「一度病気で死にかけた命。
このままワイヤとともに海に沈められてもかまわない。
命に替えてもこの海を守る」
アンカーブロックをつっている鋼鉄のワイヤに
住民は自分の腕を結びつけた

クレーンを上げれば、人が空中につるされる
降ろせばアンカーブロックとともに海に沈む
もはやアンカーブロックは、
水中5メートルの位置から
上げることも下げることもできなくなった
大分県はその日の工事を中断せざるをえなくなった。

2005年1月24日、
大分県佐伯市大入島。
県は、この日、石間の海を埋め立てるための工事に強行着手した。

アンカーブロックは、
タテヨコ1.5メートル、
重さ6.7トンのコンクリート製。
県は当初、4日間で98個のアンカーブロックを
石間の海に投入する計画だった。

しかし、
アンカーブロックを満載した台船がして石間浦に現れると、
埋め立てを阻止しようとする漁船たちは
あっという間にそれを取り囲み、
漁船に乗っていた地元の漁民、住民らは
次々と台船に乗り込み、座り込んだ。
この日の工事も中断となった。

1月26日、大分県は
再び、埋め立て工事を再開した。
この日、大分県側は、前回のような
台船への住民の乗り移りをさせまいと、
クレーン台船の周囲に防護柵を立て、
さらに有刺鉄線を張りめぐらせた。

しかし、
住民たちは、防護策や有刺鉄線にケガをしながら、
再び、クレーン台船に飛びうつっていった。


県の工事は再び中止に追い込まれた。
大入島石間浦沖の埋め立て工事は
1月27日以降、中断した。
しかし、大分県は2月18日、来年度予算案に
大入島埋め立て基礎工事費用として3億6千万円を計上した。
広瀬・大分県知事は
「住民の理解を得ながら、引き続き工事を進めたい」と、
事業を推進する意向だという
埋め立てに反対している大入島石間区の清家太区長は
「県が工事をあきらめていないことは分かっていた。
予期していたことだが、知事の英断で中止になるのでは、との期待もあった。
まだ裁判も決着がついていないし、今後もあくまでも反対していく」
大分県佐伯市・大入島
美しい海、豊かな自然が残された素晴らしいところ。
この大入島石間浦の人々は先祖代々、この海で貝類、藻類を採り、
それを生活の糧として、海とともに暮らしをしてきた。
いま大分県はその大入島の海を埋め立てようとしている。

