<国際反核法律家協会副議長バルガス氏との懇談会>

2002年2月2日午前9時〜午前10時30分
コスタリカ国サンホセ:ホテルバラモラールにて

<訪問団長の挨拶>
 今回は2回にわたり私たちのために時間を割いていただき感謝している。1年半前に私のグループ及び池田先生のグループがコスタリカを訪れた際に、是非2002年の大統領選 に来て下さいとおっしゃった。この前後で私が把握しているだけでも4つの団体が、コスタリカを訪れている。また、先般「軍隊のない国コスタリカ」という映画も完成した。ま た、NHKという日本最大のテレビ局も数度にわたり特集を組み、放映された。このように、今日本でコスタリカはトレンディな国になっている。私たちのグループは私と池田先生の 他に若い法律家、憲法学の研究者、そして、憲法に関心を持ち、それぞれの活動をしている市民で構成されている。

<バルガス氏の返答>
 お言葉ありがとう。私は、コスタリカ大学国際法教授、情熱を持ったコスタリカ一市民である。コスタリカは小さな国であり日本は大きな国であるけれども、近所の国であると考 えて、学びあっていきたい。私として光栄であると思っているし、一市民としてもうれしく思う。どれだけの労力及び時間をみなさんがつかったかと思うと本当にありがたい。
 みなさまからいただいた質問やテーマについて、例えば、平和問題、人権問題、環境、非武装に関する質問等についてキーとなる内容について考えていきたい。
 最初のテーマとして環境問題を挙げたい。コスタリカはその国土の24%を保護地域又は国立公園としている。コスタリカが第1に誇る点は自然環境・自然資源の保護である。また、このような自然環境を守るということを通じて、観光が、国の収入源、財源となっている。しかし自然環境の豊かさは様々な問題も含んでおり、政府の問題、政治的問題となっている。第1に木材などの自然資源の輸出を通じて、環境が破壊されるということである。つまり、経済の発展も必要があるが、環境も守らなくてはならない。その意味で、環境の維持と経済の発展双方を指向することにより、環境破壊がじわりじわりと進んでいる。ある意味で、環境破壊は、生きていくためにどうしても必要だった面がある。
 私たちは、経済発展と環境保護という双方を可能にするために、持続可能な開発を目指している。太平洋地域等の森林の多い地域を特に重点的地域としながら、環境保護を進める こととした。具体的には、地方の森林地域の伐採に対して、この土地を買い上げ、住民に移動をしてもらって森林を保護している。これによって、保護地域として25%近く森林を保護できている。国としては、訴訟を通じて法的保護をすることもできるし、環境省を通じて保護ができるし、土地保護省もあり、これらを通じて、環境保護を行っている。具体的にはプレカリオ川の沿岸地域を特に守ったという経緯がある。環境法の違反に対しては、罰則をもって臨んでいる。基本的には、環境エネルギー省を通じて、環境保護、法的措置の支援をおこなっており、また、保護センターを設置するなどして、川の汚染に対する厳しい監視など、環境保護を行っている。
 コスタリカの海洋保護地域について話をすると、そもそもコスタリカは小さな国だが、海洋領域を含めると、100倍の領域を持つ国となる。国土よりも海への視点の転換が必要。海洋資源が豊富だし、ココ島にも豊富な環境資源がある。また、日本が漁業に関心を持っているので、この点でも日本との関係を持つことが出来る。海洋の保護という観点からは、コスタリカという小さな国1つにとってこれは簡単ではない。国際的な協力の中で、これを守ることを考えていきたい。
 環境法廷について説明する。また、環境法廷以外にも、コスタリカ憲法50条に環境権という規定があり、強い保護がこれを通じて可能。

[以下:質疑応答]

