能勢町(大阪府)[1999/05]  


左上に煙突がある施設が豊能郡美化センター。右下に2階の建物が見えるが
能勢高校農業課校舎。現在は他の校舎で勉強を行っている。

【簡易説明】
 1988年4月、「豊能郡美化センター」運転開始、設計は三井造船がおこない、三井造船の子会社三造環境エンジニアリングが運転管理業務を委託された。炉のタイプは53t/日、準連続(16時間/日)、流動床式、そして閉鎖型の冷却塔を備えていた。焼却場は豊能郡環境施設組合によって管理される。
 1996年10月、「ごみ処理に関わるダイオキシン類の緊急削減対策」中間報告。この報告のなかで概設炉の排ガス基準値80[ng/m3](ng=10億分の1グラム)が設定される。この値はドイツの基準値0.1[ng/m3]の実に800倍も甘い基準であった。当時放映されたテレビ番組「ザ・スクープ」でも80ngについてコメントを求められたドイツ担当者の驚きの表情が心に残っている。
 1996年11月14日、「豊能郡美化センター」にて1回目の測定が施設組合の手によって行われる。ここでは430[ng/m3]という基準値の実に5倍もの高い値を示す。だがこの測定は三井造船のの自主測定と言う事にし報告はされなかった。
 1997年1月29日、2回目の測定が組合によって行われる。測定にあたり三井造船は三造環境エンジニアリングに@電気集塵機の温度を30〜40℃下げるA空気量の比率を変更するB作業開始前に3時間の空焚きを行うC塩化ビニルを取り除く という指示を行った。あれこれやったのにこの時の値は180[ng/m3]。この値も報告されなかった。
 1997年5月2日、3回目の測定が行われる。そして5月20日に改装工事として三井造船が落札する。落札可価格は15億6千万。3回目の測定結果は6/6日に発表、数値は150[ng/m3]であった。測定結果発表前の改装工事計画、そして談合落札、多いな疑惑を招くこの計画に地元の同意が得られるはずもなかった。住民は(1)工事がダイオキシン対策である事を地元議会に明確に説明しなかった(2)20年のたい用年数の炉なのに設置投書の費用11億円をはるかに上まるのはおかしいとして監査請求を行う。
 この3回目の測定の準備として、@〜Cに加え「ダイオキシンを消毒する」と3日空焚きを行った。あの手この手を尽くしても結局値は下がらなかった。
 1997年6月9日、「豊能郡美化センター」運転休止。
 1997年8月11,12日、施設組合によるダイオキシン類環境調査。11月10日に結果発表、美化センターに隣接する能勢高校栗林土壌2,700[pg/g](pg=1兆分の1グラム)もの土壌汚染が発見される。ドイツでは農場地での基準値は40[pg/g]、スウェーデン・ニュジーランド・カナダでの農場地の基準値は10[pg/g]である。その70倍、270倍もの高い値は人々を驚愕させる。しかしこの数値は序曲でしかなかった。
 1997年12月13日、施設組合による2回目のダイオキシン類環境調査。調整池底質(工場内の雨水などを溜めていた)で23,000[pg/g]、施設南側法面土壌からは8,500[pg/g]もの汚染が検出される。
 1998年7 月15日、厚生省の調査が行われる。結果は9月21日に発表される。冷却水周辺土壌:52,000,000[pg/g]、冷却水残留水130,000,000[pg/l]、冷却水搭周辺床堆積物7,000,000[pg/g]、電気集塵器320,000[pg/g]、施設北側山林土壌:8,800[pg/g] 天文学的数値に人々は驚愕した。ドイツでは「100[pg/g]でも子どものグランドとして使用不可」とされており、能勢の値は想像を超えていた。
 特に冷却水の汚染のひどさが多くの人の注目を集めた。ダイオキシンは油には溶けやすいが、水には殆ど溶けないとされているからだ。冷却水の汚染は水に溶けなくても水によってダイオキシンは移動する事を示唆した(ただし、合成洗剤に含まれている界面活性剤入りの水にはダイオキシンは安易に溶ける)。


1999年9月22日、読売新聞より


 冷却水の構造にも注目が集まった。冷却水は電気集塵器によってちりを除去したガスの@塩化水素を除去するA温度を下げる 事を目的とし循環利用されていた。冷却はファンで空冷するタイプで、開放型(つまり外に安易に飛散する構造)であった。
 焼却炉の焼却条件の悪さ、電気集塵器でのデノボなどにより高濃度のダイオキシンが発生していた。そして冷却水によってダイオキシンが濃縮された。ダイオキシン作製装置である焼却炉が問題なのは勿論だが、安易に汚染物質の濃縮が想像できる冷却水を開放型にした事に大いに疑問を感じる。三井造船側は「能勢は山間部なので開放型にした」と発言。そばに高校の校舎・農場があると言うのにこの発言は許せない。
 現在、焼却炉は日立造船によってダイオキシン汚染除去を目的とした焼却施設解体が行われている。


