第4号  2004年4月30日

 

シカゴのレイバーヒストリーツアー・メーデーの起源を訪ねて

[内容]
シカゴのレイバーヒストリーツアー・メーデーの起源を訪ねて
Workers Compensation(労災補償)シンポジウム
Health Care Reform(健康保険制度改革)についてのシンポジウム

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みなさん

ロサンゼルスでは,先週金曜日から急に気温が上がり,火曜日まで35?38度前後の毎日が続きました。焼けつけるような日差し,乾燥した高温の空気(暑いので腕や顔を水で濡らすとあっという間に乾いてしまいます。したがって,実際には汗をかいているはずですが,汗をかいている自覚がありません),ところがエヤコンが効き過ぎるバスや建物の中(20度くらい)と,体がどうにかなるかと思いました。それが突然,火曜日(27日)の夜,北方から寒気が流れ込み(暑いときに冷蔵庫から冷たい空気が流れ出てくるような感じ),翌朝には12?3度くらいまで下がってきました。今日は最高気温が22度と出ていました。先日の暑さは,1992年以来の記録的な暑さだったようです。そんな気温の変動にも驚く毎日です。

さて,毎日,いろんな出来事がありますが,今日,主に書きたいのは,先日のシカゴでの全米教育教会の総会に出席したときに参加したレイバーヒストリーツアー(4月17日)についてです。


  シカゴヘイマーケット。1886年シカゴ市警が労働者集会を襲撃


[シカゴのレイバーヒストリーツアー・メーデーの起源を訪ねて]

 シカゴの街をバスで回りながら,シカゴの労働組合の活動家が,労働に関係する場所について説明をしてくれる3時間ほどのツアーでした。案内してくれた方は,"Illinois Labor History Society"(イリノイ労働史協会)に所属されています。シカゴは,ご承知の通りメーデーの発祥の地です。私はシカゴの労働者が19世紀の後半に,8時間労働制を要求してストライキをやったくらいの知識しかなく,参加したのですが,興味深いツアーでした。

 1884年夏に"Federation of Organized Trades and Labor Unions" (AFLの前身の労働組合のナショナルセンター)が,1886年5月1日に,1日8時間労働制の全国運動を起こすことを呼びかけことから始まります。失業と低賃金を解消する方法として,8時間労働制要求運動は広がっていきます。その頂点が1886年5月1日の全国的なストライキとデモでした。全米で30万人,シカゴでは,8万人の労働者がメインストリートのミシガン通りを平和的にデモ行進します。この行動に,経営者たちは,労働者の革命が起きるのではないかと大きな衝撃を受けます。労働者の要求に応える経営者もいる一方,警察が違法な弾圧の準備を始めます。5月2日も3万5千人の労働者がデモをします。

 ところが,5月3日,シカゴ市警がマコーミック刈取り機工場でピケットを張っている労働者を襲撃し,殺傷する事件が発生します。これに対する抗議集会として,5月4日夜,ヘイマーケットでの集会が組織されます。しかし,十分な準備ができず,わずか2500名で集会は開催されますが,途中で雨が降り出し,集会終了時には,200名ほどの労働者しか残っていませんでした。そこに,176名の警官隊がライフル銃をもって,攻撃を仕掛けます。ところが,何者かが警官隊にダイナマイト爆弾を投げ込み,混乱した警官隊は銃を乱射して,結果として,7名の警官(爆弾で死んだのは1名,あとは相撃ちで)と4名の労働者が殺害されます。

 翌日,この事件を口実に,全米に戒厳令が布告され,徹底的な労働運動弾圧が行われます。労働組合の指導者・活動家が逮捕され,令状なしの家宅捜索が行われ,組合事務所は閉鎖,組合の新聞は発行停止に追い込まれます。結果として,当日その場にいなかったことが明白な者も含めて8名(ほとんどが20代から30代,アナーキストや社会主義者たちでもあった)が起訴され,2ヶ月間の裁判により全員が有罪となり,3名が終身刑または15年の懲役,5名が絞首刑判決を受けます。1名は獄死し,4名は1887年11月に処刑されます。当時の誰の目にもえん罪であるのは明らかだったようで,1893年になってイリノイ知事が生存していた3名を恩赦で釈放します。

 1889年パリで開かれた労働者の国際会議で,AFLの代表が,5月1日を国際的な労働者の日として提起し,以後,世界の各地でメーデーが取り組まれるようになります。しかし,アメリカでは,9月の第一月曜日がレイバーデーとして取り組まれる一方,メーデーは,アナーキストや社会主義者たちの日になってしまいます。ロシア革命以降は,「共産主義国」の祭典と見られ,ますます,すたれてしまったようです。

 
  ヘイマーケットにある「ヘイマーケット悲劇の地1886年」のプレート

  1980年代以降,1886年の労働者の闘いの再評価,権力側の弾圧と言論や集会・結社の自由の意義,長時間労働が広がる中で1日8時間労働制要求運動の再評価など,改めてメーデーの意義が問い直されてきたようです。