<質問>
 バルガスさんは、昨日の講演で対話で紛争解決をしているとおっしゃっていた。今の子どももそのような教育を受けているし、自分もこのような教育を受けてきたということだが、具体的にはどのような教育なのか。
<答>
 小学校、中学校で、公民において、平和、人権、私たちの歴史、いい部分はそれとして認め、戦争などの悪い部分はそれとして反省するという体制となっている。また、小学校卒 業、中学校卒業の際に、これに合格しなかったら、上の学年に行けないという公民の試験があるのだが、厳しい体制となっている。例えば、日本の場合は、高校から大学に入るために、厳しい試験があると聞いていて、その際、科学、数学の比重が大きいと聞いているが、コスタリカも公民と科学双方に重点を置きながら、平和教育を進めている。日本の教育とコスタリカの教育の違いは、コスタリカはすべての教科で、対話ないし交渉というものがベースとしているが、日本では、これらが少ないということではないか。

<質問>
 先日の話の中で、アメリカと対等な関係を築くと言っていたが、一方で、経済はそう簡単ではない。経済の面で、アメリカに対してひくつにならないためには、どうしたらいいと 考えているか。
<答>
 具体的には、アメリカと同等の経済力はない。しかし今まで、民主主義、人権、平和の点では同等に交渉してきた。経済的な点では、力は平等ではないが、交渉は平等にやっている。10日前に、ブッシュ大統領が、カリブ地域に自由貿易協定を結びたいといっており、自分もこれに大変興味を持っている。平等な手続によって交渉を進めるということが、コスタリカにとって、最大限可能なことであり、最大限取り組むべきことである。

<質問>
 コスタリカには以前から平和があったということであるが、しかし、どうして中米の中でコスタリカだけが、と思うとやはり不思議である。コスタリカの平和の礎はなんだろうか。
<答>
 歴史的に見る必要がある。コスタリカは、インディヘナの人口が少なく、グアテマラにある総督府から遠く、スペインからの強硬な支配が少なかった。よって、ここに住んだ人が、自由に国の運営ができたという実情がある。他の地域は、グアテマラのように、インディヘナの人口が60%にもなるところがある。コスタリカでは1821年に独立して以来、 特に、自由な活動が進んだ。また、コスタリカは盆地であり、情報が届くまでに時間がかかるというのも、利点の一つだったのだろう。また、もう一つの視点としては、コスタリカには、経済的にも政治的にも中流階級が多かったので、極端な思想に走る人たちがいなかったというのもよかったのだろう。また、コスタリカには、軍事的教育もないし、かえって、市民教育を受けた人たちが、社会を構成しているので、よかったのだろう。
 これによって、司法分野でも、平和及び人権、民主主義を守るのが可能となり、例えば、選挙管理最高裁判所のように、これらを守るシステムが構築され、例えば、人身保護等を 行いやすくするシステムとなった。私たちは、法のシステムを用いて、教育への権利、平和を享受する権利等の擁護・実現を進めている。これらは、中米において、コスタリカに 固有のものである。
 ちなみに、コスタリカにも、1871年、ニカラグアで政治的・経済的侵攻を行ったウィリアム・ウォーカーによるコスタリカにも侵入を受けて、闘ったという歴史はある。しか し、あくまで国境を守ったということであり、ニカラグアに攻め入ったということではないが。

<質問>
 国内に軍隊を持てば、これがきっかけとなって隣国にも戦争が起こることになると思うので、コスタリカの選択は賢明だと思うが、グローバライゼーションが進むことにより仕事 のない人が増え、これを前提とした政策を考えなくてはならない現実に直面していると思うが、この点についてはいかがお考えか。
<答>
 グローバリゼーションにはいい面、悪い面がある。また、複雑なので、一言ではいえない。たとえば、みなさんがコスタリカに来られたのも、グローバライゼーションのおかげである。9月11日のテロの情報もすぐに世界中の人たちが知ることができた。しかし、一方で、グローバリゼーションによって雇用が破壊され、強い企業が弱い企業をつぶしていくという傾向が世界中で始まっている。21世紀前後がこの流れのターニングポイントだったと思うが、しかし、一方で、今後、全ての人たちが、インターネット等を通じて話をすることができるようになったのだから、この問題を、このような方法で、新しい解決法を世界中の人たちで考えていきたい。
 失業問題はコスタリカでも問題だが、内戦となったボスニアなどと比べれば、まだ解決策はある。グローバリゼーションの中で、情報機器を使うなどして、積極的に対処したい。 例えば、コスタリカの南部には農民が多いのであるが、最近農産物価格が低く、経済的に困難な状態にある。この人たちに対して、エコロジー開発等を重点的に行っている。

