安田好弘弁護士に対する逮捕・勾留に抗議し、
即時釈放を求める声明

1998年12月14日 監獄人権センター 事務局


 安田好弘弁護士が逮捕・勾留され、本日でまる1週間が経過しました。私たち監獄人権センターは、12月6日、安田好弘弁護士が「強制執行妨害」容疑で逮捕され、12月8日、勾留決定がなされたことに対し、強く抗議し、即時釈放を求めます。

1 恣意的な逮捕・勾留に抗議する

 安田さんの被疑事実は、顧問会社への業務上の助言という通常の弁護士活動であり、異常としか言いようがありません。また安田さんは既に三回におよぶ任意の事情聴取に協力しており、逃亡したり、罪証を隠滅することなど全く考えられない状況にあるにもかかわらず、逮捕により身柄を拘束され警視庁の「代用監獄」に収容されました。逮捕後に安田さんを告発した住宅金融債権回収機構(中坊公平社長)と債務者との間では、以前から債務弁済の交渉ももたれていたということです。この告発が債権回収を目的としたものではなく、政治的目的をもったものであることは明らかです。住管機構による弁護士の告発は今回で二件目とされますが、一件目は身柄を拘束されることなく、在宅で起訴されています。私たちは、今回の逮捕・勾留は極めて恣意的な権力の濫用であると考えます。
 また「現時点で、安田弁護士が犯罪をおこなったと決めつけるような態度は、もちろん慎まなければならない」としながらも、実際は検察・警察・住管機構の発表する情報の検証を一切行うことなく、結果的に検察・警察の思惑どおり、「麻原裁判の主任弁護人・死刑廃止運動の中心の人権派弁護士逮捕」を報道し、またその名誉を傷つけるような報道を行っているマスコミの姿勢にも強く抗議します。

2 逮捕は死刑廃止運動と麻原弁護団への報復

 いうまでもなく、安田さんは死刑事件弁護の第一人者であり、死刑廃止運動の中心として活動してきました。監獄人権センターは死刑制度の廃止を求め、刑事拘禁施設で自由を奪われた者の人権を擁護するための活動を行なってきました。私たちは活動の目的を共通にすることもあり、死刑廃止フォーラム90の活動の中心であった安田さんの活躍ぶりを常に間近で見てきました。死刑求刑のなされた事件で無期懲役の判決を得たり、一審死刑事件を高裁で無期懲役に逆転したり、その活躍は人権活動、とりわけ死刑廃止運動にかかわる市民の広く知るところでした。
 安田さんは一つ一つの事件弁護を決しておろそかにしない、徹底して誠実な事件処理で依頼者から深く信頼されています。とりわけ、「オウム事件」の麻原被告人の主任弁護人として、刑事訴訟法の原則に忠実な弁護活動を繰り広げ、事件の真相が検察官の主張するシナリオ通りのものではないことを具体的に示してきました。しかし、検察は安田さんを中心とするこのような麻原弁護団の方針を、「些末なことにこだわり、裁判に時間をかけ過ぎる」などとして強く批判し、第100回公判をきっかけとしてマスコミを使ったキャンペーンを展開していました。
 また、さる10月末に行なわれた国連自由権規約人権委員会の政府報告書の審査において、日本の死刑制度、死刑確定者の処遇の問題は切実な関心事項となっていることが示され、死刑廃止に向けた具体的な措置と死刑確定者の処遇の改善が勧告されました。しかし、そのわずか半月後に法務大臣は死刑を執行しました。安田さんに対する今回の逮捕はこのような状況の中で行なわれたものであり、極めて政治的な意図に基づくものであることは明らかです。

3 逮捕・勾留は人権擁護活動を行う弁護士への攻撃

 私たちは確信することができます。もし安田さんが麻原弁護団の一員でなければ、もし死刑廃止運動の中心でなければ、今回のような形で逮捕されることはなかったでしょう。
 なぜ、安田さんの関与した事件だけが弁護士の逮捕・勾留という極端な取り扱いを受けたのでしょうか。警察・検察は、死刑廃止運動の中心的弁護士を逮捕し、運動の社会的評価を傷つけ、死刑関係事件の弁護を物理的に困難にしてしまうことを目的として、安田さんの逮捕という手段に踏み切ったのです。そして、事後的とはいえ、中坊弁護士を社長とする住管機構の告発をてこにすれば、弁護士会・弁護士の反発も押さえ込めると見ているのでしょう。残念ながら住管機構も無意識的にせよ捜査当局の恣意的な権限濫用を奨励・追認するものとして機能したと言わざるをえません。
私たち監獄人権センターは、今回の逮捕は「人権擁護活動を行なう弁護士に対する攻撃」であると考えます。監獄人権センターにも、趣旨に賛同して活動する多くの弁護士がいます。監獄人権センターにとっても、今回の恣意的な逮捕・勾留は決して他人事ではありません。
 債権回収の過程で債務者側により執行妨害が行なわれることは決して少なくありません。債権者側が捜査を求めても警察は「民事不介入」を理由に積極的に取り上げてこなかったのです。「強制執行妨害」が刑事事件とされるようになったのは、金融機関の債権回収が国家的関心事となったことを背景に、住管機構が積極的に債務者を告発するようになったごく最近のことにすぎないのです。
 今、マレーシアでは改革を推進しようとした前・副首相のアンワル氏がマハティール首相の手によって逮捕・勾留され、裁判にかけられています。その罪名は汚職と同性愛行為とされていますが、鍵となる証人が警察で拷問されたことを告発し、次第に無実が明らかになりつつあります。人権擁護活動家に対する攻撃は、露骨な弾圧が困難な現代社会においては、一見合法的な司法権・行政権の行使という外形をとり、市民が抗議の声をあげることを躊躇させるような複雑な形態をとることが多いのです。警察・検察は安田さんの逮捕と「死刑廃止を唱える人権派弁護士が実は悪徳弁護士だった」という一部マスコミによるキャンペーンによって死刑廃止運動の道義的な正当性まで奪えると思っているのかもしれません。しかし、安田さんは決して悪徳弁護士などではありません。最も私心のない、誠実な弁護士の一人です。そのことは、人権のために永く共に闘ってきた私たちが一番良く知っていることなのです。

4 安田弁護士の即時釈放を求める。

 私たちは検察官に対して直ちに安田さんの身柄を釈放することを求めます。そして裁判所に対しても勾留決定を取り消し、また勾留延長決定を出さないよう求めます。また、報道機関に対しても、警察・検察、住管機構からの情報だけに依拠することなく、公正な報道を行うこと求めます。
 すべての人権活動にかかわるみなさん。「どんなに暗い夜であっても、明けない夜はない」といわれます。私たちは近い将来に、真実が明らかとなり、私たちのもとに安田さんを取り戻す日が来ることを確信し、そのために共に闘うことを心から呼びかけます。