news-button.gif (992 バイト) 36 成田空港とキリン麦酒とバドワイザー (2002/06/04新規搭載)

 「成田空港の暫定滑走路の供用中止を訴えます」編集委員会編 『着陸不可』  (七つ森書館刊 定価 \1.000)に所収     
 

成田空港とキリン麦酒とバドワイザー

吉川 勇一(市民の意見30の会・東京)

  歳をとると、人間、いろいろなこだわりが増えてくる。私は、ベ平連時代、三菱重工の一株運動に参加し、暴力団に総会場から叩き出され、その際、「ベ平連のチョーセン野郎!」(もちろん、「挑戦」ではなく「朝鮮」だ)と怒鳴られて以来、周辺から三菱資本関連の製品をいっさい排除することにしてきた。だから、ビールは大好きだが、キリンは飲まないし、バドワイザーも追放(注1)。カメラはニコンは使わず、お茶も伊藤園はダメ。『週刊新潮』と喧嘩をしてからは、新潮社の本はいっさい買わない、などなど……。他人には強制しない、自分だけのこだわりである。別にそうしたからといって、相手に何らかの影響が与えられるとも、もちろん、思っていない。人間、弱い存在だから、何か自分でそうしたこだわりを決めておかないと、あるときの怒りや決意も次第に薄れてゆくのではないか、と思っているからだ。

 三里塚闘争にかかわってからは、成田空港を利用しないことにしてきた。何度か東南アジアに出かけたが、その際、羽田から大阪まで飛び、場合によっては大阪に一泊してまでそこからの出発にこだわった。帰国もそうだ。ただし、絶対というわけではなく、親の死に目に会えないとか、どうしてもやむをえない場合は除くという「付則」(?)もあったが……。私の周辺にも、何人かそういう人がいる。

 先日、ベトナムへ行った。ホーチミン市の戦争証跡博物館にベ平連など、日本の反戦市民運動の資料を届けるためだった。旅行会社に関西発の切符の手配を頼んだのだが、今、日本ではベトナム観光ブームだとかで、どうしても関西発の券は入手できず、やむを得ず成田から飛んだ。(注2)

 爆音の下で暮らしているベ平連以来の仲間、小泉英政さんのことや、何千羽の鶏のことなどを思うと、やはり心が痛む。つい先日も、臨時滑走路の視察にいった市民の意見30の会・東京の梶川遼子さんや、鎌田慧さんの話を聞いたばかりだ。政府も公団も、人の心の中に残したこうした傷やこだわりは、おそらく決して理解できないのだろう。

 共有地の一株の権利は、自分からは決して放すつもりはない。

2002/3/29


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以下の注は、本には載っていません。あとからつけたものです。

(注1) つい先日まで、私はバドワイザーを飲んでいた。市民の意見30の会・東京の事務所のそばに安いレストランがあって、よくそこで食事を摂る。だが、その店には日本のビールはキリンしか置いてないので、いつも私はバドワイザーの缶を注文していた。ところが、この間、例によってバドワイザーの缶を注文し、ご飯を少なめにしてもらったオムライスを食べ終わり、コーヒーを飲みながら、なんということなしに空になったビールの缶を眺めていた。すると、なんと、缶の横には、「バドワイザーは、米国、アンハイザー・ブッシュ社のライセンスにより麒麟麦酒株式会社が製造しております」とあるではないか! これで私は、バドワイザーも飲めなくなったのだった。
(注2)このあと、4月末に再度ベトナムを訪問することになった。ベトナムの友好団体連合会と平和委員会の招待の旅行だったが、参加の用意のあった原子力資料情報室代表の物理学者、山口幸夫さんは、成田を使わねばならないのだったら、ベトナム行きはあきらめる、と固い決意だった。幸い、このときは、関西空港発着の座席がとれた。それで首都圏からの 参加グループの中では、山口さんとそのお嬢さんの裕衣さん、そして私の3人が、関西空港から出国することになった。しかし、それを利用するのには、羽田空港を早朝に出発する便で関空へゆかねばならず、そのため、4時起きをして自宅からタクシーで羽田空港まで行った。羽田→関空の航空運賃が12,150円(身体障害者割引で)、タクシー代が12,580円(同)、高速道路料が700円、計25,430円の支出増加となったし、帰りは帰りで、関空についてから、羽田への便に乗り継ぐために五時間以上も待たねばならなかった。成田を使わないという私の「こだわり」を実行するには、ずいぶんお金と時間がかかるものであり、痛いことである。でも、小泉さんたちの痛みに比べればね……と意地をはりつづけることにしている。(6/3)