<大入島で今なにが起きているのか?>
1993年に改訂された国の佐伯港港湾整備計画に基づき、1995年度から佐伯市女島地区では水深14メートルの岸壁築造工事が進められていますが、大入島の埋め立て(大入島東地区廃棄物埋立護岸事業)は、その佐伯港港湾整備計画の一環。97年度から国の補助事業(事業主体は県)として着手されており、費用総額は当初計画で約80億円。現在は縮小されて47億円となっています。
同計画によれば、佐伯港に水深14メートルの岸壁や航路を海底を掘って造る際に出る土砂と、国道217号バイパスの建設残土など73万立方メートルを、大入島の石間浦沖17.3ha(石間浦住民などの強い反対を受けて縮小し、現在は6.1ha)に埋め立て処理することが目的とされています。
03年11月には、埋め立て予定海域の周囲に汚濁防止膜を張るため、アンカーブロックを積んだ台船が出港したが、石間浦住民の阻止行動によって、アンカーブロックを海中に設置できないまま引きあげた経緯があります。
県の説明では、もともとは、埋め立てによって緑地や住宅地を建設することが最終目的としていました。
しかし、過疎地であり住宅地も余っていることを裁判で追及されると、理由を一転させて佐伯港の航路しゅんせつだけに絞り、最後には、単に予算の消化のためということで着工を強行しました。
なぜ大入島石間浦の住民は命がけで反対しているのでしょうか
大入島石間浦の住民のなによりもの願いは、先祖代々からの生活の基盤であるふるさとの海(藻場)を守りたいというものです。大入島は、周囲22キロ、人口約1200人の小さな島です。しかし、その島の石間浦の海岸では、4時間余りでアワビ、サザエが100キログラム以上も採れます。豊かな藻場であり、養殖業も盛んです。後継者も多いといわれています。
石間浦住民は、江戸時代からそうした海藻、貝類を採取して生活してきました。それは「磯草の権利」と呼ばれています。大分県は、そうした「磯草の権利」を住民から奪い、自然の幸に恵まれた石間浦の海をヘドロで埋めようとしているのです。さらに埋立予定海域は大入島小学校の正面にあります。子どもたちの眼前の海がヘドロで埋め尽くされようとしているのです。そうした理不尽が許せるはずもありません。だから、石間浦住民は「この海を失って死ぬなら、今死ぬのも同じ」といって命がけで反対しているのです。
大入島はどういうところでしょうか
大入島は全国でも例をみない貝類の宝庫です。アワビやサザエなどが豊富に採れるのはもちろんですが、大分県の定めたレッドデータブックでも絶滅が危惧される貝類をはじめ、多くの希少種が生息しています。世界で3ヵ所しか確認されていない貝類も発見されています。「埋め立ては不可逆的な自然の改変」(日本自然保護協会)です。埋め立てが強行されれば、この世界的にも稀な貝類の宝庫が絶滅してしまいます。
埋め立ての目的は何でしょうか
大分県の埋め立ての「必要理由書」では、もともとは埋め立てによって緑地や住宅地を建設することが最終目的との説明でした。しかし、美しい海を埋めたてて緑化するという不合理、過疎地に住宅地は必要ないことを裁判で追及されると、理由を一転させて佐伯港の航路のしゅんせつだけに絞り、最後には、地元住民の意思よりも予算の執行を優先するという無茶苦茶な理由で埋立を強行してしまいました。47億円(当初予算では80億円)もかけて大入島の石間地区を埋め立てなければならない理由はまったくありません。
なぜ強制着工なのでしょうか
大分県のいう理由は、地方自治法上予算が繰り越せないからというものでした。しかし、埋立工事がほんとうに必要な事業というのであれば、もう一度予算を計上し直せば済む話であって、住民意思を無視してまでごり押しする理由にはとうていなりません。
漁業権放棄・埋め立て同意はどうなっているのでしょうか
埋め立てには漁業権放棄と埋め立て同意が必要です。しかし、大入島石間浦海岸の漁業権放棄を決定した大分県漁業協同組合の部会手続きは、漁業をしていない人を漁協組合員にして埋め立て賛成者を増やしたり、また説明もしないまま白紙委任状を取りつけ、本人の知らない間に漁業権放棄や埋め立て同意書を作成するなど、その有効性が疑われています。これが真実であるとすると、いわば偽造された同意書をもとに埋立免許の申請が行なわれたことになり、その埋立免許は当然無効です。この問題については、現在大分地裁で係争中であり、少なくとも判決が出るまでは石間浦海岸の埋立工事は着工するべきではありません。
埋立事業を中断、中止すれば、国に補助金を返納しなければならないのでしょうか
大分県当局は、埋立事業を中断した場合、「事業費約2億2千万円の大半は不用額として返納しなければならない」などと、同事業の中断は大分県民の損失であるかのように言っています。
しかし、1998年に自治省(現総務省)は、「(公共事業再評価委員会を開催するなど手順を踏んだものであれば)事業中止時に建設省(現国土交通省)から補助金の返還を求められない」という通達を出しています。きちんとした手順さえ踏んでいれば、国に補助金を返納しなくてもよいのです。
長野県の田中知事が就任早々、建設省出身の自県の土木部長から「いまダムを止めれば200億円の賠償及び助成金の返還が必要」と恫喝された話は有名ですが、もちろん国から返還を求められていません。北海道の堀知事、岩手県の増田知事、鳥取県の片山知事もそれぞれ不用不急の公共事業を止めていますが、国から補助金の返還は求められていません。片山知事は、逆に「中部ダム事業」中止で浮いた財源62億円を使って、2000年の鳥取県西部地方マグニチュード7.3の地震で壊れた「住宅再建費用」に充て、名知事として全国に知られることになりました。
埋立に反対しているのは大入島の一部の住民だけというのはほんとうでしょうか
大分県当局は、同埋立事業を正当化するために、「島にも賛成の住民はおり、反対の住民は地域全体からすれば少数派」であると主張しています。しかし、埋立予定地のひとつである石間区は、総会の圧倒的多数で「埋立問題は一致団結し徹底的に反対する」と決議しています。それを少数派ということはできないでしょう。
たしかに少数の区民は埋立に賛成しました。その少数派のために「新石間区」という行政区が新たに設立されもしましたた。石間区住民によれば、先祖代々からの部落が行政によって二分され、親類同士の争いが生じているといいいます。その責任は誰がとるのでしょうか。
もうひとつの埋立予定地である荒網代区でも、住民の6割から7割が反対の意思を表明しているといわれています。こちらの方も少数派ということはできないでしょう。

