50 お辞儀は屈辱的か? お辞儀は普遍的か? お辞儀は理解されるか?現地時間 2009年08月06日発 日本時間 08月07日受信)

 韓国系アメリカ人と中国系アメリカ人の二人のジャーナリストが北朝鮮から解放されて、クリントン元大統領とチャーター機でカリ フォルニアに戻ってきました。二人がタラップから降りてきて家族と抱き合う姿が、いろんなカットがインターネットで見ることがで きます。飛行機が家族とジャーナリスト、関係者が待っている格納庫に入ってきて、二人がタラップを降りてくる。家族と抱き合う、 それだけのシーンですが、いろいろと編集して、すくない持ち駒を、この二日間、いろんな形で見せている。家族のインタービュー を入れたり、子供を焦点にしたり。

 ところでタラップを降りてくるときに、韓国系アメリカ人ジャーナリストの女性は、お辞儀をしました。それは心から自然にでてき た、「ありがとう」と「すみません」の自然な挨拶だったのです。その後ろにいた中国系アメリカ人ジャーナリストの女性の方は、両 手を上に上げて万歳のような形で、よろこびと「やった」という感じをあらわしていました。これも心からでてきた自然なものだと思 います。ところが、このお辞儀シーンはたった一回だけしか見ることができませんでした。その後の放送では、中国系女性が手を挙げているシーン、二人がタラップをおりてきて家族とだきあうシーンはあるのですが、韓国系女性がタラップ途中でお辞儀をしているシーンがありません。消えてしまった。

  つまりこのシーンは放送局の人間(たぶん白人アメリカ人)には、屈辱的な表現であると無意識的に思って、ここにはにつかわしくない、と無意識的に判断して、カットしてしまったのです。CNNでもABCでもそうですよ。お辞儀はなくなってしまったのです。ところがクリントン元大統領が平壌に二人を迎えにいったときに、空港で北朝鮮側の人間と挨拶するときに、あきらかに頭を下げてい ます。欧米人が軽く会釈をする、というような形ではなくて、東洋的な動作を採用しているのです。こちらは何度でも放映されてい る。つまりこちらは意図的な、政治的に相手をだますお辞儀だからいいというのでしょうか。もっともこれもエディターが無意識的に 残しているわけでしょうが。オバマがイギリス訪問をしたときに、エリザベス女王に会いましたが、あのときオバマ大統領は頭の下げすぎだ、という批判があったそうです。つまり国家元首だから、相手が女王でもそんな屈辱的な動作をする必要がない、ということです。

  お辞儀は、異なった文化と、異なった政治の中で、いろんな異なった意味をもちます。屈辱的なものだと思われたり、礼儀正しい(政治的)と思われたり、美しいと思われたり。韓国系アメリカ人ジャーナリスの体の表現には、韓国そして日本の動きが感じられますが(それが屈辱的ととらえられているわけですが)、中国系アメリ人の方は「堂々」としていますねえ。これは中国の伝統とアメリカの伝統の混合でしょう。それとこの中国人女性ジャーナリストの空港での、ときどき涙ぐんでの数分の演説は立派なものでした。彼女はテレビ放送ジャーナリストだから素人ではありません。だけど演出ではありません。クリントン元大統領、ゴア元副大統領を後ろに従えて、まったくひるんでいない。
     Kenji

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