを越して、私からすると監禁司法、そしてそれは検察の一元的な裁判支配を現しているだろうと思うわけです。事実をたがえて、検察のいうがままに屈すれば、これは今回このような10カ月の監禁はなかっただろうと思います。しかし、私は事実を貫きました。もちろん私が関与した関係者の人たちの事実も貫きました。それがゆえに三回も保釈決定をくつがえされ、さらに10カ月も監禁されたということの現実と、そしてそれほどまでに司法がゆがめられ、それほどまでに司法がむき出しの暴力で支配されているということをぜひ理解していただきたいと思っています。
 さらにこの事件というのは弁護士が依頼者との関係で行う業務そのものに警察が入り込んできてそれを刑事事件としてまとめあげて、くくりあげるということの典型的な事例であるわけですし、さらに民事不介入の原則を飛び越えて警察検察がすぐに入り込んできて、一方的な支配圧力を加えるということのまた典型であるわけです。これらの点も含めて、逐一私の法廷で明らかにしていきたいというふうに思っています。
きょう私が思っていますのは、以上のことです。


<以下の質疑のQは、そのままのテープおこしではなく、質問の趣旨だけ記しています>

質疑

Q(江川紹子氏)麻原公判で主任弁護人として法廷に立たれるということは決まっていますか?

安田: どういう形で、どういう風に対応していくかと言うことについては、もう少し時間をかけて自分の体をもとにもどし----体だけじゃないですね、頭ももとに戻さなきゃいけない。みなさまもご存じの通り、一つの刑事事件をやるというのは、ものすごい苦労がいるものでして、それに見合う自分の体調あるいは集中力というのでしょうか、そういうものが必要になります。少なくとも現在この時点において、ただちに対応できるかというのも、力はまだ回復できていないという風に思っています。ですから自分の回復具合と、それから弁護団の仲間のみなさん方と相談しながら、時期あるいは対応、そうしたものをすべてひっくるめて考えたいという風に考えています。たいへん中途半端な答えですけれども、どうも私の今の状況というのは、体はしっかりしているんですがね、焦点が定まらないというか、物事を順序だって考えていくということがこの10カ月の間にみごとに奪われてしまったという、それが現実です。
 もう少し話をしますと、自ら自分で物事を決定できる場所に、およそ私は居なかった。自分で決定して自分の意志で動けば、逃亡になりますし、担当抗弁になるし、あるいは指示違反になり、かならず私に対して懲罰あるいは制限が加えられるようなところで10カ月間いれられてきたわけです。自分から物事を処理して考えていくと言うことの機会すべてを奪われたわけで、変な言いかたしますと社会復帰の時期が必要だと考えています。
これは入った----入れられた人間でないと分からない。

Q(江川紹子氏)次回の公判ですぐ法廷に立つと言うことはちょっと考えにくいですね。

安田: 私がもしスーパーマンであれば可能でしょうね。しかし私はそんな人間ではありませんから。もうちょっと愚鈍だろうと思います。

Q 結論を出すのは年内とか、そういう見通しなんかも・・・

安田: そんな簡単じゃないです。もっと早いかも知れない、しかし今のところは現実はこういう状態です。私の答えは支離滅裂でしょう?

Q 復帰する意志はある?

安田: 何と答えればいいですかね?あるから悩んでいるわけです。それだけの力があるか、資格があるか、やっていけるかということですから。

Q 拘置所の中で公判の資料は読まれましたか?

安田: 正直申し上げて、麻原さんの事件の資料は読みませんでした。しかし何度も思い出しました。新しくは読みませんでした。ほとんどの時間は私の資料を読みました。
 これはもう***されてると思うんですが、私が入れられたというのは、やはりその法廷に立たせないためにやったんだろうというふうに私は思っています。で、私の今までの裁判のやり方というのは、自分で目で見て、さわって、肌で感じて裁判をやる、文字だけであるいは公判調書だけで事実を読み込んでいくと言うことには、猛烈に私自身が抵抗がありました。ですから読みたいけれども一方では読むことに対してしゃくにさわるということで読みませんでした。

Q 公判の進行は情報としては入ってきましたか?

安田: 入ってきました。

Q **であるとかVXであるとかいうことも含めて?

安田: もちろん入ってきました。

Q 進行状況についてはどのように?

