news-button.gif (992 バイト) 39 再びベトナムを訪ねて(中)――あらたな創意が必要に (『週刊 読書人』2002年6月28日号)  (2002/06/22新規搭載)  

再びベトナムを訪ねて(中) (『週刊読書人』2002年6月28日号)
新 た な 創 意 が 必 要 に
予想しなかったビン副大統領の発言

吉 川 勇 一戦争証跡博物館で吉岡忍氏と

 驚いたというのは、これらに対するベトナム側の発言だった。出席していた元国連大使や、元パリ和平会談代表といった人びとがつぎつぎと発言した。国際舞台の場では聞けなかったような話が、それぞれの人から語られた。憲法を無視しての小泉政権のインド洋軍艦派遣への驚きや鋭い批判も語られた。
 かつて南ベトナム臨時革命政府代表としてパリ和平会談代表の一人だったグエン・ゴック・ドゥアン女史はこう発言した。
 ――今皆さんが言われたことこそ、私たちが最も悩んでいる点なのです。かつては人びとの立場ははっきりしていた。侵略する帝国主義の側に立つのか、抑圧されている側に立つのか。最近もよく国際会議の場に出るが、そこでは経済問題しか話題にならず、政治の話をすると遅れた人間のように思われてしまう。話はせいぜい環境問題だ。かつて私たちとともに闘った団体のあるものは存在しなくなり、あるものは不活発になっている。個人も、ある人びとはすでになくなり、ある人びとは意見を変えた。新しい国際関係をどう作り直してゆくのか、とても難しい問題だと痛感しているのです――。
 これらの発言のあと、ビン副大統領はこう言った。
――21世紀を希望の世紀と期待した。だが、その希望は実現していない。最初の年に911事件が起き、つづいてアフガン戦争が起こった。アメリカの今の好戦的な態度を抑えなければ、今後何が起こるかわからない。「グローバリゼーション」の問題もある。豊かな国はこれでもっともっと豊かになり、貧しい国はもっともっと貧しくなる。この二つの問題が世界を強く支配している。このなかに日本とベトナムの関係もある。ベトナム戦争時、日本政府はアメリカに追随していたが、いま日越関係は、経済面ではよくなってきており、その積極面を私たちは認める。だが、今後の日本の対ベトナム政策はどうなり、両国の関係がどう変わるのか、注目している。……昔は社会主義陣営というものがあり、アメリカが独善的、特権的に動くことはできなかった。国際的な民主的団体もあった。いま、そういうものはない。われわれには、あらたな創意が必要なのだ。
 きょうは新しい「始まり」だ。これから大いにみなさんと交流し、新しい方策を考え出していきたい――
 ほとんど初対面と言ってもいい私たちに、こういう話がされるとは、少なくとも私の予想していなかったことだった。
(この項続く)(よしかわ・ゆういち氏=「市民の意見30の会・東京」会員、元ベ平連事務局長)
◇写真は戦争証跡博物館のベ平連資料の展示の前で吉岡忍氏(左)と筆者(新聞に掲載されたのは白黒写真)

 
(『週刊 読書人』2002年6月28日号)