2005年4月24日 東京・代々木区民会館
ATTAC Japan(首都圏)第四回総会
特別講演 「グローバリゼーションに対抗するフランスの社会運動」
エルベ・ケレンさん(ATTACフランス/SUD-PTT)
現在ヨーロッパではEU憲法批准をめぐる論争が繰り広げられている。多くの国は、議会の審議のみで批准の是非が決定されるが、フランス、アイルランド、ポルトガルなどでは国民投票が実施される。フランス議会では批准賛成が多数派であったが、憲法の中身があまりに新自由主義に傾いていることが明らかになったことから、反対世論が高まり、シラクは憲法批准を保留にしている。今後は完全な廃止を要求していく必要がある。現在、反対している勢力には、極右、社会、緑、共産、トロツキストらがいる。労組の多くも反対しており、市民団体の中ではまっさきにATTACが反対している。他にも失業者団体、ホームレス支援団体などが反対している。ブリュッセルにおいては、8万人のデモが行われた。

とりわけ憲法の中身で問題なのが、ボルケシュタイン指令である。この指令によって、EU内では労働者の移動が自由化され、移動した労働者の労働条件・社会保障などは母国の条件に基づくことになる。つまり、これは競争をとおして、ヨーロッパの労働者の労働条件や社会保障が、共産主義体制崩壊後、労働環境や社会保障制度ががたがたになった東欧の条件に引き下げられしまうことを意味する。

▲ ケレンさん(右)と通訳の菊池さん

2005年3月19日にブリュッセルの戦争と福祉切捨て
に反対するユーロマーチに参加したヨーロッパのattac
他にも、EU憲法には、人民、市民、公共サービス、社会権、組合フェミニズムといった言葉がないという問題がある。もっぱら市場競争が強調されている。

また、ヨーロッパ郵政指令が通過してしまったため、フランスでは郵便局が民営化されようとしている。郵政の独占状態が解除され、金融サービス部門が株式市場に上場されようとしている。

こうした状況に対して、ATTACは問題をきちんと明らかにし人々に伝えていこうと活発に動いている。市民を置き去りにしてテクノクラートのみで社会のあり方を決めようとしていることに対して、何がどのように変えられようとしているかを市民に伝えていくキャンペーンを実施していかなければならない。
かつて、市民がEUレベルで政府に抵抗できた例として、多国間投資協定の撤廃がある。社会党があいまいな態度をとっていたのに対し、ル・モンド・ディプロマティークが率先して反対世論をつくったのである。この反対運動の過程の中で、投資に税をかけようという機運が高まりATTACの運動がつくられた。

最初に話したように、EU25か国中15か国もが国会だけで
憲法の是非を決めようとしている。だからこそ、国民投票ができるフランスのおいて、ATTACが憲法の問題を明らかにして市民的議論を高めていくことが重要である。フランスの反対世論は他のヨーロッパ諸国にも波及し、ギリシアではフランスに続けと反対運動が高まっている。
総 会 議 論
【オルタ・グローバリゼーション運動の進展】

総会は、議長を選出してはじまった。まず、「WTO・FTAに対する対抗運動」「反戦平和運動」「遺伝子組み換え反対の運動」「世界社会フォーラムへのかかわり」「海外とのネットワーク」の5つについて、各担当者から総括と今年度方針の説明がなされた。(内容については議案書をご覧ください)

以下のような質疑応答がなされた。
.今年は国連ミレニアム開発目標をプッシュしていくような運動があるが、ATTAC Japanはどう関わるのか
.イギリスのNGOなどを中心に世界的にG-CAPキャンペーンが動いているが、ATTAC Japanは参加していない。私たちは、貧困がなぜ起きたのかを明らかにし、その構造を変えていくという市民的議論を議論を抜きにしてはならないと考えている。議論をつくるために、南のNGOの声を聞きそれを伝えていきたい。