【感想】
 大阪で開催されたダイオキシン問題・全国集会の能勢見学会に参加した。案内は「豊能郡ダイオキシン公害調停をすすめる会」の方々。
 能勢は美しい山々が目にまぶしいのどかな田舎だ。ふと、自分がいる場所がダイオキシンの高濃度汚染地に来ている事を忘れてしまう。
 まず、清掃工場と能勢高校の間に立つ。ここから8,500[pg/g]の汚染が見つかった施設南側法面が見える。この地点は20[cm]の土壌を除去した。除去面積は230[m2]になる。すでに芝生が青くなっていた。


下部緑色の部分が土壌を除去した場所。現在保管されている。
後ろには能勢高校の農場が隣接している。

 能勢高校の農場は一枚目の写真を見ればわかるが、美化センターに隣接している。秋〜冬にかけて煙が栗林に流れ込む。1993年〜1994年頃から栗の苗木も立ち枯れで育たなくなったそうだ。今までに栗の木は10数本枯れた。ここでは鶏、豚なども飼育したのだが、鶏の受精率が下がったそうだ。ここの動物は人々の口に入らずに処理されたと言う。
 農場内に美化センターの排水が流れているのだが、1994年ころからヘドロが特にひどくなり、魚が突然いなくなってしまった。
 ある先生は当時を振り返り「農作業中に霧状に水が降ってきた、そしてそれは粘り気のある水だった」と言う。開放型冷却水の水だと考えられる。当時どんな管理を行っていたのだろうか。
 農場は1000[pg]以上は20[cm]除去する。そして32〜1000[pg]は教育的配慮をもって40[cm]覆土を行う。運転開始時に教育的配慮は出来なかったのだろうか。


立ち枯れした栗の木。こんな木が何本もある。


 美化センターの北西部には住宅地がある。この住宅地には約140世帯い500人の人々が生活している。能勢では春〜夏にかけて美化センターから住宅に向かって風が吹く。美化センターは山の中腹にあるため煙は山に当たり、山の土壌はかなり汚染されている。ダイオキシン測定でも、施設北側山林土壌では8,800[pg/g]を筆頭に3,900[pg/g]、1,800[pg/g]と高い汚染を示した土壌が確認されている。
 雨の日は、この土壌を多く含む濁流が山を下って行く。そしてその水は住宅地近くを流れて一倉ダムに保水される。この水は下流の人々の飲料水になる。
 住宅地は水圧の関係で半分が地下水利用であるため、多くの住民が井戸水の安全性に不安を抱いていた。環境庁の調査では10mの井戸で0.32[pg/l]の汚染が確認された。組合の調査では70mの井戸で0.0069[pg/l]、0.0096[pg/l]という値が確認されている。水の汚染に対する基準を定めている例は少ないのだがアメリカ環境保護庁では0.013[pg/l]という基準値を定めている。安全を考えると10mの井戸水使用不可だし70m井戸も避けて方が良いだろう。では水道水がどうかというと一倉ダムの水なのでこれも安全とは言えない。飲料水にミネラルウォーターを使用している家庭もあるそうだ。


裏山から住宅地を望む。赤線が住宅地。黒線が雨によって濁流が流れる。
悪天候の為、山からの水量は多かった。


 一行は、「豊能郡美化センター」に入って行く。美化センターは現在日立造船によってダイオキシン汚染除去を目的とした焼却施設解体が行われている。ダイオキシン高汚染施設解体は国内に例が無く、豊能郡環境施設組合が企業から技術を公募し、大阪府の検討委員会が審査を行い、日立造船の案が採用された。
 とは言え、無害化技術は確立していない。作業は建物全体をポリエチレンの難燃シートで覆い、除去面に研磨粒を高圧で吹き付けて汚染物を吸収する。そして作業を行っているポリエチレン内の排気はバグフィルター2基にて行う予定。日立造船の解体費用は約9億円である。


排気を行うバグフィルター


豊能郡美化センターの煙突と開放型空冷装置


開放型空冷装置。美化センターの正面は冷却水が空冷装置から噴霧となって
落ちるため、白い車に黒い斑点がついて汚れた。その為いつも正面駐車場は空
いたと言う。作業中に窓を空けると、外から噴霧が入ってくる事もあったと言う。


 能勢を見ると、行政はとにかくお金をかけて無かったことにしようとしている様にも見える。実際能勢で堆肥化を行う運動が盛り上がりかけた時、行政は堆肥化装置を各家庭に配り、結局住民主体の堆肥化は小さくなってしまった。とても能勢の反省が感じられない。自分たちの管理体制の甘さがダイオキシン高濃度汚染を招いた事を自覚しているのかも疑わしい。
 各地にはダイオキシンに汚染された多くの焼却炉が多数存在する。能勢同様に処理を行うのだろうか。焼却炉周辺の住民はそれを望んでいる。ただし廃炉という新たな問題がわかった今、改めて焼却の必要の無い循環社会を目指さねばならないことが改めて確認された。


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