news-button.gif (992 バイト) 75 2007年のはじめに――イラク・二つの選挙・市民の意見30の会のなど ( 『市民の意見30の会・東京ニュース』 No.100  2007. 2.1) 07/01/30搭載)     

2007年のはじめに――イラク・二つの選挙・市民の意見30の会のなど

       吉 川 勇 一

 ▼泥沼の2007年イラク情勢

年が明けて早々、ブッシュ米大統領がイラクへの21千名増派を含む「新」イラク政策を発表した。昨年10月の15千の増派に続くものである。イラク駐留米軍15万人体制に入ることになる。
 まさに、泥沼化に突入した1965年のベトナムでの悪夢の再現である。
656月に51千だったベトナムでの米軍の数は、この年に増派を続けた。6月、マクナマラ国防長官は、それを75千に増強すると言明、7月にはジョンソン大統領が、必要なだけ増強すると言明、9月末に13万を超え、年末には185千人に達した。だが、事態は一向に改善されず、1967年に475千にまで達していた米軍も、結局は全面撤退・完敗に追い込まれることになったのだ。
 現在の事態は、
42年前のベトナムのそれよりも、はるかに悪い。65年のベトナムには、韓国、フィリピン、オーストラリアなど、他の米側諸国も増派を続けたのだが、現在のイラクでは、最初38ヵ国が参加していた「有志連合」は崩壊して、イタリアをはじめ半数以上が完全に撤兵をして17ヵ国に減少、アメリカに次ぐ兵力を派遣していたイギリスでさえ削減を進めようとしている。その上、現地の事情もまったく異なる。ベトナム戦争のときには、アメリカの相手ははっきりしていて、南ベトナム臨時革命政府とベトナム民主共和国という交渉相手があった。イラクではそれがまったく見えず、アメリカは対抗する誰とも交渉することが出来ない。泥沼の程度は桁違いに悪いといっていい。今回の増派決定が失敗に終わることは目に見えている。残された道は、私たちの当初から主張のように、ただ一つ、兵力の全面撤退以外にはないのだ。
 こういう状況の中で、ブッシュの「新」政策にいち早く支持を表明した日本政府の姿勢は際立って異常である。昨年暮にはイラクへの自衛隊派兵の期間延長を決定し、年が明けてからの安倍首相の各国首脳との会談では、米国のイラク戦略への協力を説得さえしている。
53日に予定されている「市民意見広告運動」の改憲阻止・海外からの自衛隊撤退を要求する意見広告掲載運動の意義は、ますます重要になってきていると言えるだろう。

二つの選挙の重要性

今年は、4月の統一地方選挙(8日に都道府県と政令指定都市の首長・議員、22日に一般の市区町村の首長・議員)と7月の参議院選挙の二つの選挙がある。阿部首相は、この参院選での争点の一つに、憲法改定を掲げた。万一この選挙で与党が多数を占めるようなことになれば、国民は憲法の改定を支持しているのだとして、改憲への動きはさらに加速されることになる。その意味でも、公示の一月余ほど前に出される意見広告の重要性がある。表現の仕方に工夫が必要だが、主権者にこのことへの自覚を訴えるような内容が必要ではないだろうか。
 地方自治体の首長や議員の選挙についても、強調しておきたいことがある。私の住む西東京市は、選挙の時期がずれていて、すでに昨年12月に、30の議席をめぐって35人の候補者が争った市議選挙が実施された。私は『選挙公報』に出ている各候補の主張を全部読んでみて驚いた。立候補に当たっての政策、公約などが並んでいるのだが、そこで戦争・平和の問題、憲法や教育基本法の問題についてふれている候補は、なんと
35人のうち、私も推薦人になっていた無所属の森輝雄さん(本会会員)ただ一人だけだったのだ。森さんは『公報』のなかで、「市民社会の基礎は憲法、教育基本法」という見出しをつけ「市民生活の前提は戦争をしないこと、平和があって成り立つ市民社会、戦争を出来る国にはしたくない。教育は国のためではなく、市民としての、一人ひとりの自立のために。 平和がイチバン、愛国教育はゴメンです」と書いていた。立場は明快だ。
 ところが、他の34人は、共産党も、社民党も、民主党も、生活者ネットからの候補も、だれひとりとして、憲法や教育基本法の問題に一言も触れていなかった。教育について触れている候補者はいても、それは「青少年の健全育成」「完全給食の早期実現」とか「安全対策として小中学生に防犯ブザーの貸与」といったことだった。世界や国政に関わることは、市民の生活に重大な影響をもつものであろうと、地方選挙とは関係ないとでも思っているのだろうか。とんでもないことだ。戦争と平和、民衆の安全保障などの問題こそ、地域における日常の生活の場から考えられ、議論されて組み立てられるべきものであるはずだ。地方選挙では、平和や憲法などを言っても支持は得られないと候補者が考えているのだったら、それは市民、有権者に対する侮辱であり、市民意識への蔑視というべきだろう。私は森さんの上位当選を確信した。
 結果はどうだったか。森さんは2,955票を得て、最高点当選だった。最下位当選者が1,308票だったから、二人分以上ということになる。
 これから地方選挙を迎える地域の人びとにとって、このことは教訓的ではなかろうか。今から、立候補予定者に、戦争、平和、憲法、国民投票法案、教育基本法、イラク派兵問題など、市民の生活にとって重大な関係のある大状況の問題への姿勢を明示するよう強く求め、有権者としての反戦平和への意思を伝える働きかけをしていただきたいと思う。

