アメリカ合衆国を標的とした9月11日の悲劇に関する声明文

オスカル・アリアス博士
1987年ノーベル平和賞受賞者
元コスタリカ共和国大統領

このように恐ろしい事件で亡くなられた方々の映像や最後の言葉などの報道にふれて、犠牲となった方々のご家族や親しい人々の苦悩に思いを馳せるにつけ、こうした方々の受けた衝撃や憤り、そして悲しみを、私たちが共有していることをお伝えしたいと思います。このような残忍な攻撃によって愛する者を奪われた方々に、心からお悔やみを申し上げます。そして私自身も、自由と民主主義を愛し、非暴力に取り組んでいる方々と声をあわせて、今回の事件を含めたいかなるテロ行為も強く非難します。

このような苦難の時期にあっても、憎しみに心を奪われることがないように、合衆国の方々、そして合衆国政府にお願いしたいと思います。憎しみをかき立てることこそが、テロリストの狙いなのです。このような暴力に対して暴力で応酬する前に、アメリカ合衆国、および合衆国に協力する各国には、立ち止まり、深呼吸することを望みます。正義に基づいた対応がなされることが重要ですが、正義と復讐を混同しないことも等しく重要です。正義と復讐は全く異なったものです。合衆国政府には、非人道的で想像に絶するこの狂気に対して、注意深く、思慮深い対応をお願いします。無論、正義がもたらされることを望みます。しかしアメリカ合衆国には、合衆国の根本をなす価値観であり、世界中が称賛し見習っている価値観でもある、自由と生命の尊重、とくに無実の人々の自由と生命の尊重を守り続けていただきたく存じます。

また現在、合衆国の人々は大きな苦悩と、そして必然的な怒りの渦中にあります。このような時でも、次のことを忘れずにいただきたいと思います。つまり、今回のテロ攻撃の首謀者のような過激派は、イスラム世界のほんのごく一部の少数者に過ぎないということです。イスラム教徒の大部分が信じる神は、ヒンドゥー教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒、仏教徒など、その他の人々が信じる神と同じなのです。この神は愛の神であり、憎しみの神ではありません。生命の神であり、死の神ではないのです。神の力は普遍的であると同時に、私たちそれぞれにとって特有のかたちをとっているに過ぎません。憎しみと暴力という、私たちを脅かす暗黒に立ち向かうための力強さを持つことができるように、この普遍的な神に祈りましょう。光明を求め、そして私たちの兄弟姉妹であるイスラムの人々に、心安らかに手を差伸べましょう。

この事件を契機として、私たちの世界にとって何が優先事項であるのか、またその根底にある価値観そのものについて、もう一度検討することを提案したいと思います。テロ行為は悪であり、今日の世界から根絶する必要があります。そして貧困も、教育の不備も、防ぐ手段のある病気も、環境破壊も同じくこの地球上に存在するべきではありません。私たち人類には、こうした悪を解消するために必要な物質的、精神的な資質がそなわっています。こうした資質を、私たちのうち最も貧しく弱い立場にある人々にあわせて使っていきましょう。塹壕(ざんごう)を掘り、防御壁を高く築いても私たちを守ることはできません。かわりに善意と調和、人間的な寛容さと共感する心を育てましょう。それが、自分たちが住みたいと思える世界を創り出すことにつながるのです。かつてガンジーが述べたように、起こってほしいと思う変化は、私たち自身で起こす必要があります。抜け出したいと思うような暗黒に、自分自身が加担するのではなく。


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