 案内で回ったヘイマーケットは,シカゴの都心部の西のはずれにあり,マーケットの面影を示すものは,4車線の車道がそこだけ,両側に2車線分の駐車スペースがあり,幅広くなっていることでした。寂れた雰囲気のところでしたが,警官隊が労働者たちに攻撃をかけたところの歩道上に,シカゴ市長名で「ヘイマーケット悲劇の地,1886年」という表題で,悲劇の概要,世界のメーデーの起源であることが記されたプレートが埋め込まれていました。
http://www.kentlaw.edu/ilhs/hayplak.htm


  シカゴヘイマーケット犠牲者追悼碑

 その後,ヘイマーケットの犠牲者たちのモニュメントのある "Forest Home Cemetery"(共同墓地,シカゴの西側の郊外)へ向かいました。広々と広がる墓地の中に,1893年に作られたモニュメントは,一人の犠牲者の前で,立っている女性が手をさしのべている像でした。その前で,当時犠牲となった労働者・活動家たちの名前を読みあげながら,バラを献花しました。
http://www.kentlaw.edu/ilhs/haymkmon.htm

 モニュメントの近くに,19世紀後半から20世紀に活躍した労働運動,社会運動の活動家たちの墓がたくさん並んでいました。社会主義者,共産主義者,無政府主義者と書かれた墓もたくさんありました。

"Illinois Labor History Society"(イリノイ労働史協会)のホームページ
http://www.kentlaw.edu/ilhs/
ヘイマーケット事件のホームページ
http://www.kentlaw.edu/ilhs/haymarket.htm

こうして,120年前の闘いを振り返る旅を終えました。

さて,明日は,現代のメーデーです。日本では,今日ですね。ロサンゼルスでは,移民労働者の権利のためのメーデーが半日行動であります。連邦政府の庁舎前,シュワルツネッカー知事のロサンゼルス事務所前でそれぞれ抗議集会,コリアンタウンでのデモが予定されています。


[今週のイベント]

今週もいろいろイベントがありました。以下2つ紹介します。それぞれレイバーセンターが会場を提供し,主催者に名を連ねています。

[Workers Compensation(労災補償)シンポジウム]
4月28日がWorkers Memorial Dayで,ダウンタウン・レイバーセンターで,Workers Compensation(労災補償)シンポジウムがありました。


  ダウンタウン・レイバーセンターで開催された労災補償シンポジウム

 一つだけおもしろかったことは,シンポの前半は日本でやっているような方法でパネラー(3人とも弁護士)がしゃべり,フロアーから質問を受けていましたが,後半で,フロアーの参加者が,それぞれ労災被害者,労働組合,使用者,州知事,州議会,保険会社の役になって,労災保険制度が改正・改悪されて,お金(保険金,労災補償,保険会社の利益)がどのようにやりとりされ,政治がどのように動いて制度を変えているかをわかりやすく見せていました。こういう工夫は必要だなと実感しました。

 アメリカの労災保険(州ごとに制度も違う)は,日本の自動車自賠責保険のように,民営化されていて,民間会社の保険に会社が加入することになっていますが,カリフォルニア州では,保険会社の利益になるように制度改悪が行われているようです。詳しいことは,もっと勉強しないとわからないので,6月中旬に東京労働安全センターの飯田さんがこちらに来られるので,その時に集中的にやるつもりです。

[Health Care Reform(健康保険制度改革)についてのシンポジウム]
そして,今日はHealth Care Reform(健康保険制度改革)についてのシンポジウムがセンターで開かれました。100名を超す参加者,州議会上院議員やUCLAの研究者がパネラーで,労働組合や地域の諸団体の代表者が参加し,熱心に議論していました。日本のような全員が健康保険に加入する制度のないアメリカで,健康保険制度改革は重要な社会的課題となっています。カリフォルニアでは3600万人の住民の内,660万人が健康保険未加入で,すべての住民に健康保険をカバーするのが大きな課題となっています。現在取り組んでいるキャンペーンは,州議会上院に2つの法案を通そうというもので,一つは使用者に従業員に対する健康保険の提供を義務づけること(アメリカではハワイ州だけが義務づけているとのこと),もう一つは,住民全員に適用される健康保険制度を創出しようというものです。このテーマまでは手に負えませんが,アメリカで労働者の組織化を考えるときには,切り離せない問題です。組合に加入し,(有利な)健康保険に加入する労働協約を勝ち取ることが重要な課題ですから。


今週,ハリウッドでは様々な映画祭が開催されています。商業メディアとは別の視点で取り組まれています。一つは,アジア系のビジュアルコミュニケーションズが開催するフィルムフェスティバルです。日曜日に見てきます。

さて,今回も長くなりました。来週は,弟が遊びに来ますので,ちょっと一休みして,少し観光しようかと思っています。

ではまた

高須裕彦

 

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Fri, 30 Apr 2004 14:52:33 -0700