 市民の意見30の会のこと

 私たちの『市民の意見30の会・東京ニュース』は、この号で100号を迎えた。
 10ページの創刊号が発行されたのが1991年4月のことだから、16年を経たことになる。90年末には200人にも満たなかった会員数もその後増大を続けて、現在では1500名を超えている。
 「意見
30」という名称は、すぐにはわかりかねるものだ。新会員も増えているので、経過を簡単に振り返ってみよう。
 
そもそもは1987年、作家の小田実さんを含む何人かの市民が、非暴力、非軍事、民主主義の社会を実現してゆく上で、どのような政策が必要かを具体的にまとめてみようではないかと相談したことから始まった。
 この問題提起は広く受け入れられ、各地で討論の場が作られ、そこで出された提案は30項目にまとめられて、1989年116日の『朝日新聞』全国版に10段の意見広告として掲載された。これが「市民の意見30」という名称の所以だった。
 その後、この30の提言実現をめざそうという運動体が、東京、関西などに発足した。以来、東京に事務局をもつ私たちのグループは「市民の意見30の会・東京」という名称を続けてきた。事務局は東京にあり、会合なども東京での場合が多いが、会員は全国にまたがり、会の意見広告運動や署名運動などは全国的規模で行なわれ、必ずしも東京という地域の運動とは言えない性格をもつようになっている。関西には、「市民の意見30・関西」(代表=小田実さん)というグループが存在し、定期的な会合を開いている。 

改定が必要な30の意見 

 市民の意見30の会の基本的立場は発足以来変わっていない。「30の提言」の第26項や28項にあるとおり、立場の基本には、九条の改変の阻止、自衛隊違憲、完全非武装、日米安保条約廃棄、日米平和友好条約の締結があることを、再度確認しておきたい。
 しかし
20年前につくったこの「30の提言」の中には、今では不十分な点、足りない点も少なくない。その後につくられた「日米平和友好条約案」や958月に意見広告として発表した「戦後50年市民の不戦宣言」あるいは関西のグループによる「良心的軍事拒否国家日本」の構想なども関連づけられるべきだろう。
 今「市民の意見30・関西」は、「新たな市民の政策づくり」にとりかかり、災害基本法の市民立法や教育問題に関する提言をまとめるなどの作業を進めている。これは、「30の提言」をその後の状況にあわせて活性化させようとする努力であり、私たちもそれを全面的に支持している。 

高齢者会員のできること 

 意見広告運動の大規模な展開にあわせて、その活動の中で重要な役割を果たしてきた私たちの会は、大きく発展した。会員数は飛躍的に拡大し、財政的にもまずは安定しているといえる。
 だが、会員の高齢化による変貌も否めない。現在65歳以上の会員が30%を占めるようになり、デモなど身体を動かす行動への会員参加は次第に減少してきている。中年層や若者層にどう広げてゆくかは、ここ数年の重要な課題となっている。
 それが依然として大事な問題であることは確かだが、しかし、それが解決しないと憂いたり嘆いたりだけしているわけにはゆかない。政治の現状は、それを許さないほど深刻、危機的である。高齢化した会だとしても、今、持てる力をすべて出し切っているとは言えないだろう。
 年も多く受けとった賀状を見ると、同年輩やもっと年上の人びとからは、政治への怒りや行動への意欲を強く訴えるものが目立つ。高年層の持つエネルギーは大きいと思う。それが全面的に展開される中で、より若い層への影響力も発揮されるのだろうし、運動の継承も可能となってゆくのだろうと、私は思っている。
 昨年秋に「市民意見広告運動」が出したパンフレット『武力で平和は創れない』の爆発的とも言える売れ行きは、つくった私たち自身が驚くほどだった。(今も注文が続くが、その後の事態の変化――安倍内閣の成立、北朝鮮の核実験などなど――を含めた改訂版が、3月中には出版社から発行され、一般書店の店頭にも並ぶ予定である。)改憲是非の論議が、これを活用して各地で行なわれていることがよくわかる。デモや集会には出られなくても、やれることはまだまだ多くある、と思うのだ。
 高年層の会員の人びとに訴えたい。例えば同窓会名簿をくって、これと思う友人に、意見広告運動のチラシを送り、改憲反対の宣言にその名前を加えるよう勧める手紙を出していただけないだろうか。『ニュース』の見本を送っていただけないだろうか。いや、まずご自分の子どもや孫の家庭、あるいは甥、姪の家庭に送ってみていただけないだろうか。
 「九条の会」が全国につくられ、その数は5,600に達したとのことである。とてもいいことだと思う。私自身も「障害者・患者九条の会」の呼びかけ人になっている。だが、各地の九条の会の多くは、呼びかけ人の著名人を招いて講演会などを開き、改憲阻止の意思を再確認するということに留まってはいないだろうか。まずは仲間が結集することが必要なのだろうが、問題はそこから先だ。改憲が必要だと思っている、少なくともよくわからないと思っている人びとを説得し、意見を変えさせることが大事なのだ。
 私たちが昨年5月に出した『読売』への意見広告と、パンフの発行はまさにそれを意図したものだった。参議院選挙を前にして、こうした活動の意義はいくら強調してもたりないほど大事となっている。ぜひご考慮いただきたいと思う。

               (よしかわ・ゆういち、本会会員、76歳)   

( 『市民の意見30の会・東京ニュース』 No.100  2007. 2.1 に掲載)