医療の変質 政府の医療費削減政策と地域包括ケアシステム 【医療の変質―病院は「儲けること」が基準に変わっていっている】 厚労省は、医療費抑制のために診療報酬の高い一般急性期を削減し、安い慢性期に移行させるために診療報酬で誘導している。中小病院は、急性期の基準を上げられると必然的に追い出され、慢性期に移行せざるおえなくなっている。2014年の診療報酬の改定で、新設された慢性期(地域包括ケア病棟)は、1300病院(2015.10現在)が届け出を行っているが、76%が200床以下の病院であり、厚労省は、2016年4月の改定で、さらに急性期の基準を上げ急性期病院削減を狙っている。中小病院は、生き残りのために高い診療報酬時点での患者追い出しを余儀なくされ、収益を上げないと、自分たちの給与が支払われない可能性もあり、管理職だけでなく一般職員までも診療報酬の点数を考えながら患者に接している現実がある。 【病院はもともと赤字になるしくみ】 病院の収入は診療報酬で支払われている。診療報酬とは、中央社会医療協議会(中医協)が2年に1回見直しを行い厚労省が決定する。1点=10円で計算され、医療にかかる公定価格である。この日本の皆保険制度により、どこの保険医療機関で受診しても、同じ負担額で同じ医療の提供が受けられる。病院は、この公定価格に基づき、収益に関係なく診療に携われてきた。しかし、ここ数年の診療報酬のマイナス改定は、医療機関への医業収入が減らされ、中小病院にとっては、材料費や人件費が賄えず経営の危機に瀕している。現行の診療報酬では、大病院は黒字に中小病院は赤字になる仕組みとなっている。  また、長年地域住民の医療を担っていた市民病院も、2009年に施行された自治体健全化法により、病院の赤字を補てんしていた一般会計と特別会計のやり取りを禁止し連結決算による報告が義務づけられた。赤字が一定基準を超えると、政府から「財政健全化計画」の策定が義務づけられる。そのため、財政難の自治体では、赤字になる市民病院の閉鎖や福祉関連・地域医療機関などへの補助金の削減が相次いだ。市民病院を失った市民にとっては、中小の民間病院が頼りだが、その民間病院を政府は削減の対象としている。 【地域包括ケアシステムとは】  「地域包括ケアシステム」とは、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築を推進」としている。 要は、入院費の高い急性期の大病院から安い慢性期の中小病院に早期に転院させ、そこでは60日の期限を切り、その後は介護施設あるいは自宅へと追い出す医療提供体制の事である。患者を「医療から介護へ」「介護から在宅へ」と追い出し、医療・介護における公的ケア・公的サービスを大幅に切り縮める最大の要となっている。まず病床減らすことで、入院できない高齢者を介護施設あるいは自宅に戻し、そこで最期を向かえることが尊厳を保持できることだとしている。病院から追い出された高齢者の受け皿の整備は都道府県や各自治体に押し付け、介護職員不足の現状を、地域住民やボランティア任せにしようとしている。国が責任を放棄した無責任なシステムである。 安倍政権の社会保障攻撃が、従来行われてきた社会保障改悪と質的に異なるのは、「自助・自立」を柱とする社会保障理念の転換の制度化にある。公的責任の放棄・国家的・公的保証の縮小・解体とセットで進められている。2013年8月の「社会保障改革国民会議」の報告書で「自助・公助・公助」が初めて明記された。しかし、2013年12月に出されたプログラム法では、「自助・自立」が前面に押し出され、事実上「公助」を否定した。 法律で、「自助努力」「年齢等にかかわりなく」「持てる力を最大限に発揮」「住民相互の助け合い」「受益と負担の均衡」が明記された。保険料を負担したものしか社会保障を受けられないという生存権・生活権を真っ向から否定するものである。安倍政権の「一億総活躍社会」は、健康を強要し病気になれば放置される、「自己責任社会保障」が「地域包括システム」である。   【病院からの患者追い出しと看取り・尊厳ある死は表と裏】 安倍政権が掲げる「骨太の方針2015」は、予算削減の最重点として社会保障費を位置づけ、2016〜18年の3年間で1兆5000億円程度に自然増の伸びを抑制する方針を打ち出した。 (3年間で約1兆〜1兆5000億円の削減を行うという小泉改革以上のものである) 2025年を見据え、病床を最大20万床削減することを柱としている。現在病床は135万床でこのままでは、2025年には152万床が必要になると言われている。そこで手厚い医療を必要としない30万人を、自宅や介護施設への治療に切り替えへ、これから増え続ける高齢者が入院できないように病床を減らし、医療費を抑えることを目的としている。「地域包括ケアシステム」を使い、看取りを自宅で行うことが、尊厳ある死であるかのように誘導し、高齢者の最期は、高度な医療をするのではなく「医療費を使わないで死んで下さい」というのが尊厳ある死の本質である。来年度の診療報酬改訂で、大病院の受診には、定額負担の上乗せ(5000円程度)を予定している。年金生活の高齢者にとっては、もはや受診ができる水準ではない。2025年に向け、病院からの患者追い出し政策が進んでいる。 2012年 6月 医療改革推進法→民主党野田政権下での、民主・自民・公明の3党合意(社会保障・税の一体改革) 2013年11月 プログラム法(改革スケジュール) 2014年5月 「健康・医療戦略推進法」(医療の産業化) 2014年6月 医療介護総合推進法→2014年10月病床機能報告制度スタート 2015年5月 医療保険制度改革法 ○自己負担増 ・外来受診時の定率負担(1〜3割)への定額負担上乗せ ・75歳以上患者負担の1割から2割への引き上げ ・高額療養費(自己負担額の月額上限額)引き上げ ・全病床での入院時居住費(水光熱費)徴収 ・介護保険利用者負担引き上げ ・生活援助、福祉用具、住宅改修の全額自己負担 ○保険給付の縮小・削減 ・要支援など「軽度者」のサービスを市町村へ丸投げ ・試薬品類似薬(湿布、漢方薬、目薬、ビタミン剤、うがい薬など)保険外し ・診療報酬・介護報酬のマイナス改訂