※ケランさんからは、これについて次のような意見が出された国連の貧困削減目標自体は評価できるが、目標達成は現実には難しいだろう。実際の先進諸国の動きはそれに逆行していることが多いからだ。国連から出されるものは対処療法である。私たちは貧困の構造を変えていく必要がある。国連は債務をつくり出す構造には手をつけていない。
.3月19日の反戦運動に参加したが、なぜ労組と一緒にやらないのかなぜ「デモ」ではなく「パレード」と言うのか
.これまでの運動の歴史的経緯もあるが、主催者の見込み違いだったというのが大きい。労組は霞門のところに集まり、市民が日比谷野音に集まるということだったが、市民だけでは会場を埋めることができなかった。「パレード」という言い方は、集会・デモに対して嫌悪感をもっている人に向けて、参加への垣根を低くしようという努力の現れとみている。

.今まで反戦デモに参加した人が来なくなったのはなぜか。
.参加者が多かったイラク戦争開戦前は、参加することで戦争を止められるのではないかという思いがあったのではないだろうか。

.WSFがアフリカで開かれるようになったいきさつは。
.WSFの方針は、WSF国際評議会で決められる。2003年の評議会ではアジアからの参加者を増やすために、インド・ムンバイでの開催が決まった。2005年の評議会では、2006年は地域の問題を掘り下げるべきではないかという考えから各地域での開催が決まり、2007年はアフリカの問題を世界に広げ、アフリカからの参加者を増やそうという考えからアフリカでの開催が決まった。
【専門部会】
つづいて、「トービン税部会」「公共サービス研究会」「移住労働者部会」「フェミニスト部会」の各専門部会について担当者から総括と今年度方針の説明がなされた。(内容については議案書をご覧ください)

トービン税については、ATTAC関西から参加した会員から、以下のようなWSFでのトービン税セミナーについて補足があった。

WSFでのセミナーを出発点にしてATTACが中心になってCTT(通貨取引税)国際キャンペーンを実施していくことが改めて確認された。また、ダボス会議でシラク大統領が提案した「国際連帯税」も話題になった。

トービン税には、(1)金融システムの安定化、(2)税収を貧困解消にあてる、(3)民主主義的な空間をつくる、という目的がある、国際連帯税は、(2)の部分をとったものだ。その意味で従来の援助の延長にあると言える、といった意見が交わされた。

トービン税の啓発については、これを渡せば一通りわかる「Info Box」をつくったケベックの試みは興味深いものだった。(ドルの)アメリカでの運動がまだ弱いので、(円の)日本での運動がはじまったという意味は大きいと評価されている。
専門部会については以下のような、質問や意見が出された(「→」以降の文章は運営委員の回答)

郵政民営化はアメリカの要求に基づいているという視点も必要だ。すでに宮沢内閣の日米構造協議の中に郵政民営化が入っている。

越谷プロジェクトとあるが、もっと越谷住民に働きかけるべきでは
→越谷市民を対象にシンポジウムの開催とビラまきを考えている

トービン税のビデオを見たがあれだけではわかりにくい。 どういった説明の工夫を考えているか
→わかりにくいのは、通貨取引がどういう取引でなぜ私たちの生活をおびやかす恐れがかるのかという部分だ。この部分については、札束などを使って視覚的にわかるようにプレゼンテーションしようと思っている。
【決算・予算】

予算・決算については、監査である大野さんから適正であるとの報告があった。報告に加えて、会費未収が多いので対策を考えたほうがいい、部門別に会計を処理するようにしたほうがいいとの意見がそえられた。 


【全体の感想】

ケランさんによる講演、総会を通して、ATTACの運動姿勢が改めて確認できたと思われる。

政府は市民に対して情報を開示せず、市民の知らないことで社会のあり方を決定している、という事態に対して、そこにATTACが切り込み、市民的議論を巻き起こしていくことが、私たちの基本的運動姿勢であるという確認がなされたのではないだろうか。

また、女性の参加者、若い年齢層の出席者も昨年度に比べて多くなり、今後の運動の広がりを期待させる総会となった。

また、静岡から参加した方からは、郵政ユニオンの人とともにATTAC静岡の準備会を開きたいと思っているとの意思表示があり、ATTAC江東の提案があるなど、少しずつではあるが地域に密着した運動がつくられようとしている。