大入島には10の行政区がありますが、そのうち区として埋立反対を表明しているのは石間区だけです。しかし、石間区は、総会の圧倒的多数で「埋立問題は一致団結し徹底的に反対する」と決議しているのに対して、他の9区は県が区長に説明しただけです。それをもって「賛成派多数」というのは詭弁というしかありません。現にその9区のひとつである荒網代区では住民の6割から7割が埋め立てに反対しています。あの強制着工を阻止した漁船の多くは荒網代区漁民のものなのです。

大入島埋め立てと佐伯港港湾整備計画の関係はどうなっているのでしょうか
佐伯港湾整備事業は国の直轄事業です。大入島の対岸にあたる佐伯市女島地区に水深14メートル、5万トン級の船が接岸できる埠頭を2つ、3万トン級の埠頭を1つ建設しようというもので、総額約800億円を超える大型公共事業となっています。大入島埋立事業は、その佐伯港湾整備事業によって発生するしゅんせつ土砂の埋立処分場として計画されたものです。
ところで、大入島埋立計画の前提となる佐伯港湾整備事業は、国土交通省の第8次、第9次港湾整備計画「国際海上コンテナターミナル」構想の一環として行われようとしているもので、そのベースとなっているのは、コンテナ貨物量が年率7.6%で伸び、2010年度には2倍から2.5倍になるという希望的観測としかいいようのない需要予測です。
しかし、この5年間の佐伯港の貿易概況を例にとると、その状況は、横ばい、低下傾向すら示しており、総額約800億円を越える新たな公共投資が必要とは思われません。福井港のように411億円もの費用をかけて、利用度が10%程度と閑古鳥が鳴いているところもあります。国の直轄事業といっても、事業の規模に比して巨額の県費を負担しなければなりません。今日の厳しい経済情勢、財政状況下にあって、それほどまでに巨額な公共投資が行なわれる必然性はありません。大分県において「巨費を投じて釣堀を造る」という同じ愚は避けるべきだと私たちは考えています。
大分県の今回の強制着工には、正当な理由のひとかけらもありません。
石間区、荒網代区をはじめとする石間浦住民の抵抗は、完全な「正当防衛」です。
私たちは、大入島の美しい海、地元住民にとっての生活の基盤であるふるさとの海を
大分県民としても守っていかなければならないと思っています。
現時点では工事は一時中断されているとはいえ、工事がいつ再開されるかは予断を許しません。


大入島・石間沖に現れたクレーン台船のまわりには、埋め立て工事を阻止しようとする漁船と、「警戒船」の看板を付けた漁船とが取り囲んだ。
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