第11号  2004年8月14日

 

ホテル労働者の熱い熱い闘い・・・市民的不服従行動で40名余が逮捕される


 残暑お見舞い申し上げます。

 ロサンゼルスは、引き続き高原のような夏が続いています。私の方は、風邪もすぐ治り、その後は元気にやっています。こちらの運動の方も全体としては夏休みモードで、私たちの活動もゆっくりと進んでいます。

 ところが、ホテル労働者の闘いは熱く燃えています。4月から続いている協約改定交渉が新たな段階に進みました。昨日(13日)、ダウンタウンで、1000人規模のデモを行い、「市民的不服従」行動で、40名余が逮捕されました。サンフランシスコのホテル協約が14日に切れるので、サンフランシスコとの同時行動です。60年代の公民権運動以来の伝統をもつ非暴力・市民的不服従(Non Violence Civil Disobedience)です。直接、参加したのは初めてなので、以下報告します。

 高須裕彦
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ホテル労働者の熱い熱い闘い・・・市民的不服従行動で40名余が逮捕される!

 ロサンゼルス市内の9つのホテルの使用者団体Councilに対する、UNITE-HEREローカル11(7月にUNITEと合併)の協約改定闘争が大詰めを迎えている。主たる争点は、協約期間を2006年までとすること(組合は、北米の主要都市の協約期限を2006年にあわせ、その年に大協約改定キャンペーンを一斉に打つことを企画している)、健康保険の対象扶養者分の保険料を使用者負担にすることなどだ。

 5月末までの仮延長期限も切れ、無協約状態の中、使用者側は交渉が行き詰まったとして、使用者提案を一方的に実施している(健康保険料の週10ドル負担など)。スト破りを準備し、組合脱退勧奨をするなど攻撃を強めている。

 組合は現場で団結を固め、闘う意思表示をマネージャーに対して行いながら、不当労働行為摘発、NLRBへの不当労働行為救済申し立て、コミュニティの諸団体や他組合へデモへの参加を呼びかけるなど闘いを進めている。

 その山場として設定されたのが、13日夕方のデモであった。ダウンタウンの中心にあるパーシングスクエア(広場)で短時間の集会を開催した後、デモ行進に入った。デモの先頭を走るのがロス市警の10名の自転車部隊。でも何をやっているのかよくわからない。デモ隊の前を行ったり来たりぐるぐる回っているだけ。

 日本とは違い、6車線の道路全体を完全に閉鎖してのデモだ。約1000名の組合員やSEIUなどの他組合の支援者、市議会議員、宗教者、コミュニティの活動家などが参加していた。スペイン語、英語でコールを繰り返す。

 短い距離だったがデモ行進をする。解散地点の交差点のど真ん中に、なんと24個のベットを放射状に並べて円陣を作り、デモ参加者が取り囲んで座り込む。

 ロス市警は組合の行動予定を知っているらしく、護送車(格子入りのバス)を用意して交差点の右側の道路に機動隊が待機している。警察のカメラマンが二人、デモを終始ビデオ撮影していた(これまでのHEREのデモではなかった)。日本の機動隊と違うところは、約半数が防弾チョッキのようなベストを着ていて、全員がピストルを所持している点と、盾ではなく警棒を持って構えている点である。何人かはガス銃を背負っていた。

 ホテルのハウスキーパーの組合員が、ベットメイキングをそこで実演する。1日に24部屋の清掃とベットメイキングを義務づけられ、それがいかに大変か、別のスタッフが拡声器で解説を流す。

 24のベッドメイキングが終わったら、UNITE-HEREローカル11のデュラゾ委員長、財務書記長、スーザン・ミナト(スタッフダイレクター)をはじめ、スタッフや組合員たち、市議会議員、宗教者、コミュニティの活動家たち、あわせて40名余が真ん中に座り込みを始めた。

 ロス市警は、英語とスペイン語の警告放送を繰り返し流し始めた。その間に赤いベストを着たローカル11のスタッフたちが、周りを囲んでいた組合員たちをスムーズに歩道上に誘導し、ベッドを片づける。すると、ヘルメットをかぶった機動隊が交差点の四方に展開してラインをつくって外側を固めた。

 市民的不服従行動の始まりだ。交差点のど真ん中に円陣を組んで座り込み、英語やスペイン語の歌やコールを繰り返す。おなじみの「ウイ・シャル・オーバーカム」も歌われた。歩道に上がった組合員たちも一緒に声を上げて応援する。

 メディア各社も来ていて、撮影やレポーターの現場中継をやっている(帰ってから家で見たテレビニュースで報道されていた)。マスメディア以外では「インディペンデント・メディアセンター」のロス支部の若者や、ベトナム反戦運動以来のフィルムメーカーも一部始終を撮影していた。

