2012.7.1資料・岡本 検証事例を問う! 脳死判定で多くの違反―102例検証内容・検証会議が報告  去る3月29日付で厚生労働省が公表した「脳死下での臓器提供事例に係わる検証会議・102例の検証のまとめ」の内容には、これまで私達がときあるごとに指摘して来た杜撰な脳死判定の実態があった事を初めて認めています。そして危険な事は、移植法改正後は主治医からの臓器提供選択肢提示が65%(改正前は18%)に増加している事です。以下検証会議がまとめた問題点をご紹介します。 1、脳死判定の前提条件すら守っていない事例 @、確定診断をしていない:1例でCT等画像診断による確定診断手抜き A、「深部温が32℃未満でない事」について、測定部位を記載していたのは68例のみで、その内35例は腋下測定だった。 B、「収縮期血圧は90mmHg以上」とされているが、基準以下が12例もあった。その内「2例については収縮期血圧が35mmHg、48mmHgと著しく低く、十分に昇圧をしてから診断を行うべきだったと指摘した。」とまとめている。 2、脳死判定基準を守っていなくても、結果的に脳死とされた事例 @脳幹反射の確認の一つ前庭反射消失の確認に、冷水を使わないで、冷やした空気で代用(エアーカロリックテスト)した事例 A、前庭反射の消失確認に聴性脳幹誘発反応で代用した事例、 B、脳波の測定記録は通常感度及び高感度の記録を全体で30分以上継続記録が定められているが、10例が30分未満であった。 C、1例で通常感度の記録すら行われていなかった。 D、脳波記録中に呼名刺激、痛み刺激を行った記録、心電図、頭部外導出の同時記録等求められているが、「数例でこれらが施行されていなかった」 E、筋電図や静電電磁誘導などによるアーチファクトにより平坦脳波と判定するのが困難な事例も認められた。 3、最も危険な無呼吸テストで脳死が作られたと思われる事例 @、PaCO2が60mmHgになった時点で無呼吸を確認する事になっているが、「80mmHgを超えるまで検査が継続された事例がみられた。今後は越える事の無いよう指摘した。」と報告している。 A、無呼吸テスト前のPaO2が200mmHgより低下していた事例が第一回では10例、第2回では8例もあり、この点では「著しく低値を示した事例については当該施設に対し、今後改善を求めるように指摘を行った」とまとめている。 B、無呼吸テスト中の採血間隔は開始後2〜3分後と定めているが、7〜9分後に行われている事例が2例もあった。この点でも「施設に対して、今後注意をするよう指摘した」と報告している C、「無呼吸テスト中に低血圧になってしまう事例も散見され、経過中、注意深い観察が必要である事を、施設に対し指摘を行った」と報告している。 4、主治医主導での臓器提供誘導事例増大! @、主治医が今後の治療についての選択肢を説明する際に、臓器提供の可能性を提示した事例は、改正前が83例中約18%だったが、改正後は17例中11例(64.7%)と増大している。 A、脳死とされうる状態(臨床的脳死診断)の診断前にコーディネーターが家族に臓器提供の説明をした事例、つまり事前説明は102例中27例で、法改正前は85例中20例、改正後は17例中7例(41.2%)であった。 ※ガイドラインでは臓器提供の標準的手順が定められていて、臨床的脳死診断(無呼吸テストを除いて全ての判定基準を満たしている事が確認された診断)をした後から臓器提供の可能性がある事を家族に説明できるようになっている。 5、まとめ 今回の報告では、上記具体的事例以外に、脳波記録を紛失していた金沢大学の事例や、法的脳死判定時に咳反射が出現して、咳反射が消失するまで数日間待って判定をし直した福岡徳洲会病院事例や、危険な無呼吸テストを何回も実施して脳死に至った大阪府千里救命救急センター事例や、法的脳死判定の無呼吸テスト最中にPaO2が上昇して自発呼吸が復活したと思われる事例、法的脳死判定2回目の脳波測定時に微弱脳波が出現して判定を中止して3時間後にやり直した事例等、数々ありますが、検証会議の報告の中に記載されていません。その理由は、結果として法的脳死判定で脳死が確定しているから、何ら問題なかった事とされているのだと推察します。今回指摘された事例についても、上記のような事例があるにもかかわらず、検証会議は報告書を次のようにまとめています。 「法的脳死判定については、・・・・に注意をしなければならないと考えられる。しかしながら、法的脳死判定は全ての検証事例についていずれも妥当に行われていたと判断した。」 最終結果が脳死であった事で全てが許されている事は大きな問題です。さらに問題なのは、厚労省が検証会議の指摘した事をその都度全臓器提供病院に通達を出し、脳死判定の厳格な実施や、法律、規則、ガイドラインの順守を徹底させてこなかった事です。また、その結果きわめて危険な無呼吸テストを漫然と繰り返させたり、主治医の誘導ともいえる臓器提供に歯止めをかける抜本対策を全く講じてこなかったことです。