<質問>
 自由貿易協定の話がでたが、経済的にアメリカと結びつくと、軍事基地をおかせろとか軍艦を寄港させろなどの要求をされるおそれはないのか。
<答>
 歴史的に見れば、これに対する答えがでる。1986年、ニカラグアに対するコントラによる侵略があったが、これに対してモンヘ大統領、アリアス大統領を通じて、平和外交を 行ってきた。この時、レーガン大統領はコスタリカに介入したいという意図もあったが、コスタリカは干渉を拒絶した。しかしながら、その時も、コスタリカとアメリカの経済的 な結びつきは強かった。今後自由貿易協定を締結するとはいっても、アメリカは、コスタリカが立場を理解しているので、必ずしも、アメリカの軍事的要求に屈するという結果に はならないはずである。

<質問>
 対話による紛争解決という話があったが、バルガスさんが、学校で、対話により友人から何かを学んだことがあったか、その時のエピソードを紹介願いたい。
<答>
 一つ印象的だったのは、中学校高校での学級委員の選出や生徒会の選挙であって、自分はこれから大きなことを学んだ。私自身は候補者ではなかったが、友達が候補者となった。友達は、学校をこのように運営したいという演説をして、私はその支援を行った。また、少し一般的なことであるが、グループ学習として、先生とのオープンな考えを聞き、友人それぞれの考えを聞いて、解決法を探したことがある。

<質問>
 日本には、産業廃棄物の問題がある、オキシダントの問題もある。コスタリカでは、廃棄物の処理の研究はどの程度進んでいるのか。
<答>
 コスタリカという国は小さいので、日本よりもゴミの問題の重要度は低いが、廃棄物、ゴミについて厳しい態度で対処している。私が参加したことのある告発に、排水の問題があ る。400人収用のホテルが基準を満たす排水施設を持っていないという告発だったが、結局勝訴した。コスタリカの環境基準は高いと認識している。企業による環境破壊としては、アイスクリームなどの乳製品を作っているドスピーノスという会社がサンタアナという地域の水を汚染する可能性があるということで、それを予防するという訴えがあった。これに対して迅速に対処できる法的仕組みがコスタリカにはある。また、都市部の水資源については、新しい法律ができて、これを保護することになっている。

<質問>
 アフガン報復戦争に対するコスタリカ政府の見解、行動、バルガスさんのこれに対する見解、行動を教えていただきたい。
<答>
 国の対応としては、1500キロと距離的には遠いのだが、ニューヨークの事件に対しては、大変残念であると考えている。具体的には、国連、米州機構を通じて、テロに対する 方策を考えているし、中米でもそのような目的の会議を持った。一方で、コスタリカがアフガニスタン爆撃に対して、直接的な支援、賛成等を示したことはない。
 コスタリカの一般市民としては、地域的にも離れているので、身近には感じていない部分がある。しかし、人権の侵害に対しては、極めて残念であるという気持ちを持っているの ではないか。
 私自身はテロ行為には断固反対である。一方アフガニスタン爆撃に対して、心配している。
 国連では、人権を守るという視点での議論が欠けている。現在の安全保障理事会の常任理事国にはそのような観点の話をする素地ない。そのような点で、日本が常任理事国入りす る意味もあるのかも知れない。私は、タリバンやアメリカに賛成するというものではなく、人権という視点から述べている点を最後に述べさせていただく。
 最後一言いいたい。まず、このような専門家を含めて対話ができてことをうれしく思う。何らかのグループや機関を作り、研究、会議、講演などをやれればいいと思っているがど うであろうか。


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