5 「前例」とは、つくらなければ存在しないものだ  (2001/10/10記入)
  
     
いい人は介護する(?)――障害者として、介護者としての雑感  (その5)

 古い『障害者手帳のしおり』を参考にしていると、その後の変更がいろいろあるから、損をすることもある、ということを実感した私は、 今年の前半のある日、市役所障害福祉課に電話をかけて、自分は10年ほど前の古いものしか持っていないので、今年の版の新しい『障害者手帳のしおり』をもらいたいのだが、と言った。すると、電話に出た窓口の係りは、『手帳のしおり』はお一人一冊しか差し上げられないのです、と言う。同じものを何冊もほしいと言うんじゃないのだ、ずいぶん前の古いもので、変わっているところがたくさんあるから、新しいものがほしいのだ、と言うと、「でも、そういう前例はないものですから……」という答え。

 私は、そこで少し声を荒げた。「前例がないですって? じゃあ、そういう前例を作ったらいいじゃないですか! 私にくれれば、それが前例になるんですよ!」 私の剣幕に驚いたのか、「少しお待ちください」といって電話口から離れた。おそらく、上司と相談し に行ったのだろう。だいぶ待たされてから、「では、1冊だけ差し上げることにします。でも、まだ今年の版は都から来ていないのです。毎年、8月末くらいに届くので、そのころになったらまたご連絡してみてください。それに、都からはごく 少部数しか来ないものですから、新しく障害者になった方に優先して配布するので、余部はごく僅かなのです。すべての障害者の方に新しい版を差し上げるわけにはいかない、ということは、是非ご承知ください」という返事が返ってきた。

 前例が一つ、出来たようだ。それにしても、何か、私に今年の版の『しおり』をくれるのは、大変な特例のような口ぶりではあった。9月のはじめ、市役所に電話をして新しい版が届いたかどうかを問い合わせた。前回電話に出た係員とは違う人だったが、「まだ都から来ていません。すこし先にまたご連絡ください。それに、部数がとても限られているので、古い版をお持ちの方全員に差し上げられるわけじゃありませんので、それだけはご承知ください」 と、また、念をおされた。

 10月に入ってまた電話をしてみた。都は順次今年の版を配っているようだが、まだ西東京市には来ていない、という返事だった。それに、市としては、毎年増える障害者に配布するため、400〜500部の注文をするのだが、都からはその半分も届かず、足りないから追加してほしいと、その都度請求してもらっているほどで、とても古くからの障害者に配る部数はない、10月末にでもなって、今年の版が届けば、昨年度分でいくらか余りが出るだろうから、それを差し上げることで勘弁してほしい、と言われてしまった。昨年から今年の間では、内容にほとんど変化はないそうだから、それでもいい、と私は答えたのだが、こんなところにも、都側の弱者対策の後退ぶり、福祉予算の削減ぶりが表われているようだ。一方、市としても、都からの部数が少ないからやれない、ではなくて、都と折衝をやったにもかかわらず、都が必要部数を配ることを拒否したのだったら、それこそ、市の『広報』にでも経過を載せて、市民にそうした実情を知らせるべきではないか。そういうことをせぬかぎり、都側に「新しい前例」をつくらせることは出来ないだろう。

 とにかく、10月半ば現在、私はまだ最近の障害者手帳を貰えていない。手帳の裏表紙には次の図のような言葉が印刷されている。よく恥ずかしくないものだ。   !!