安田: それはいろいろ思いますよ

Q 麻原本人が弟子の公判で、証人として発言したことはご存じですか?それについてどうお考えですか

安田: むしろここでお話ししないほうがいいと思います。いまこの状態で私のお話しすることが正しいのか、正確なのか、前提をすべて理解した上での話なのか、私が私の言葉に責任をもてないからお話ができないということでして、言う中身が問題じゃない。

Q 逮捕されたとき、マスコミ報道でお金に汚いとか、そういう報道もあったと思うんですが・・。

安田: おそらく悪徳弁護士ってのがどんどん出たと思うんですね。おっしゃるとおりお金が汚いとか守銭奴とかいろいろあったと思いますけれど。どうなんでしょうね?****の中にも知っていただいている方もいらっしゃると思いますし、そういうものがおよそ事実と違っているということが直感的に分かっていただいている人もいらっしゃるだろうし、あるいはそういうふうな警察側のリークを、そのままその通りだということで横流しに流された方もいらっしゃるだろう。どう思ったかというと、当然、これが今の現実だと、しかもそれは何十年となく続いてきた現実であって****それが改められることもなかったし、近い将来あらためられることもないだろうと、つねに情報をコントロールしているのは官憲であり、かつそれを支えているのがマスコミであると考えるものです。しかし、変えることができるのは、やはりマスコミの人たちであるだろう、と思っています。しかし同時にいまインターネットなど、市民が情報をコントロールできることによって、そちらのほうから少しずつ変わってくるのではないかな、と思って期待しています。

Q 勾留中に死刑執行がありましたが。

安田: こんなひどい話はないですね。拘置所というのは刑事施設をこえて、アウシュビッツと同じだと思いましたね。身柄を拘束する場所に人を殺す場所がある。同じようなものを食べている、入れられている人間の中のある人は無理矢理に殺されていく。
 執行の朝、私は気がつきませんでした。しかし、その翌日からですね、拘置所の中がぴりぴりと、もうきしむような音がするほど緊張感がありました。職員が緊張してました。顔も変わってました。それは私たち収容者が死刑執行に対して異議をとなえるシュプレヒコールを上げるからではなくて、職員そのものの中に、死刑執行という職務を負わされている、あるいは同じ場所で死刑執行がなされるということがもたらす職員に対する緊張感、事後的な緊張感だと思っています。こんなことがあってはならない。
 シュプレヒコールが聞こえました。現実に私の近い房の若い人もシュプレヒコールをあげていました。みなさん、声を聞くと20代の若い人でした。50代の私がここで声をあげていいかどうかと迷ったんですが、私は上げることをしませんでした。しかし、よくぞ、中でも声を上げてくれたと思っています。

Q さきほど、麻原の法廷に立たせないためにやったんだとおっしゃいましたが、ほかには?

安田: やはり私からバッチを奪いたいんでしょう。資格をとりたいんでしょう。弁護士としての活動をさせない、というようなことです。

Q それはやはり死刑廃止運動などを含めて・・・

安田: それしか私は思い当たりませんから。

Q 自分が(警察から)ターゲットにされていると最初に感じられたときは?意外なことだった?

安田: 弁護士というのは危険に身をさらす、そういう危険性をもつ仕事であることは確かであると思うんですよ。なぜなら権力の代弁をいっさいするわけじゃありませんので。つねに批判する立場にある。依頼者の言えないことを代わって言うし、依頼者のできないことをどうどうと法の許す限りでやるということで、生やさしい仕事ではない。しかし、それは抽象的な私の感覚であって、現実的に迫った来たときには、よくぞここまでやるな、と思いましたね。

Q 分社することなどを指示されたときには、まさかそれが事件になるとは思われなかった?

安田: 当たり前の事じゃないですか。会社が死ぬかどうかですから、なんとか生き残って従業員の人が食べていけると言うのは、弁護士として当たり前のやるべきことです。そんなもの知らんといったら、弁護士じゃない。倒産しなさい、解散しなさいじゃ、弁護士なんか関係ない。それはみなさん方も考えられるといいと思います。

Q 住管の告発の根拠が逮捕令状の発布に基づいているということがあるのですが、これについてはどうお考えですか?

安田: あなた方はどう思われますかね?それは私にとってはもう----気がつかないうちに警察が住管を支配している。警察の力はそれほど大きくなっている。人数といい、予算といい、その人達がもつネットワークの広さといい、そして外郭団体といい、あるいは退職後に就職すべき場所といい、今まで利害団体などなかったものが二重にも三重にも、そしてほかの分野にも警察の力が広がっていく。住管でさえも、警察の要請に従わざるをえなかった、というのが現実じゃないですか。検察もそうでしょう。ますますこういう傾向が強くなる。だからますます私を----こういうことを言う人間を----警察はいやがるでしょう。

Q 麻原弁護団の記者会見には、これまで出ておられないのですが、出ていただけないでしょうか?

安田: それはみなさんと相談しないといけない話ですね。麻原弁護団の記者会見に出ていただいている先生方は、もっとも適材でもっとも分かりやすく話をしていただけるから、でして、私がその役に当たりうるか、というとそうではないと思っています。ついついこういう感情的な話になる。

以上。