「脳死」臓器移植200事例の検証報告を問う 2016.02.20 変質する現場の今を問う集会資料 文責 岡本隆吉 厚労省は207事例の検証が終わっている事で、2015年5月25日付で200事例検証のまとめを報告した。 このまとめの報告を見ると法律・規則・ガイドラインに違反している事例が続々出てきます。 例えば ◆全脳機能の消失を確定する平坦脳波の確認は不十分な事例が46例も! ◆脳波測定でノイズ除去のため筋弛緩剤投与している? ◆無呼吸テストの中止、又は再判定対象が第2回法的脳死判定で29例も! ◆コンタクトレンズ装着の患者に角膜反射のテストで脳死? 等など。それでも検証会議は「結果的に脳死が疑われるような事例はない」と結論している!! 具体的な違反事例 @脳死判定の前提条件であるCTによる画像診断が実施されていない事例が150事例で1例、200事例で2例もあり計3例は確定診断すらしないで脳死判定している。 A脳死とされうる状態の診断で、生命徴候の確認の一つである体温測定では、深温部測定がされていない事例が164事例中57事例で前回発表より9例増えている。36事例は測定部位すら記載もされていない。また法的脳死判定でも第1回が21事例、第2回目脳死判定で20事例が深温部測定をしていない。脳死判定基準違反である。 B収縮期血圧でも施行規則で定めた基準の90mmHg以上が守られず、基準未満の血圧で実施されているのが臨床的診断で22例ある。このうち6例は十分に昇圧してから診断する事が望ましいと指摘しているが、何故6例だけなのか施行規則違反だから22例全例指摘して徹底を図るべきと考える。 ※Cソフトコンタクトレンズを装着したドナーを脳死とされうる診断で見抜けなくて、第1回目法的脳死判定でも見抜けていない。脳死判定対象外の人を脳死判定している。 ※D脳波記録は高感度記録が30分以上必要であるが、臨床的脳死診断で30分以下が38例もある。ところが指摘しているのは28例である。何故全例で指摘していないのか。38例は明確な法律違反である。 Eまた高感度測定をしていない事例が8例となった。前回の150事例報告より2例増えている。高感度測定をしていない場合は平坦脳波の確認をしていないので、法的脳死判定には進めないが脳死と偽って家族から臓器提供の承諾書を取り、法的脳死判定を実施している。明らかに法律違反である。 F脳波の測定記録は双極導出、呼名刺激、痛み刺激を行った記録と心電図・頭部外導出の同時記録が求められているが、13例について実施していない為指摘したと記述されている。また神経学的所見の確認に続いて脳波を測定するべき事を守っていない事例が5例あった為1例指摘したとの記述がある。これら事例は全て法律違反である。 ※G脳死とされうる状態の診断及び法的脳死判定でアーチファクト(ノイズ)を除去する為に筋弛緩剤を投与した事例が1例あったと記述されている。又脳波検査後接触抵抗が高い電極があった為再検査が行われたとの記述もある。また電極間距離が基準より短く不適と指摘した事例があると記述されている。脳波検査が軽視されているからなのか、それとも単なる勉強不足なのか、人の生死にかかわる検査での基準軽視は許されない。脳死判定基準の徹底を図るだけで許されるものではない!  ※H法的脳死判定の無呼吸テストでは前回の150事例後50例中の第1回目で7例、第2回目で9例のPaO2が著しく低値で始めたものや、検査中にPaO2や血圧が極度に低下して、無呼吸テストの中止、再判定の必要があった事例が6事例も指摘されている。こうした行為は現に生きている患者に対してできる行為ではない。この様な施設では脳死判定をすべきではない。無呼吸テストで脳死にされたと言うべき殺人行為である。 I無呼吸テストの採血間隔では2回目以降の採血間隔で検査機器の不具合や検査手順、検査手技の問題で採血間隔が長い事例が散見されたと指摘している。前項と同じく生きている患者に対しての行為とは思えない無神経で人権侵害に匹敵する行為の再発は許されない。 J患者が高体温であった場合の無呼吸テストでは、あらかじめ血液ガス分析値に体温補正をすべきところしていない事例が指摘されている。これらも含めて患者にとって最も危険な無呼吸テストがあまりにも安易に、無神経に実施されている。 K200事例中家族承諾事例は91事例。その内主治医が誘導的に臓器提供の選択肢提示をしたのが43例(47.3%)。これらはガイドラインに反している。  そして、上記具体的事例以外に、脳波記録を紛失していた金沢大学の事例や、法的脳死判定時に咳反射が出現して、咳反射が消失するまで数日間待って脳死判定をし直した福岡徳洲会病院事例、危険な無呼吸テストを何回も実施して脳死に至った大阪府千里救命救急センター事例、法的脳死判定の無呼吸テスト最中にPaO2が上昇して自発呼吸が復活したと思われる事例、法的脳死判定の脳波測定時に微弱脳波が出現して判定を中止して3時間後にやり直した事例等数々ありますが、全ては検証報告の中に記載されていません。その理由は、結果として法的脳死判定で脳死が確定しているから、何ら問題なかった事とされているのだと推察します。  最終結果が脳死であった事で全てが許されている事は大きな問題です。さらに問題なのは、厚労省が検証会議の指摘した事をその都度全臓器提供病院に通達を出し、脳死判定の厳格な実施や、法律、規則、ガイドラインの順守を徹底させてこなかった事です。またその結果きわめて危険な無呼吸テストが今でも漫然と続けられていたり、主治医の誘導ともいえる臓器提供に歯止めがかけられないまま患者の意思に反した臓器提供が続いている事です。  何よりも、法を犯してまで患者を「脳死」=(死)に追いやることを平然と行う臓器移植推進医師達のおぞましい行為には怒りを感じます。