アミネ・カリル一家事件の判決要旨

■ 採決の処分性及び退去強制令書発付処分における主任審査官の裁量の存否

  • 入管法49条1項の意義の申し出に対する法務大臣の裁決は、内部的決済行為というべきものであり、行政事件訴訟法3条1項にいう公権力の行使には該当しないので、法務大臣がした本件各裁決の取り消しを求める訴えの部分は、不適法であり、却下する。

  • 主任審査官には、退去強制令書を発付するにあたり、退去強制令書を発付するか否か(効果裁量)、発付するとしてこれをいつ発付するか(時の裁量)につき、裁量が認められているというべきである。

■ 本件各退令発付処分の適法性

  • 主任審査官の裁量権の逸脱濫用があったか否か、すなわち、原告らにつき在留特別許可をあたえるべき者に該当するか否かの判断に当たり、当然に重視すべき事項を不当に軽視し、又は、本来重視すべきでない事項を不当に重視することにより、その判断が左右されたものと認められるか否かという観点から審査を行い、これが肯定される場合には本件各退令発付処分をとり消すべきものとするのが相当である。

  • 原告ら一家が、10年近くにわたって平穏かつ公然と在留を継続し、既に善良な一市民として生活の基盤を築いていることは、在留特別許可を与えるか否かの判断に当たって、容疑者側に有利な事情の第一に上げることが、実務上、少なくとも黙示的な基準として確立していると認められる。本件処分は、これを無視したばかりか、むしろ逆の結論を導く事由として考慮しているのであって、そのような取り扱いを正当化する特段の事情も見当たらず、しかも、それが原告らに最も有利な事由と考えられるのであるから、当然考慮すべき事由を考慮しなかったことにより、その判断が左右されたものと認めざるを得ない。

  • 原告夫及び原告妻の親兄弟の職業や収入状況等は明らかではなく、帰国した原告らにどの程度の援助をし得るかも明らかではなく、原告らが特段の技能を有することなく10年近く本国を離れていたこと、本国においては失業率が高い状態が続いていること等からすると、原告らが本国に帰国した場合には、その生活には相当な困難が生ずると予測するのが通常人の常識にかなるものと認められる。
     また、原告子ら、特に長女は、本件処分当時12歳であり、その年齢まで一貫して我が国社会において男子と対等の生活を続けてきたのであるから、(女性が法律上も事実上も男性よりも劣った地位におかれている)本国に帰国した際には、相当な精神的衝撃を受け、場合によっては、生涯癒すことの困難な精神的苦痛を受けることもあり得ると考えるのが、通常人の常識に適うものと認められる。
     そうすると、被告らの主張は、十分な根拠に基づかない独断と評価せざるを得ず、本件処分の相当性を基礎付けるべきものとは考え難い。

  • 退去強制令書発付及びその執行がされた場合には、被告ら家族の生活は大きな変化が生じることが予想され、特に原告長女に生じる負担は想像を絶するものとであり、これらの事態は、人道に反するものとの評価をすることも十分可能である。
     不法在留外国人の取締りの必要性があることは確かであるが、不法残留以外に何らの犯罪行為等をしていない原告ら家族につき、在留資格を与えたとしても、それにより生じる支障は、同種の事案について在留資格を付与せざるを得なくなる等、出入国管理全体という観点において生じる、いわば抽象的なものに限られ、原告ら家族の在留資格を認めることそのものにより具体的に生じる支障は認められない。
     原告ら家族が受ける著しい不利益との比較衡量において、本件処分により達成される利益は決して大きいものではないというべきであり、本件各退去強制令発付処分は、比例原則に反した違法なものというべきである。

  • 以上によれば、本件各退令発付処分は、既に確立した裁量基準において原告らに有利に考慮すべき最重要の事由とされている事項を、原告らに有利に考慮しないばかりか、逆に不利益に考慮して結論を導いている点において、裁量権の逸脱又は濫用するものであり、その正当性の根拠として積極的に主張された点は、いずれもその相当性を基礎づける事由も認定することができず、しかも比例原則にも反するものであるから、これを取り消すべきものである。

 





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