 ロス市警の機動隊は、自主的な退去意志がないのか、一人ずつ尋問を行い、それをビデオカメラで撮影している。逮捕を告げられると当人は自主的に立ち上がる。後ろ手に手錠をかけられる。手錠と言っても日本の金属製の手錠とは違い、白いソフトプラスチックのベルトのようなもの。そして、両脇を機動隊に固められて、護送用のバスまで連れて行かれる。そこで身体検査をされ、ベルトや所持品を確認の上、取り上げられていた。

 40名余が順番に逮捕される。歩道上からは激励のコールや歌が続いている。最初の逮捕者はジェイムス・ローソン師である。彼は黒人のメソジスト教会の牧師で、キング牧師らと一緒に闘った公民権運動の指導者である。1960年にはナッシュビルで黒人の利用を禁ずるレストランに対する市民的不服従行動を指導している。逮捕者の最後はデュラゾ委員長だった。

 全員が逮捕された後、歩道上で見守っていた組合員も解散した。護送用バスの前では、一人ずつ身体検査が続いている。なんとそのすぐ前を一般の人びとが歩いているので、そばへ行ってみる。警察が何も言わないし、逮捕者を取り囲んでいるわけでもないので、護送車の中にいたビクター・ナロー(レイバーセンターのスタッフ)に声をかけ、写真を撮る。私が写真を撮っていると、他のマスコミやカメラを持った人びとが駆けつけ、一斉に撮り出す。さすがに私服刑事が出てきて、離れてくれと言われた。まあ、十分に撮影した後に。

 もうそろそろ現場を離れようかと思っていたとき、地元では有名な50代の独立系フィルムメーカーに声をかけることができた。名前はデビット・カフ。彼は移民労働者の闘いをテーマに作品を作り続けてきた。911の後にはワールドトレードセンターで働いていた移民労働者をテーマにフィルム「ウィンドウズ」を制作している。私たちはこの作品を観たくてずっと彼の連絡先を捜していたのだ。このことを告げると彼は快く、フィルムのコピーをあげるよと言ってくれた。別れ際、警察署に連行された逮捕者たちの解放される瞬間が感動的なんだ。いつ解放されるかわからないが、私もこれから警察署へいくつもりだ、と私たちに告げて去っていった。

 ロス市警に護送された後、たいてい数時間で出られるが、警察が暇だと1?2泊することがあるらしい。ビクターとはその後連絡が取れず、現時点で釈放されているかどうかはわからない。


非暴力・市民的不服従トレーニングに参加

 実は、前々日の夕方、座り込み逮捕予定者を集めて、非暴力・市民的不服従トレーニングがダウンタウン・レイバーセンターで開催され、私も参加した。1960年のナッシュビルの市民的不服従行動のビデオ見て、ジェイムス・ローソン師がその歴史と意義、行動原則・内容を語る。次は、実際に警察に挑発された時の実践トレーニング。トレーニングと言っても、感情を高ぶらせない、冷静になる、押されても手を出さないなどの心構えを聞いて、それを二人組で役割を交代して実際にやってみる。座り込みをやって、逮捕されるところを実演してみる...といった内容のトレーニングだった。参加者の多くは逮捕経験があって、自分たちの経験を語りながら交流する。最後に弁護士でもあるビクター・ナローが逮捕に関する法的な解説をした。英語力のない私は、警察官としての挑発役を十分にできないのが残念だった。


警察と打ち合わせてやっているのか? 暗黙の了解?

 全体としては、非常に秩序だっていて、赤いベストを着た20名くらいのローカル11のスタッフたちが、混乱しないようにうまく誘導していた。警察の方も行動を予期しているようで、すべて準備を整えていた。ベットメイキングのパフォーマンスが終わるまでは、何も口を出さないで待機していた。座り込んでいる人びとへも一人ひとり問答をして意思確認をし、逮捕されるという流れは、混乱もなくスムーズであった。すでに同じことが何度もなされ、お互いに経験を積んでいるということか? 警察と事前に打ち合わせをやっているのか? 暗黙の了解があるのか? 機会があったら聞いてみようと思う。

ロサンゼルス市の有力な宗教者や市議会議員が、ホテル労働者の闘いに連帯して、逮捕され、それらが報道され、経営に対して意思表示する、組合員も闘う意志を固め、盛り上げていくという意義があるのだろう。そして議員やレイバーセンターのスタッフが率先して逮捕されるのも、日本では考えられないこと。


日本でも同じような行動がくめるだろうか?

 「非暴力・市民的不服従」は、日本とは比較にならない暴力的な社会関係、過剰な暴力的弾圧に対する闘いの結果として生み出された歴史的社会的背景をもっている。日本社会でも十分に活用できる闘い方ではないだろうか。今すぐには無理そうだけれども。非暴力・市民的不服従についての丁寧でかつ様々な人びとを巻き込んだ議論とトレーニングが不可欠である。警察に対する教育も必要だろう。

(なお、一部始終をビデオで撮影した)